ブライトンの恩人が語るカオル「いい判断でした」 今も忘れられないもう一人の“日本人”

ブライトンのテクニカル・ダイレクターを務めるデイビッド・ウィアー氏【写真:荒川祐史】
ブライトンのテクニカル・ダイレクターを務めるデイビッド・ウィアー氏【写真:荒川祐史】

三笘が欧州の環境に慣れる手助けをした

 イングランド・プレミアリーグ、ブライトンのテクニカル・ダイレクター(TD)を務めるデイビッド・ウィアー氏が、「FOOTBALL ZONE」のインタビューに応じた。現役時代はプレミアリーグ・エバートンで活躍し、スコットランド代表の主将を務めた名DF。日本代表MF三笘薫の獲得秘話から日本サッカーとの繋がりまで、語ってくれた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎)

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「MITOMA」の名前がブライトンのリストに加えられたのは、新型コロナウイルスが猛威を奮っていた2020年の秋になる頃だった。ブライトンが持つ広範なデータシステムの中で、候補に挙がってきた日本のドリブラーは最高の評価だった。強化部や経営陣らが映像で何度もプレーを確認。一度も、現地でプレーを見ることなく、獲得オファーを出すことを決めた。

「コロナのパンデミック中はそうしなければなりませんでした。もちろん、我々にはスカウトもいるし、試合を見る人もいる。通常は映像と両方を駆使する形です。でも私たちのリクルートは映像が重要です。スタジアムに出かけて1試合を生で見る間に、10試合の映像を見ることができる。近年は映像から深く、多くの情報を得ることができる。我々はそうやって大勢の選手の情報を世界中から集めています。それが私たちの強みだと思っています」

 初めてプレーを見た時の印象は「エキサイティング」。ドリブルの技術はもちろん、相手DFを脅かすスピード、そしてアタッカーとしてのセンス。プレーには何も疑うものはなかった。人間性についても可能な限り、三笘のことを知る関係者に話を聞き、情報収集に努めた。

「我々にとっても、契約を結ぶために、選手の性格を知り、その背景を理解しようとすることは重要なことです。できるだけ多く、その選手を知る人に話を聞き、できる限り多くの情報を得て、その選手がブライトンに合うかどうかを調査し、結論を出すようにしています。カオルについては、我々が得たすべてのフィードバックで、彼がどういう人間であるかという点で、とてもポジティブなものでした」

 三笘にとっては“恩人”でもある。2021年8月に川崎フロンターレから完全移籍で加入した際、英国の労働許可証を取得するため、欧州の他クラブにレンタルで出る必要があった。当時、ローンプレイヤーマネジャーを務めていたウィアー氏は、三笘らと相談した上で、ベルギー1部ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズへのレンタルを選択。何度も三笘のプレーをチェックしにベルギーへ足を運び、密なコミュニケーションをとり、欧州サッカーに慣れる手助けをした。

「ヨーロッパのサッカーに適応するのを助ける必要がありましたが、サン=ジロワーズでのプレーは、いい足がかりになったと思います。日本とプレミアは明らかにレベルが違う。だからまずはベルギーに行かせて、カオルに時間を与えなければならなかった。あのレンタル移籍を経たから、プレミアに適応できたと思うし、いい判断だったと思います。カオルと1対1で対戦したいか? 私にとってはいい結果にならないのでやめておきます(笑)」

ウィアー氏が笑顔で中村俊輔のプレーを回想した【写真:荒川祐史】
ウィアー氏が笑顔で中村俊輔のプレーを回想した【写真:荒川祐史】

今でも強烈に印象に残る日本人選手

 ウィアー氏は現役時代、プレミアリーグのエバートンでデイビッド・モイーズ監督が作り上げた堅守のチームで中心を担った名DF。その後は母国・スコットランドの名門・レンジャーズに移籍。宿敵のセルティックには中村俊輔(現・横浜FCコーチ)が在籍しており、“オールドファーム・ダービー”で何度も対戦した。

「彼は本当に素晴らしい選手でしたし、素晴らしい左足の持ち主だった。僕はレンジャーズで、彼は最大のライバル、セルティックでプレーしていました。そのおかげで非常に痛い思いもさせられた。彼のフリーキックは本当にすごかった」

 2006年6月にはスコットランド代表としてキリンカップで来日した。埼玉スタジアム2002で、ドイツワールドカップ直前だった日本代表と対戦。主将としてフル出場し、久保竜彦や小野伸二を中心とした日本の攻撃陣に得点を許さず、0-0で引き分けた。

「日本代表はいいチームでした。彼らには競争力があった。日本で試合をして、日本を体験し、文化を理解し、英国と全く異なるものを味わったことは、私にとって素晴らしい経験になりました」

 その当時、プレミアリーグでプレーする日本人は中田英寿(ボルトン)や稲本潤一(ウエスト・ブロミッジ・アルビオン)らがいたが、フィジカル、スピードが求められるプレミアの舞台で苦労していた。今では三笘をはじめ、冨安健洋、遠藤航、鎌田大地といった選手が活躍している。

「インパクトを与えられなくても、これまでに何人かの選手が欧州で少しずつ通用したことで、他の選手に自信を与えたと思います。私はスコットランド人なので、中村をはじめ日本人選手がスコットランドで活躍してきたことをしっかりと把握しています。ヨーロッパの他のリーグでも、多くの日本人選手がプレーしている。ドイツをはじめ、他の欧州のリーグでも日本人選手が活躍している。これまでに少しずつ日本人選手が欧州で頭角を現して、欧州のサッカー界が日本の才能に目を向けました。今ではその才能が開花してヨーロッパで通用している日本人選手が大勢います」

 日本代表は来年の北中米ワールドカップの出場権を、開催国以外では最速で手にした。三笘をはじめ、東京五輪世代が中心を担い、W杯優勝を目指している。ウィアー氏の目から、今の日本はどのように見えているのか。

「エキサイティングなものになるでしょう。前回はドイツとスペインに勝ちましたが、今回も世界をアッと驚かすことができると思います。カオルをはじめ、彼らは選手として経験を積み、いい年齢(全盛期)になっています。W杯で上位を目指すには本当にいい機会だと思います。カオルにはぜひW杯という大舞台で活躍して欲しいですし、彼にはその資格があると思います」

(FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎 / Shintaro Inoue)



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