伊東純也が来日で示した“立ち位置” 新監督もべた惚れ…「試合を決める」才能【コラム】
スタッド・ランスは来日して4試合を戦った
日本屈指のスピードスター・伊東純也と日本代表で10戦8発という驚異の数字を残している中村敬斗が両サイドに君臨するスタッド・ランス。彼らの初の日本ツアーが8月3日のヴィッセル神戸戦で幕を閉じ、今週からフランスで調整を実施。8月16日の2024-25シーズン・リーグアン開幕に向け、完成度アップを図っているはずだ。
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改めて今回の日本ツアーを振り返ってみると、彼らは7月22日に来日。24日のジュビロ磐田、27日の清水エスパルス、31日の町田ゼルビア、そして神戸と4試合を消化した。白星は2-0の町田戦のみで、それ以外の3試合は1分2敗という不完全燃焼感の残る結果となった。それでも、猛暑の日本でハードな開幕前キャンプを実施したことは、コンディション調整という意味でプラスに働く部分もありそうだ。
まず前半の磐田と清水の2戦はコンディション面でかなり苦しんだ。
「チームはまだまだ本当に20~30%くらいだと思います。個人的には本当ちょっとずつ上がってきているんで、まだ重かったですけど、50%ぐらいにはなってきているかなと思います」と清水戦後に伊東純也が語った通り、時差ぼけが取れない中、連日35度超の酷暑の中で負荷の高いトレーニングを繰り返せば、疲労が蓄積するのも当然のことだろう。
気温が25度まで下がった町田戦でパフォーマンスが上がったのを見れば、最初の2戦で結果が出なかった大きな要因に環境面があったのは明らか、ラストの神戸戦も厳しい戦いを余儀なくされたが、これからフランスに戻って2週間しっかり調整すれば、個々やチーム状態は確実に上向くはずだ。
そのうえで、取り組まなければいけないのは、いかに得点数を引き上げるか。ウィル・スティル監督が率いていた昨季も総得点42と優勝したパリ・サンジェルマンの81の半分くらいしかなかった。それで9位フィニッシュしたのは上々の出来と言っていいかもしれない。
主要な得点源はキャプテンマークを巻くテディ・テウマ(10番)、最前線に陣取るFWウマル・ディアキテ(22番)、中村、伊東あたりだが、中村も昨季は4点、伊東も3点。数字を引き上げていかなければ、目標のUEFA圏内の6位を現実にすることは困難だ。
「去年は3点しか決めてないんで、もっと点を取るところをまずやらないと。チャンスメイクの部分も引き続きやっていきたいと思います」と伊東が言えば、中村も「4点は正直、少ない。そこは絶対に上回らなきゃいけない」と強調。2人が2ケタを目指していくことがチーム躍進のカギになるはずだ。
そのために、もっと彼らがペナルティーエリア内に侵入する回数を増やしたいところだが、今季就任したルカ・エルスナー監督のチーム作りは始まったばかり。攻撃陣の連動性やコンビネーションも確立できておらず、左サイドの中村がいくらボールを呼んでいても、チームメイトに見てもらえないシーンが数多く散見された。
「日本代表でやっている時よりチャンスが少ないのは間違いない。同じ日本人だと意思疎通もあるし。チームでも中で持った時には必ず最初、純也くんを見ています。それでサイドチェンジできるならしたいし、その回数をもっと増やしたい」と中村は日本人ホットラインを研ぎ澄ませていくことが1つの解決策になると考えている様子だ。
昨季の彼はフランス1年だったため、フィジカルが強く、肉弾戦の多い新たなリーグに慣れることにかなりの時間を使っていた。しかも、10月のカナダ戦(新潟)での負傷、1~2月のアジアカップ(カタール)参戦で不在の時期も多く、フル稼働したとは言い切れない部分があった。
けれども、2年目の今季はチーム内の立場も変化。伊東、テウマ、ディアキテらとともに主軸を担うべき存在になっている。ゆえに中村のところにもっとボールを集め、勝負させるような機会を増やしてほしいところ。
「なんだかんだ試合を決めるのはやっぱり純也くん。結局、純也くんがドリブルでぶっちぎってアシストしているから」と本人は町田戦後にも悔しさをにじませたが、伊東と双璧をなすような状態を作れれば理想的。24歳になった今、中堅プレーヤーに相応しい結果と内容を示すべきなのだ。
伊東純也の立ち位置は「絶対的エース」…31歳がもたらす影響力
そして伊東の方は、新指揮官の下でも絶対的エースと位置付けられているし、それだけの違いを日本ツアーでも示していた。ただ、本人も認める通り、数字が不足しているのは確か。4試合で1アシストだけというのは、いくらプレシーズンと言っても物足りない。彼ならばもっともっとやれるはずだ。
「今の監督は、ウィル監督の時よりは、守備を細かくやっていると思います。結構、選手1人1人と個別ミーティングすることも多い。いろいろと気を使いながらマネージメントしてくれています。今のチームは10代の選手がほとんど。勢いがある時はあるんですけど、そうじゃない時もある。もっと自分が中心となって引っ張っていかないといけないですね」と伊東は31歳のベテランらしい物言いを見せていた。
「我々のクラブは若い選手を育てるというのがモデル。若くポテンシャルのある選手を使うことはとても大事。今は五輪で不在にしている選手もいるが、伊東のような経験のあるクリエイティブな選手を使うことで、ほかのメンバーがそれを真似て、どんどんレベルを上げていける。敬斗も導かれていると思う」とエルスナー監督も発言。チームのけん引役として大きな期待を寄せている様子だ。
ならば、伊東は指示を出して周りを動かし、相手にとって脅威となるような攻撃の形を自ら率先して作っていくべき。もともとマイペースの彼はそういうキャラクターではないが、経験値や攻撃センスはこのチームで頭抜けている。そのストロングを押し出し、「スタッド・ランスを勝たせる男」になっていけば、日本代表の森保一監督も関心を寄せ続けるに違いない。
9月からの2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア最終予選に頭から参戦できるかどうかは未知数だが、このパフォーマンスを維持し、さらに引き上げていけば、代表の戦力から外れることはないはず。本人も「代表への思いは変わっていない」と神戸戦後に語ったというから、早くその舞台に戻れるように、ピッチ上で仕向けていくしかないだろう。
今回の日本ツアー4試合は、スタッド・ランスにおける伊東と中村がどういうタスクを与えられ、仲間とともに取り組んでいるのかを日本国内の多くの人々が知る絶好の機会となった。その分、注目度は高まるはず。そこで2人がチームを活性化し、欧州圏内浮上の請負人になってくれれば理想的。まずは17日(日本時間18日未明)のリール戦を楽しみに待ちたいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。