U-23日本代表、五輪OAメンバー不採用が「最善策」 招集難航で提言…若手の経験“積ませる場”【コラム】
パリ五輪本大会に向け、OA枠メンバーの招集が難航
「パリ五輪のオーバーエージ(OA)枠については、(所属先との交渉などに)長い時間をかけて丁寧に進めている。一方で、沢山のハードルがある。A代表の選手たちは今回、移籍する可能性が高い選手が多い。移籍先が決まったとして、そこから交渉に入っていく形になるので、そこのハードルはかなり高い。難しさを極めている」
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日本サッカー協会の山本昌邦・ナショナルチームダイレクター(ND)が5月30日に行われた6月アメリカ遠征に挑むU-23日本代表メンバー発表会見で苦渋の表情を浮かべたとおり、パリ五輪で24歳以上の選手登録を3人だけ認める、いわゆるOA枠メンバーの招集が非常に難航している。
3年前の2021年夏に行われた東京五輪の時は6月シリーズに挑む前に吉田麻也(LAギャラクシー)、酒井宏樹(浦和レッズ)、遠藤航(リバプール)の3人の参戦が決定。6月から五輪世代の活動に参加し、しっかりと融合を図ってから本番に挑むことができた。
それは、あくまで自国開催の五輪に対し、多くの欧州クラブが譲歩してくれたから。今回は全く状況が異なり、快く招集に応じてくれるクラブがほとんどないのが実情のようだ。
パリ世代の久保建英が在籍するレアル・ソシエダ、鈴木唯人が在籍するブレンビーでさえも拒否したのだから、OAとなればハードルはさらに上がる。前々から有力候補とされてきた板倉滉(ボルシアMG)や町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)らも候補から外れたと言われ結局、OAを使うとしてもA代表の主力級は呼べない可能性が高そうだ。
そんな形で人選が二転三転しているのなら、もはやOA枠を使わないというのが最善策のように思えてくる。実際、パリ世代と一緒にプレーしたことのない選手を大会直前にチームに入れても、うまく融合できるという保証はない。
一説によれば、4~5月のU-23アジアカップ(カタール)の際、いい形で援護射撃した谷口彰悟(アル・ラーヤン)がDFの有力候補となっていると言われるが、その谷口でさえも、現メンバーで共闘しているのは、鈴木彩艶(シント=トロイデン)、高井幸大(川崎フロンターレ)、藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)、細谷真大(柏レイソル)ら数人だけ。守備陣との連係をいちから構築しなければならないとなれば、非常に難易度が上がる。
そういったリスクを勘案すると、やはり今回はパリ世代だけで挑んだほうがベターだと言えるのではないか。
「パリ五輪ではメダルを狙う」と公言している大岩剛監督にしてみれば、戦力ダウンは否めないだろうが、先々を考えるとこの世代の底上げになるのは確か。メダルを獲りに行く以上に2001年生まれ以降の世代に大舞台の経験をさせ、1人でも多くの選手をA代表に引き上げることに意味がある。
北京五輪ではOA枠採用せず本大会で惨敗も…
過去の例を見ても、A代表クラスのOA枠を使おうとして、所属クラブに断られた2008年北京五輪はU-23世代だけで参戦。グループリーグでアメリカ、ナイジェリア、オランダに3連敗し、勝ち点1も取れず大会から去ったが、当時の主力だった本田圭佑を筆頭に、長友佑都(FC東京)、岡崎慎司(シント=トロイデン→引退)、内田篤人(JFAロールモデルコーチ)らはのちのA代表の主軸になった。
「北京五輪代表18人のうち、A代表になれなかったのは、梶山陽平(FC東京スクールコーチ)1人だけ」と指揮を執った反町康治監督(現・清水エスパルスGM)も語っていたが、近未来の日本サッカーを担う人材を数多く輩出したのは事実。それは北京五輪でメダルを獲得すること以上に重要だったはずだ。
今回のパリ世代はコロナ禍の影響で2021年のU-20ワールドカップ(W杯)が中止になるなど極端に国際経験が少なく、U-23アジアカップ前にもその点が大きな懸念材料となっていた。彼らはそれを跳ね除けてアジア王者に輝き、短期間で大きな成長を遂げた。藤田や関根大輝(柏)のように「9月から始まる2026年北中米W杯アジア最終予選のメンバーに引き上げるべき」といった声が高まっている人材も出てきている。
その流れを加速させるべく、パリ五輪もこの世代だけでぶつかり、ハイレベルな国際経験を積み重ねていけば、藤田や関根はさらに大きく伸びるだろうし、それ以外にもA代表に割って入れる選手が出てくるかもしれない。今の森保一監督率いるA代表は明らかに東京世代偏重で、このままいくと若返りが遅れてしまう。そうならないためにも、パリ世代には一気に台頭してほしい。今回の五輪を飛躍の場にしてもらえれば理想的だ。
五輪好きの日本人はこの大会を特別に重要視しがちだが、サッカーの世界ではあくまでU-23の世界大会。FIFAのインターナショナルマッチデーでもないのだから、ベストメンバーで挑んでくるのは、国内に規定のあるスペインくらいで、大半の強豪国がベストメンバーを送り込んでこない。多くの国のトップ選手が欧州5大リーグに在籍していて、招集できないという事情があるからだ。
日本もある意味、そういう国々に近づいてきたということ。これからは「五輪はU-23世代に高度な国際経験を積ませる場」と割り切って、OA枠は使わないという方向性に舵を切ることを考えるべき時期に来ているのかもしれない。今回のOA招集、欧州組招集の混乱を踏まえ、JFAとしても何らかの方針を示す必要がありそうだ。
いずれにしても、大岩監督には6月シリーズのアメリカ遠征に帯同させたメンバーで戦うという覚悟を固めてほしいところ。パリ世代が2年後の北中米W杯で数多くメンバー入りしている状況をぜひとも期待したいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。