日本代表MFが海外移籍…広島が解決すべきボランチ問題 指揮官、判定“怒り”の一戦から上昇できるか【コラム】

横浜FM戦でスキッベ監督は判定へ怒りを露わにしていた【写真:徳原隆元】
横浜FM戦でスキッベ監督は判定へ怒りを露わにしていた【写真:徳原隆元】

横浜FM戦でスキッベ監督は判定へ怒りを露わにしていた

 最大級の皮肉を込めながら、ひと言を残さなければ気が済まなかったのだろう。試合終盤に連続失点を喫し、横浜F・マリノスに無念の逆転負けを喫した直後の公式会見。サンフレッチェ広島を率いるミヒャエル・スキッベ監督は勝者を称えた上で、試合を裁いた池内明彦主審の名前をおもむろにあげた。

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「池内さん、イエローカードのシーンとその後のレッドカードのシーン、おめでとうございます。あれが試合を決めました。自分たちは耐え忍んでいましたが、最後はやはり耐えきれなくなってしまった」

 マリノスがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)決勝に進んだ関係で、未消化となっていたJ1リーグ第13節が19日にニッパツ三ツ沢球技場で行われ、2-3で敗れた広島が連勝を2で止められた。

 開始わずか2分にFW加藤陸次樹のゴールで先制した広島だったが、27分にFWヤン・マテウスに同点ゴールを決められる。迎えた後半7分。カウンターから広島ゴール前へ迫ったMF天野純が切り返したところを、MF満田誠が倒してしまう。前半21分に警告を受けていた満田へ、再びイエローカードが提示された。

 早い時間帯にイエローカードをもらっていた満田を、リスクマネジメントを徹底する意味で、たとえばハーフタイムに代える選択肢はあったのか。スキッベ監督の答えには、微妙な判定に対する怒気がにじんでいた。

「マコ(満田)を代えるよりも、審判を代えてほしいと思っています」

 10人での戦いを余儀なくされた広島は、相手のミスで巡ってきた同32分の千載一遇のチャンスを生かす。マリノスが自陣の左サイドでえたスローインでDF渡邊泰基が手を滑らせ、コントロールが狂ったボールをFW大橋祐紀がカット。そのままドリブルで突破し、2人をかわした末に豪快な勝ち越しゴールを突き刺した。

 4月28日の川崎フロンターレ戦以来となる、今シーズン8ゴール目を決めた大橋が振り返る。

「試合の入りから前半の中盤で失点するまでは、自分たちの形を出せている場面もあった。失点してからは相手の勢いがちょっと増した部分もあったし、そのなかで厳しい判定もあったけど、戦う姿勢は示せたと思う」

 後半に広島が放ったシュートは大橋の1本だけ。最後はマリノスの圧力に屈した。後半42分。スローインから左サイドを崩され、ポケットを突いたFW宮市亮の折り返しをFWアンデルソン・ロペスに押し込まれた。

 後半15分から右ウイングバックとして途中出場。その後に左ウイングとして投入された宮市と、対面でマッチアップを繰り返した広島のアカデミー出身の20歳、越道草太は同点とされた場面でボールをもつマリノスのMF喜田拓也に気を取られるあまりに、自身の背後に走り込んできた宮市に気づくのが遅れたと悔やんだ。

「宮市選手はスピードがあるので、7割は縦を切るようにして、カットインさせようと意識していました。同点とされた場面では、自分がもうちょっと首を振っておけば防げたと思っています。周りが見えていなかったというか、正直、ボールウオッチャーになってしまったところがあった。そこが悔しい」

 後半アディショナルタイムに入る直前には、マテウスに今度は逆転ゴールを決められた。渡邊のグラウンダーのクロスを、広島ゴール中央でFW植中朝日がスルー。後方でボールを受けたロペスもヒールパスを選択し、広島の守備陣を揺さぶったところへ、あうんの呼吸で走り込んできたマテウスが利き足の左足を振り抜いた。

 ゲームキャプテンを務めた35歳のベテラン、DF塩谷司が残り数分での試合運びを悔んだ。

「退場したら退場したで、踏ん張って勝ち点1をもち帰ろうとみんなで話していた。そのなかで、セットプレーを含めてワンチャンスがあれば、という意思統一もできていたし、オオちゃん(大橋)が1点を決めたところまでは、自分たちのなかではもうプラン通りというか、理想的な展開ではあったんですけど……あそこで最後まで守り切るしたたかさというか、強さというのがまだまだ自分たちには足りなかったと思っている」

 広島にとっては正念場となる一戦だった。DF荒木隼人とDF山﨑大地が怪我で離脱し、キャプテンのDF佐々木翔も累積警告で出場停止。日本代表の6月シリーズに招集されたボランチの川村拓夢も海外移籍へ向けて、東京ヴェルディとの前節をもってチームを離脱した。オーストリアの強豪ザルツブルク移籍が有力視されている。

 ドイツ代表でヘッドコーチを務めた経験をもつスキッベ監督も、複数の主力を欠く状況を思わず嘆いた。

「現状で隼人(荒木)がいない、大地(山﨑)がいない、翔(佐々木)が累積でいない、そして拓夢(川村)もいない。特にディフェンスの選手が少ない状況で、これが耐え切れる限界なのかなと。選手個々はリーグでも上位にランクされるのに値すると思っているが、チームとしては1人、2人と欠けていくと、全体的な強さがどんどん失われていってしまう。限られたメンバーで戦っていかなければいけないクラブだと思っている」

 指揮官自身は「意識していない」と苦笑するが、今シーズンの開幕前の時点で、スキッベ監督のもとで2シーズン続けてJ1リーグの3位に食い込んだ広島を優勝候補に推す声は多かった。大型補強で注目された浦和レッズに快勝した開幕戦後には、戦術の浸透度の高さとあいまって評価はさらに急上昇した。

大迫敬介が明かすボランチの人選「チャンスが巡ってくる選手も」

 シーズンの折り返しを目前に控えた段階で、広島の3敗は全20チームのなかでもっとも少ない。一方で引き分け数が8と2番目に多く、なかなか勝ちきれない試合が続いた点が、首位をキープする町田に勝ち点で9ポイント差の5位と離されている要因でもある。ただ、その町田に初黒星をつけたのは広島だった。

 18試合でマークした総得点34は、町田と鹿島アントラーズに3点差をつけるリーグ最多。総失点19もガンバ大阪とヴィッセル神戸、町田、アビスパ福岡に次いで少ない。放ったシュート数283本はリーグ最多で、相手に放たれた被シュート数140本は同最少。一連の数字が広島の強さを物語っている。

 川村とともに森保ジャパンに名を連ねる、守護神の大迫敬介も「まだ何も終わっていない」と前を向く。

「退場者が出るまでは自分たちのスタイルを出せていたし、マリノス相手にアウェーで五分五分のゲームができていた。これからも自分たちのスタイルは変える必要はないけど、個人的には失点が続いているところも含めて、そこを改善できれば逆に勝ち点3を拾える確率は上がると思っている。自分たちが対策される、という試合もあると思いますけど、相手の対策を上回るだけのクオリティーを出していきたい」

 シーズンの折り返しとなる22日の次節は、再び敵地で柏レイソルと対戦する。佐々木が復帰する一方で、マリノス戦でボランチを務めた満田が出場停止となり、野津田岳人はタイのパトゥム・ユナイテッドへ移籍した。

「もちろん頭のなかにはあるが、この場で話すことではないと思っている。ひとつ嬉しいのは、佐々木翔が戻ってこられること。守備を再び強固なものにしながら、次の試合に向けて準備していきたい」

 ボランチの人選を問われたスキッベ監督は明言を避けた。指揮官の思いを汲むように大迫が言う。

「もちろん拓夢(川村)がいなくなった穴は痛いけど、それを埋めるだけの選手もウチには多くいる。逆に拓夢がいなくなったことでチャンスが巡ってくる選手も出てくると思う。不幸中の幸いというか、中2日で次の試合がすぐにくる。黒星を引きずっている暇もないし、次の試合へ向けて切り替えていきたい」

 佐々木が復帰する最終ラインは混乱をきたさないだろう。問題は松本泰志と組むボランチを誰にするのか。限られた時間でチームの士気を上向かせるメンタル面でのアプローチを含めて、広島の底力が問われようとしている。

(藤江直人 / Fujie Naoto)



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藤江直人

ふじえ・なおと/1964年、東京都渋谷区生まれ。早稲田大学第一文学部卒業後に産経新聞社に入社。サンケイスポーツでJリーグ発足前後のサッカー、バルセロナ及びアトランタ両夏季五輪特派員、米ニューヨーク駐在員、角川書店と共同編集で出版されたスポーツ雑誌「Sports Yeah!」編集部勤務などを経て07年からフリーに転身。サッカーを中心に幅広くスポーツの取材を行っている。サッカーのワールドカップは22年のカタール大会を含めて4大会を取材した。

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