変革のJ1クラブ「47.4%→59.2%、392本→623本」 顕著な変化も…「そこがジレンマ」【コラム】

ほぼ同じ改革を志した柏とFC東京、シーズン序盤に顕著な変化と綻び
改革には英断と忍耐がつきものだ。
選択した道が正しいとは限らないし、せっかく変革に踏み切っても、結実するまで待てないケースもある。今では大英断と振り返ることができる川崎フロンターレの風間八宏監督招聘も、初年度に3位の成績は収めていたが、本格的にチームが優勝争いをして、それ以上に圧倒的なクオリティーを見せるようになったのは就任から4年目のシーズンだった。
おそらく柏レイソルとFC東京は、ほぼ同じ改革を志した。そのために柏はリカルド・ロドリゲス監督を、FC東京は松橋力蔵監督を招聘した。前者は徳島ヴォルティスをJ1昇格に導き、浦和レッズでは天皇杯は獲得したものの志半ばで退いたから成否の判断は難しかった。後者は、言うまでもなくアルビレックス新潟に鮮烈なポゼッションスタイルを植えつけJ1に定着させた。
シーズン序盤で変化が顕著だったのは柏の方だ。前年までポゼッションが47.4%で14位、1試合の平均パス本数が392本で15位だったチームが、2025年シーズンがフタを開けると59.2%、623.5本(4月10日時点)に跳ね上がり、J1で首位を占めている。
4月11日に国立競技場で行われたFC東京戦でも、63%のポゼッションを記録し、752本と優にFC東京の倍以上のパスをつないだ。3-4-2-1でコンパクトに押し上げていく柏は、攻撃時にはほぼ2バック状態になり、3バックの右に入る原田亘は完全にサイドで崩しの一角を担い、同サイドのウイングバック久保藤次郎やシャドーの小泉佳穂、あるいはボランチの熊坂光希らと絡み、何度か良質なクロスも提供していた。752本のパスの大半はグラウンダーのショートパスで、この狙いはセットプレーやサイドアタックにも一貫し工夫が凝らされていた。
リカルド・ロドリゲス監督が目指すスタイルの骨子は「常に攻撃的にプレーし、攻守に強さを出す」ことだという。実際にゲームを支配し、攻撃し続けることへのこだわりはメンバー編成にも反映されている。
ただし短時間の変革が、すべて奏功しているわけではない。実際に原田が攻撃に出ていく裏は、FC東京の恰好の狙い目となり、俵積田晃太のシュートから均衡が破れたし、何度かの綻びが見られた。
指揮官が吐露「ゲームを支配できるメンバーを送り出すと決定力が不足し…」
柏がボールを支配することで優位に試合を運べているのは事実だ。しかしそれでも「決定機を何度も作れたとは言えない」(ロドリゲス監督)し、圧倒的な劣勢に回ったFC東京は、先制した後も安斎颯馬のFKがクロスバーを叩いたり、ミスパスをカットした遠藤渓太が独走したりしたシーンもあったので、そのまま勝ち点3を持ち去った可能性もあった。
「どんなチームでも、相手が5枚で守備を固めてくれば崩すのは難しい。本当はもっとダイナミックな展開も必要だが、ゲームを支配できるメンバーを送り出すと決定力が不足し、決定力を優先するとバランスが崩れる。そこがジレンマになっている」
指揮官は正直に胸の内を吐露した。確かに終盤に起用された細谷真大は反転の切れ味を取っても別格だし、ジエゴも少なくともゴールを脅かすことにかけては有効なカードだ。ポゼッションが上がっても、1試合平均ゴールは1.1点(昨年は1.0)と同じ水準なので好転しているのは間違いないが、反面これだけ攻勢に進めた試合なら着実に勝ち切れるようにならないと、厳しい状況に直面する可能性もある。
一方、土壇場で追い付かれたFC東京は、さらに深刻だ。3枚のアタッカーが先陣を切る柏のプレスに直面すると、結局はGKまで下げてロングキックで逃げるケースが多く、カウンター頼みの印象に大きな変化はない。一応ポゼッションは、昨年の48.5%から52.4%まで上がっているが、逆に1試合平均ゴール数はリーグ19位の0.7点(昨年は1.4点)まで落ち込んでいる。
何より松橋監督の指揮するチームが、敵将に「5枚で守備を固める」と映ったことが屈辱的なはずで、顛末についても指揮官自ら「あれだけ守備をする時間が長いと疲弊もするし、判断にも影響が出る」と反省の弁を残した。ただしFC東京は、過去にも同じ変革を試み失敗を繰り返した歴史を持つ。当然忍耐や責任の重さは、フロントが共有するべきだと思う。
(加部 究 / Kiwamu Kabe)

加部 究
かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。