J移籍金問題を解決へ…必要な”第2のポステコグルー” 監督活躍→欧州引き抜きが生む好循環【インタビュー】

Jリーグで実績を残し欧州へ渡ったアンジェ・ポステコグルー監督【写真:ロイター】
Jリーグで実績を残し欧州へ渡ったアンジェ・ポステコグルー監督【写真:ロイター】

「マーケットに入っている以上は何人でもいい」

「日本サッカーの未来を考える」を新コンセプトに掲げる「FOOTBALL ZONE」では、現場の声を重視しながら日本サッカー界のあるべき姿を模索していく。Jリーグが英国・ロンドンにたち上げた「J・LEAGUE Europe」の初代プレジデントに就任した秋山祐輔氏にインタビュー。数々の移籍を手がけた代理人から転身した秋山氏に“移籍金”を上げるための鍵について聞いた。(取材・文=FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎/全3回の2回目)

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 日本人得点王、日本人の最多ゴール、日本人の最多出場……。我々メディアは「日本人の?」とつけたがる。こちらの言い分もある。この枕詞をつけることで、見出しになり、記事にすることができる。世の中に出すための“手段”でもあるわけだが、「日本人の?」に囚われてしまっているのは否めない。そんなドメスティックな筆者が「日本人選手の評価はイングランドでも高まっていますか?」と聞いた時だった。

「その質問に答えるなら、もちろん高まっています。でも日本人の?ってなんだろうって。今、マンチェスターシティのセンターバックはウズベキスタン人(アブドゥコディル・フサノフ)ですから。もうこっちの人たちは何人でもいいんですよ。選手の能力が高ければ。昔みたいに日本人がマーケットに入ってない時は別だったんでしょうけど、今はもうしっかりマーケットに入っている以上は何人でもいいんですよ。日本人だろうが、アフリカンだろうが、ウズベキスタン人だろうが、誰もそんなところで見ていない。ロンドンに来たら分かるじゃないですか。色んなルーツのある人たちがいるわけで、誰がどうとか気にしていないですよ」

 今は世界中の選手たちをデータや映像で見ることができる時代。以前より、選手の情報は手に入りやすくなり、海外移籍は活発になった。だが日本から海外に移籍する際の違約金(移籍金)の金額に関しては、まだまだ改善の余地がある。契約満了で海外に移籍する、いわゆる“ゼロ円移籍”は減ったとはいえ、欧州や南米のクラブが数十億円単位で移籍金を手にするのに比べると、Jクラブに入る金額は圧倒的に少ない。

「例えば、デンマークのブロンビーにいる鈴木唯人がデンマークで活躍したとなったら、日本からの何倍もの価値になってしまう。じゃあ、Jリーグとデンマークリーグに何倍もの差があるかというと、僕はないと思うんです。むしろJリーグの方がいい所がたくさんあると思います」

 ではこの差は何か。Jクラブのビジネス意識だと言い切る。クラブとしては選手に長くいてほしいと思うのは当然だが、日本サッカーのレベルが高くなった今、海外に挑戦したいという選手を引き留め続けるのは難しい。違約金の設定を含め、クラブがしっかりビジネスをする意識を高めることが求められる。

「もちろん、簡単ではないですよ。表現がちょっと誤解されるかもしれないですけど、選手を売ることに対してビジネスする意思、意識を、特に南米やヨーロッパの中でも選手を輸出するクラブは高く持っている。それを何十年もやってきた結果、今があるんです。契約社会なんで、然るべき違約金を取るという作業を、エージェントも巻き込んで、クラブが主導でいかにやり切るかが必要だと思います。そのためにリーグとしてできることはサポートしていきたい」

探せ、第2のポステコグルー

 その一環として、秋山氏を中心に、Jリーグに興味を示している外国人監督をリストアップしている。代理人だった秋山氏だからこそできる“業”だが、これには深い意図がある。

「これまでJリーグから直接欧州に渡った選手で、移籍金が高かった選手を思い浮かべてみてください」

 これまでのトップは540万ユーロ(当時約7億2000万円、金額は推定)でヴィッセル神戸からセルティック(スコットランド)に移籍したFW古橋亨梧だと言われている。ほかにも横浜F・マリノスから加わったFW前田大然、川崎フロンターレから移籍したMF旗手怜央も移籍金は2億円を超えており、“セルティック勢”が高いことが分かる。

「そう、それが1個ヒントだなと思っていて。セルティックはヨーロッパで言えば、メガクラブではないじゃないですか。でも何で高いかって言うと、やっぱり(監督を務めていた)アンジェ・ポステコグルー(現トッテナム監督)なんですよ。彼がJリーグで監督をやって、ヨーロッパに行ったからこそ、しっかり高い金額になるんですよ。だからこのサイクルを意図して作ったらどうなのかなと。然るべきいい監督がJリーグで、2、3年やって、もう一回ヨーロッパに戻る。その監督はJリーグを分かっているから、監督指名で選手が引っ張られる。それこそ、お試しではなくて即戦力としてね。そうすると、相場が上がっていくんじゃないかなと」

 もちろん、移籍金のためだけではない。ヨーロッパのサッカーを知る監督を連れてくれば、戦術的にも色がハッキリする。例えば、サンフレッチェ広島で指揮をとっているドイツ人のミヒャエル・スキッベ監督は、過去にドルトムントやレバークーゼンを指揮していた。スキッベ監督が就任してから、ヨーロッパのクラブから広島に来る選手が増えた。

「代理人として最後の移籍で、広島から川村拓夢を(オーストリア1部)ザルツブルクに出したんですけど、やっぱりザルツブルクからすると、広島のサッカーは安心すると思うんですよ。同じ系統のサッカーをするスキッベのもとでプレーしていたんだから、自分たちの所に来てもできると。監督を媒介にして選手の情報が手に入れることもできますしね。簡単ではないですけど、いい監督を連れてくるサポートができればなと思っています」

 移籍金を上げるのは、一朝一夕にいくものではない。これまでクラブや代理人がそれぞれ“点”でやってきたことを“線”にしようと動き始めたJリーグ。第2のポステコグルーが生まれる日も近いかもしれない。

【プロフィール】
秋山祐輔(あきやま・ゆうすけ)/1974年4月20日生まれ、東京都出身。広告代理店勤務を経て、選手の移籍などを手掛ける代理人(エージェント)に。2007年4月に「株式会社SARCLE」を設立し、これまで大迫勇也(ヴィッセル神戸)、南野拓実(モナコ)、上田綺世(フェイエノールト)ら多くの日本代表選手の移籍に携わった。2024年10月にJリーグヨーロッパのプレジデントに就任。2025年からヨーロッパで活動を開始。

(FOOTBALL ZONE編集部・井上信太郎 / Shintaro Inoue)



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