ACL初の決勝進出も「僕が何かをやった大会ではない」…横浜FM“今季加入組”が抱く感謝の思い【コラム】

横浜FMがACLの決勝へ【写真:徳原隆元】
横浜FMがACLの決勝へ【写真:徳原隆元】

横浜FM、蔚山現代(韓国)とのACL準決勝を制してクラブ史上初のファイナル進出

 横浜F・マリノスはAFCチャンピオンズリーグ(ACL)準決勝第2戦で蔚山現代(韓国)に3-2で勝利した。アウェーで1-0と敗れた第1戦との合計スコア3-3となり、延長戦でも決着が付かずPK戦にもつれ込んだ。横浜FMは5人全員が決めた一方で、蔚山の5人目をGKポープ・ウィリアムが止めてACL東地区の頂点に立つとともに、クラブ史上初のファイナル進出を決めた。

 強い雨の中で行われた試合は序盤のゴールラッシュで横浜FMが3-1とリード。しかし前半40分にセンターバックのDF上島拓巳がペナルティーエリア内のハンドを取られてPKを献上、さらに一発退場を命じられた。このPKを決められ合計スコアが振り出しに戻ったうえに10人での戦いを強いられてしまう。そこから蔚山はサイドを起点にクロスボールを入れるなど、怒涛の攻撃を見せた。

 しかし、守護神のポープを中心としたディフェンスが敢然と立ちはだかり、120分間で40本を超えるシュートを打たれながらも、10人になってから結局、1点も与えることなく約80分間を耐え切った。PK戦を含むファイナル進出の立役者であるポープは「自分の中でいろんなことを思い返しながら、あのPKの場面を迎えられたので。そういう悔しい思いだったりとか、辛い時期を乗り越えてきた自分自身のことだったりとか。パワーになりました」と感慨深そうに振り返った。

「GKも4人いて1人しか出られないですし、そういうなかで本当に、どれだけ自分を信じるか。どれだけ日々を過ごしていけるかが大切なので。自分も川崎フロンターレを出てから、本物のレベルを知れて、そこに追いつきたい、追い越したいという気持ちを持って3、4年……5年ぐらいですかね。毎日、地道にやってきたので。それがこういう舞台につながった」

 そう語るポープは東京ヴェルディのアカデミーからFC岐阜、川崎を経て、大分トリニータ、ファジアーノ岡山、そして過去2年はFC町田ゼルビアに在籍。昨シーズンは町田のJ2優勝を支えた1人だったが、ポープは「最後はJ2のベンチだったので。そういう中でも自分を信じて」と、当時の悔しい気持ちを振り返った。

 そうした経験があるからこそ、新天地で熱心にポープを指導している“シゲさん”こと松永成立コーチや“テツさん”こと榎本哲也コーチに対する感謝はもちろん「出てないキーパーを代表して結果を出せたことは嬉しい」という言葉が、ポープの口から出たのだろう。そしてもう1つの思いが彼にはある。現在Jリーグは春秋制で行われているが、ACLは前回大会から秋春制に移行しており、Jリーグのサイクルからすると、ACLは2シーズンを跨いで開催されていることになるのだ。

 つまり昨年は町田でプレーしていたポープのような選手は昨年秋から冬にかけて行われたグループステージを戦っていない。当時、横浜FMのゴールマウスを守っていたのは現在ガンバ大阪で守護神を担うGK一森純だった。その一森も横浜FMで「GKとしてのすべてを成長させてもらった」と語るが、期限付き移籍の満了に伴い、G大阪に復帰する道を選んだ。

「やっぱり僕が何かをやった大会ではなかったので。決勝トーナメントからになりましたけど、いろんな人の思いが積み重なって、ここまで来れていると思います。本当に、そこに対しては感謝してます」

守護神ポープと同様、決勝進出へ人一倍感謝の思いを口に…

 そう言葉を結んだポープと同様の思いを持っている男がいる。2022年から韓国の蔚山と全北現代でプレーし、3年ぶりに復帰した天野純だ。今回は古巣である蔚山との因縁深い試合となり、アウェーの第1戦はもちろん、横浜FMのホームだった第2戦でも蔚山のサポーターから容赦ないブーイングが飛んだ。天野は「逆に愛されてる証拠だな」と笑顔で振り返った。

 延長前半15分からの登場となった天野は1人少ない状況で、チームの疲労感も強まっているなかで「しっかり守備から入ることだったり、エナジーを注入するところ。あと個人的には自分が持ったところでチャンスが作れると思っていた」と語るように、精力的にボールを追うだけでなく、カウンターの起点になることで、相手の波状攻撃を防ぐ役割を果たした。そしてPK戦では4人目のキッカーをきっちりと務め、直後に蔚山の5人目キム・ミヌのキックをGKポープがストップする流れに導いた。

「本当に一筋縄では行かない大会だなというのを痛感しましたし、あれだけの展開を前半の最初に作って、前後半で全く真逆、全く別物のチームになってしまった。この大会がそうさせてる部分もあると思うし、決勝はさらに難しくなると思う」

 そう語る天野だが、横浜FMに復帰する前に2年前のリーグ優勝でACLの権利を獲得したり、グループステージ突破に貢献した選手たちに向けて「去年からいてくれた選手がここまでつないでくれたと思うし、逆に僕は去年いなかった。移籍して去った選手の思いというのもしっかりと受け継ぎながら、責任持ってやらないといけないと思うし、今日はエモーショナルな試合でした」と感謝の気持ちを示した。

 昨年クラブに在籍した選手をはじめ、横浜FMに関わってきた“マリノス・ファミリー”すべての人たちの思い、そして同じ大会で頂点を目指しながら、志半ばで敗れた浦和レッズ、ヴァンフォーレ甲府、川崎フロンターレの思い、さらにACL出場による日程延期に協力してくれたG大阪や柏レイソルなど、さまざま思いを乗せて、トリコロールはアジア王者を懸けた最後の戦いに挑んでいく。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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