スタイル酷似…欧州クラブで広がる「新スタイル」とは? スーパーな選手がいなくても模倣可能【コラム】

欧州クラブで広がる「新スタイル」とは?(写真はイメージです)【写真:ロイター】
欧州クラブで広がる「新スタイル」とは?(写真はイメージです)【写真:ロイター】

エッセン対レバークーゼンのプレシーズンマッチ、まるで紅白戦のような類似スタイル

 欧州では来季に向けての準備が始まっている。各地でプレシーズンマッチが行われているが、たまたまエッセン対レバークーゼンを見て驚かされた。

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 エッセンとレバークーゼンが実によく似た戦い方だったからだ。おそらく偶然の一致ではなく、エッセンがレバークーゼンの戦術を採り入れていたのではないかと思う。レバークーゼンは昨季無敗のブンデスリーガ王者、エッセンは3部リーグ所属。レバークーゼンの躍進に影響を受けたと考えるのが自然だろう。

 それにしても、同じチームの紅白戦かと思うぐらい似ていた。

 システムは3-4-2-1で、ものすごくコンパクトな陣形で守る。ハイプレスとミドルプレスの中間みたいな守り方はレバークーゼン特有だったのだが、むしろエッセンのほうがよりコンパクトだった。

 3バックと2ボランチの5人が近い距離感でビルドアップをするのも同じ。近い距離のワンタッチパスはテンポが速くミスも出にくい。後方の5人で相手を引きつけ、特に相手ボランチを釣りだすことで、MFとDFの隙間を広げてそこに縦パスを刺すという狙いもそっくり。個々の力量はさすがに差があるものの、戦術的には全く同じと言っていい対戦になっていた。

 プレミアリーグのブライトンはレバークーゼンとよく似た仕組みのチームである。

 デ・ゼルビ監督が退任したあとも戦い方は変わっていない様子だったが、そのデ・ゼルビが新監督となったフランスのマルセイユが早速ブライトン化しているようなのだ。監督が代わればプレースタイルも変わるものだが、あの特殊な戦術を短期間で習得できるのかと少し心配になる。

 細部はレバークーゼンとは異なるけれども、ブライトンのビルドアップも距離を縮めた後方のグループでキープして引きつけ、ひっくり返すという狙いは同じ。コンパクトな守備も共通している。

 欧州選手権(EURO)2024ではベスト8入りしたスイス代表がレバークーゼン、ブライトンと似たスタイルだった。ドイツ3部のチームがコピーしていて、監督とともにイングランドからフランスに伝播されている現状からすると、欧州クラブのレバークーゼン化、あるいはブライトン化はかなりの勢いで進んでいるのかもしれない。

かつては「ミラノ詣で」、バルサ化のほとんどは失敗に

 1980年代の終わりにアリゴ・サッキ監督がプレッシング戦法をACミランで始めた時、各国の指導者がミランのトレーニングセンターに見学に押し寄せる「ミラノ詣で」があった。ただ、プレッシングが広く普及したのはしばらくあとだ。10年経たずにどのチームも採り入れる戦術になったわけだが、それなりの時間はかかっている。

 FCバルセロナがジョゼップ・グアルディオラ監督の下、センセーショナルなポゼッション・サッカーを開始したのは2008年。やはり多くの模倣者を生み出したが、こちらはプレッシングほど普及せず、バルセロナ化のほとんどは失敗に終わっている。それでも10年経過すると、ポジショナルプレーの理論とともにそれなりに浸透してきた。

 一方、レバークーゼン化はわずか1年経たずに広まりつつあるようで、スピード感は異様に速い。インターネットの発達のおかげかもしれないが、模倣しやすさ、スーパーな選手がいなくても効果を期待できそうなところが、中堅以下のクラブの需要に合っているのではないか。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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