J1天王山に表れた強さの根源 1人交代で4つの変化…広島が後半戦に巻き返した理由【コラム】
1つの交代で4つのポジションに変化を加えるサンフレッチェ広島の知略
J1第32節のサンフレッチェ広島vsFC町田ゼルビアは、いわゆる今季の天王山だった。同勝点同士の頂上決戦。結果は2-0、広島の快勝。後半18分、広島はトルガイ・アルスランに代えて新井直人を投入している。その際、4つのポジションで選手が代わっていた。
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3-4-2-1システムの「2」であるシャドーにいたトルガイがアウト、ここにはボランチの松本泰志が入っている。そして松本のいたボランチには3バックの右だった塩谷司が移動。さらに右ウイングバックだった中野就斗は塩谷がプレーしていたセンターバック(CB)右へ。交代出場の新井が中野のいた右ウイングバックに入っている。
1つの交代でシャドー、ボランチ、ウイングバック、CBと4つのポジションが新しくなったわけだ。
この試合でウイングバックとして2アシストした中野はCBとしても優れている。サイドアタッカーとしての速さ、技術だけでなく、CBとしての強さ、高さもあるわけだ。塩谷もボランチ、CBのどちらでもプレーしてきたし、松本もボランチとシャドーのどちらでも重要な選手である。交代したトルガイもボランチとシャドーができる。
こうして見ると広島の選手のほとんどが2つ以上のポジションをこなせていて、GKを別にすれば専業タイプはCBの荒木隼人とセンターフォワードのゴンサロ・パシエンシアくらい。
欧州では過密日程が問題になっている。今に始まったことではなく以前からなのだが、日程は緩和されるどころかどんどん過密化していて、UEFA(欧州サッカー連盟)もFIFA(国際サッカー連盟)も問題を承知しながら試合を増やしているだけ。おそらくいずれアジアもそうなると思う。
3日おきに試合をしなければならないとなると、ターンオーバーしなければ選手が疲弊するし負傷してしまう。実際、欧州ではそうなっている。ただ、現実的に同等の2チームを揃えるのは難しい。そうなると広島のように多くの選手が複数のポジションをこなすことが求められてくるだろう。
また、単純に1人の交代で4つのポジションで選手を入れ替えることで、チームを変化させる効果もある。
広島は補強を活用してシーズン中に進化している。一方、優勝争いをしている町田、ヴィッセル神戸は開幕から同じプレースタイルで変化がない。広島が後半戦で巻き返せた理由は変化にある気がする。
ところで広島vs町田は白熱した良いゲームだったが、つまらないことで話題にもなった。町田がロングスローのために用意したタオルに広島の選手が水をかけて濡らしたという。町田はJリーグに要望書を提出したそうだが、以前に町田はPKの際にボールに水をかけたことで物議を醸していた。どちらも少しでも相手を不利にしようという行為なのだが、ルール上どうかという以前の話だろう。
サッカーの競技規則は17条しかなく、昔から最も重要なのは第18条と言われてきた。コモンセンス(常識)であり、古い言い方をすると「紳士的」であるかどうか。今は男女あるので「紳士」が「スポーツ」に変わっているけれども、紳士であることが原点である。
英国紳士が底意地の悪さや汚さを秘めていたとしても、紳士か否かはサッカーの重要なタテマエだった。それからすると、ボールに水をかけるのもタオルを濡らすのもアウトなのだ。紳士的とは言えず、つまりこの競技を行うに値しないということだ。せっかくの好ゲームに水を差すことになった。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。