埼スタで復活遂げた“希少パス” あの中田英寿にもなかった技…ゴール導く極上のお膳立て【コラム】
7か月ぶりに代表復帰を果たした伊東純也が描く放物線のパス
ペナルティーエリア内に易々と進出でき、敵の最深部で相手を翻弄し振り切れる。日本代表FW陣と中国代表DF陣との実力差は火を見るまでもなく明らかだった。中国の守備網を冷静に交わし、そこから生み出されたサムライブルーのゴールが大量7得点となったことは、両国の力を明確に表している。
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ワールドカップ北中米大会の出場を目指す日本は、アジア最終予選の初戦となった中国戦で快勝した。初戦のプレッシャーから苦戦するライバル国があるなかで、日本は最高のスタートを切ったと言える。
これまで本大会に7回連続で出場を果たし、着実に実力をつけてきている今の日本にとって、アジア最終予選の舞台も、かつての痺れるような恐怖にも似た緊張感は薄れてきている。本大会への出場国が増えていることも、好プレーを妨げる無用な緊迫感を和らげている一因だろう。
それでもサッカーには絶対はない。このスポーツはすべてを可能にする魅力を秘めている。そして、日本は中国に対して実力どおりの差をピッチで示すことに成功した。中国は最終予選に進出してきた国としては拍子抜けするくらい大人しく、日本を混乱させるような抵抗を見せることはなかった。早い時間での失点に意気消沈した中国は、得意の激しいプレーで対抗する気力もなくしてしまったように終始、手応えのない相手だった。
各ポジションにレベルの高い選手が揃う日本だが、彼らにもそれぞれの特徴がある。攻撃の選手ではドリブルやフリーキック、守備ではハードマークやヘディングでの争いと、そうした得意のプレーを持つ選手たちを融合させてチームは作られている。
次々と得点を重ねていく日本にあって後半18分、7か月ぶりに代表復帰を果たした伊東純也が満を持してピッチに立った。伊東の代名詞といえば“イナズマ”と形容される切れの良いドリブルだが、チャンスメーカーとしてのラストパスも目を見張るものがある。この試合でも日本の6点目となった前田大然のゴールを演出している。
擦り上げるようなキックからゴール前へと供給されるハイボールのパスは、ダイナミックで良くコントロールされている。ドリブルで敵陣へと切り込めば相手のマークも厳しくなるが、そうしたチャージに負けることなく、冷静にゴール前へとボールを送るプレーは、伊東の高い技術を証明している。
中田英寿氏のようにグラウンダーのスルーパスを得意とする選手は過去の日本にも存在したが、ハイボールのピンポイントパスを操る選手は少ないのではないだろうか。ゴール前で相手守備陣とつばぜり合いを演じている味方へのピンポイントパスに、空いたスペースへ走り込んでくれという意図が明確に見えるハイボールのラストパスは、高い技術を持った選手が揃う日本のなかでも光彩を放つ。
オリンピックでの名実況になぞらえれば、伊東が描く放物線のパスは栄光への架け橋だ。
(徳原隆元 / Takamoto Tokuhara)
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。