日本のスタジアムにある「周囲を抑制する動き」 英国人識者が考察…良い雰囲気を守る“ことわざ”

「JSoccer.com」代表で「JSoccer Magazine」編集長を務める英国人のアラン・ギブソン氏【写真:本人提供】
「JSoccer.com」代表で「JSoccer Magazine」編集長を務める英国人のアラン・ギブソン氏【写真:本人提供】

日本のサッカー文化の特筆すべき点にギブソン氏「素晴らしいと思います」

 Jリーグが誕生して30年余り。その間、競技力の進歩に寄与してきただけでなく、独自のカルチャーも築いてきた。この国のプロリーグ誕生前から日本サッカーを観続けてきた、英国人識者のアラン・ギブソン氏に日本のサッカー文化に対する考えを訊いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治/全3回の2回目)

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 海外向け日本サッカー専門サイト「JSoccer.com」を約30年、英字の日本サッカー専門媒体「JSoccer Magazine」を14年にわたって運営しているアラン・ギブソン氏。バブル景気に沸いていた1988年11月にDJの仕事を機に来日すると、日本定住を決めた90年以降は英語月刊誌「Kansai Time Out」で編集業務に携わり、ここから日本サッカーを海外へ発信する活動を本格的に始めた。日本プロサッカーの歴史を誕生前から見つめてきた、海外出身者としては珍しく貴重な存在だ。

 そんなギブソン氏にこの国のサッカー文化についてどう思うか問うと、「色彩にあふれたスタジアムの雰囲気や安全性、グルメ、会場のファンに女性や子供が多いことは素晴らしいと思います」と称賛の言葉が並ぶ。かたや、出身地である英イングランドのスタジアムには“悪い意味での自発性”があると苦言を呈し、「心地良いと思ったことがありません」と手厳しい評価を下す。

「例えば、イングランドで試合中に審判が転倒したとすると『レフェリーに新しいシューズを買ってやれ』と野次が飛びます。一方、日本ではそれについては触れられず、チームへのチャントが止むことなく歌われる。同じ応援の状況が続き、試合の進行に滞りがありません。

 そのほかに、デイビッド・ベッカムが素晴らしいゴールを決めたとしましょう。称賛するファンがいれば、その近くで『デイビッド、足は素晴らしいけど嫁がイマイチだな』なんて野次っている層が一定割合います。日本には『出る杭は打たれる』ということわざがあります。これがスタジアムだと、イングランドのような品のないチャントを歌い出そうものなら『やめなさい』と周囲を抑制する動きとして働くのかもしれませんね」

感銘を受けた日本のファン・サポーターの姿「在籍していた選手が挨拶に来たとき…」

 ギブソン氏は、日本のファン・サポーターの姿も驚きを持って受け止めてきた。

「試合の数時間前にもかかわらずスタジアムに来場してバナーを設置したり、キックオフまですっとチャントを歌っていたりする姿はとても興味深いと感じます。イングランドでは試合に向けたファンの準備も選手へのチャントも、日本ほど熱心ではないという印象です」

 また、チャントに関連して深く感銘を受けた日本のファン・サポーターの姿がある。

「かつて在籍していた選手が古巣サポーターのもとへ挨拶に来たとき、そのプレーヤーのチャントを歌ってあげる光景が大好きなんです。在籍していた選手への感謝やリスペクトが伝わり、『私たちは家族だ』というメッセージを感じます。もちろん試合中はブーイングがあるかもしれませんが、それでも終われば敬意を示します。プレミアリーグの場合だと、移籍した選手はずっと嫌われますが、日本では基本的にそれがないですね」

 サッカーの母国出身者を唸らせ、感動させたこの国のフットボールカルチャー。ギブソン氏の言葉は改めて気づかせてくれる、Jリーグが30年以上にわたり築いてきた歴史と伝統は私たち日本人が誇るべきものなのだと。

[プロフィール]
アラン・ギブソン/1961年生まれ、英バーミンガム出身。日本サッカー専門サイト「JSoccer.com」代表、日本サッカー専門媒体「JSoccer Magazine」編集長。1988年11月にDJとして来日し、ジュリアナグループが運営していた神戸市内のナイトクラブで国内外DJのトレーニング業務を担当。その後に定住を決め、フリーDJとして活動する傍ら英語月刊誌「Kansai Time Out」の仕事を通じてライターの道へ。90年代後半に海外向け日本サッカー専門サイト「JSoccer.com」の運営を開始、2011年には英字の日本サッカー専門媒体「JSoccer Magazine」を創刊した。これら活動以外にも、スタジアムアナウンサーに加え、ヴィッセル神戸やガンバ大阪の英語版サイトの編集なども行ってきた。また、日本最古のスポーツクラブ「神戸リガッタ・アンド・アスレチック倶楽部」に所属し、複数チームでプレーヤーとしても週3~4回ほどサッカーを楽しんでいる。

(FOOTBALL ZONE編集部・山内亮治 / Ryoji Yamauchi)



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