大混戦J2折り返し前に訪れた決戦 “V字回復“2チームが挑む大注目の“6ポイントマッチ”

復調した“大本命”の長崎
J2リーグは第17節まで消化し、シーズンの折り返しが近づいてきた。首位を快走してきたジェフ千葉が最近5試合で1勝2分2敗と足踏み状態に。その千葉との直接対決に勝利したRB大宮アルディージャがベガルタ仙台との上位対決にも勝利して、千葉との差を勝ち点3としている。森山佳郎監督が2年目となる仙台も、ここ10試合は大宮戦が唯一の敗戦であり、順調に勝ち点を伸ばしている。
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周知のとおり、J1昇格のためには2位以内に入るか、3位から6位までの4チームで戦う昇格プレーオフで、3枚目の切符を勝ち取る必要がある。自動昇格を基準に考えると、2位の大宮が勝ち点33まで伸ばしており、勝ち点10差以内には入っていないと現実的に逆転は厳しい。11位の大分トリニータは16試合で勝ち点22なので、今後の躍進次第でギリギリ射程圏と言えるかもしれないが、大宮も1試合少ないので、勝ち点11差を挽回するにはよほど大きな起爆剤が必要だろう。
注目したいのは昨年3位で、開幕前に“大本命”との評判が高かったV・ファーレン長崎の復調だ。3月30日の藤枝MYFC戦に敗れてから低迷が続き、4月は勝利なしで追い込まれたが、大黒柱の山口蛍が復帰したのに合わせて、5月はここまで3勝2分。文字通り“V字回復”で8位まで浮上してきた。首位、千葉との勝ち点差は9だが、現在の調子を持続できれば上位に食い込んできそうだ。
その長崎は、5月に4連勝し5位と躍進している水戸ホーリーホックとアウェーで対戦する。まさしく“6ポイントマッチ”となるが、長崎はケーズデンキスタジアムで過去3年2勝1分と相性は悪くないだけに、自信を持って挑んでくるだろう。水戸はリーグ戦に限ると、第9節で北海道コンサドーレ札幌に3-1で勝利してから8試合、負けなしが続いている。そして5月は4試合に全て勝利しているが、いずれも下位相手だったことを考えても、真価が問われる長崎戦となる。
ここまで7得点4アシストの渡邉新太は4月のJ2月間MVPを受賞。5月も2得点2アシストと水戸の攻撃を牽引しており、長崎戦でチームを5連勝に導くゴールやアシストを記録すれば、2か月連続の受賞も十分にありうる。渡邉のほかにもサイドから鋭い仕掛けで違いを作り出す津久井匠海など、好タレントが森直樹監督のコレクティブなスタイルで躍動しており、ここまで千葉と並んで最多の29得点を挙げる長崎との決戦は両チームのサポーターならずとも注目だ。
上昇気流に乗る磐田が大宮に挑む
その水戸と長崎の試合に勝るとも劣らない“6ポイントマッチ”の意味を持つ大一番が、2位の大宮がホームに6位のジュビロ磐田を迎える試合だ。ジョン・ハッチンソン監督が率いる磐田はアタッキングフットボールを掲げてアグレッシブに戦っているが、長崎と同じく4月はリーグ戦未勝利。アウェーでブラウブリッツ秋田に敗れると、ヤマハスタジアムでは大分に0-3の惨敗、さらに当時19位だったレノファ山口にもホームで0-1の黒星を喫して、3連敗という窮地に追い込まれた。
ポゼッションをベースとする磐田のスタイルを相手に研究、徹底的に対策されたことが大きな理由だったが、そこからボールをつなぐだけでなく、相手の背後を狙うことで攻撃にバリエーションが生まれると同時に、ハイプレスで相手を押し込む時間も増えた。5月は3勝2分と長崎と同じく“V字回復”した。しかも、ルヴァン杯では公式戦で初めて3バックにトライして、J1のガンバ大阪に延長戦の末に2-1の勝利。J2勢では唯一、プレーオフステージに勝ち上がるなど、機運が上向いてきている。そのガンバ戦から中3日で敵地に乗り込んだ徳島ヴォルティスとの試合は、つなぎのミスを突かれて前半の早い時間帯に失点したが、大卒ルーキーの角昂志郎が遠目からのスーパーゴールを決めて、勝ち点1を持ち帰った。
徳島も17試合で7失点という堅守をベースに現在4位、十分に自動昇格を狙えるポジションにいることもあり、磐田サイドとしても勝ち点3を奪いたかったというのが本音であるようだが、大宮から勝ち点3を奪うことができれば、タフな環境の中、徳島戦で掴んだ勝ち点1もポジティブな意味合いに変わってくる。また磐田は大宮戦の後、代表ウィークの期間に、ルヴァン杯プレーオフステージで湘南ベルマーレとホーム&アウェーで2試合、さらに天皇杯の相模原戦もある。大宮戦に勝つことで、良い流れをカップ戦に持ち込むことができるだろう。
一方の大宮にとってはここを勝利することで、危険な昇格ライバルである磐田を突き落とすだけでなく、他会場の結果によっては首位に立つことも可能だ。好調のリーグ戦とは裏腹に、天皇杯で筑波大に敗れて、2回戦負けのルヴァン杯と合わせて、早々にカップ戦が終了してしまった。大幅にスタメンが入れ替わっていたとはいえ、NACK5スタジアムで大学チームに敗れるという屈辱は想像を絶するものがあるが、直後に迎える磐田戦で払拭していきたいだろう。
磐田のキーマンは倍井謙だ。名古屋グランパスから期限付き移籍で加入した気鋭のアタッカーはここまで4得点2アシスト。得意のドリブルだけでなく、背後に飛び出すフィニッシュやクロスで、好調の磐田を牽引する。ただ、徳島戦は自分のミスから失点を招いてしまい、「自分らよりも上位の相手に対して、本当に勿体無い事をしてしまった」と悔やむ。そこには自分のゴールで取り返せなかったことも含まれる。
「あの時も自分が返さなきゃという思いではやってはいたつもりだったんですけど、多分どこかで、ちょっと引っかかっていた部分もあったのかなと思うので。次の大宮は大事ですし、そんなこと言ってられる場合じゃないので。もう忘れて。次また自分がしっかり仕事できるように準備したい」と倍井。ここまでの活躍から見て、大宮戦の活躍次第では5月の月間MVPを受賞することも可能だが、倍井は「自分はチームの勝利のために貢献できたら、結果そういったものが付いてくるとは思うので。ミスを帳消しにできるように頑張っていきたい」と意気込む。
大宮は“古巣対戦”となる杉本健勇の活躍に期待がかかる。磐田のハッチンソン監督は横浜F・マリノスのコーチ時代に、苦楽をともにした杉本について「マリノスで一緒にやってたときも素晴らしいやつで、本当に大好きでした」と語り、対戦を楽しにすると同時に、彼の持つキープ力やゴール前での危険性を警戒している。この大一番の結果で両チームの行く末が全て決まるわけではないが、J2の昇格争いにも大きく影響しそうな“6ポイントマッチ”だ。
(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)

河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。