J1リーグ「初昇格即初優勝」快挙に現実味 “繊細かつ緻密”の町田に追い風…難敵はパリ五輪?【コラム】

浦和を撃破した町田イレブン【写真:Getty Images】
浦和を撃破した町田イレブン【写真:Getty Images】

「なかなか町田では見られない形」の浦和戦ゴール、背景に繊細なスカウティングと読み

 引き分け濃厚な試合に決着がついたのは後半アディショナルタイム6分だった。

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 アウェーのFC町田ゼルビアは、宇野禅斗から出たボールを平河悠がペナルティーエリアに侵入するナ・サンホへとスルーパスを通し、そこで対応した浦和のアレクサンダー・ショルツの足がかかりPKを獲得した。キッカーは対戦相手の浦和レッズからレンタル中のために起用できない柴戸海に代わって出場のチャンスを得た下田北斗。この日大半のセットプレーで精度の高いキックを見せ続けた下田は、GK西川周作にコースを読まれながらもサイドネットを揺らし、土壇場で貴重な勝ち点を上積みした。

 実はこのシーンだけでも町田の強さが凝縮されており、決勝点には後半から交代出場したナ・サンホと宇野が絡み「(試合に)出た時に何ができるかが重要」だと話す下田がピリオドを打った。結果を出し続けるチームだからこそ厳しい競争があり、信頼度の高い実働戦力に厚みがある。黒田剛監督も交代策に「かなり模索した」と語ったが、結果的には歯切れの良い決断で先手を打ち拮抗したゲームを勝ち切った。

 首位の町田にとって、戦力が豊富で最近4戦負けなしと巻き返しの兆候が見える浦和は、後半戦に向けてライバルになりかねない相手だった。しかも3万9460人を収容したゲームで、町田のサポーターは2000人と圧倒的なアウェー戦である。しかし「声が通らないことも想定して通常以上に戦術理解を深めて1週間準備をしてきた」ことを勝因に挙げる平河は「すごく楽しかったし、少なからず自信になった」と破顔一笑だった。

 センターバック(CB)の背後に走り込み、ナ・サンホのスルーパスから先制ゴール。また終了間際には、一瞬の間合いと隙間を逃さずPKにつながるパスを差し込んだ判断。2ゴールのどちらにも重要な貢献を見せた平河自身が「なかなか町田では見られない形」と振り返ったが、その背景には繊細なスカウティングと読みがあった。

「浦和の2人のCB(ショルツ、マリウス・ホイブラーテン)とGKに西川選手がいることを考えれば、対人で勝ってクロスを上げても入らない。いつも以上にクロスの精度、エリア内のえぐり、対面するサイドバックの弱点を突けるか……。それが大事だと選手間でも話し合っていたんです。先制シーンは、サンホと目が合いCBの裏が開くと思って走った。一瞬の隙を突けたことが勝敗を分けました」

夏場に一層加速も…「自分たちがやるべきことやって負けたことはない」

 後半開始から左ウィングの藤本一輝に代えてナ・サンホ。オ・セフン、藤尾翔太でスタートした2トップは、途中からミッチェル・デュークとエリキに交代。質の落ちない2チーム分の戦力を抱えながらシーズン途中での引き抜きの心配がほとんどなく、これなら夏場には一段と加速しても不思議はない。

 改めて平河が言う。

「走って戦って、自分たちがやるべきことやって負けたことはない。実際僕は広島以外に負けていませんから」

 確かに平河、藤尾が不在だった五輪最終予選中に2敗をしているので、強いて町田の難敵を挙げれば五輪の活動になるのかもしれない。

 しかし先日終幕したばかりのAFCチャンピオンズリーグ(ACL)に出場したチームは軒並みで出遅れており、後半戦からは追走するヴィッセル神戸やサンフレッチェ広島にも同じように厳しい負荷がかかる。現状では、後半戦へ向けても町田には追い風の要素が目立つ。

 昨年の神戸と比べても、中心選手たちの強烈な個では若干見劣りしたとしても、依存傾向は薄く戦術的な幅もありスカウティングも緻密だ。このままだと誰も予測できなかった初昇格即初優勝の快挙が、徐々に現実味を増していきそうな気配である。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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