新星17歳MFが目指すべき“落選組ルート” 日本に一筋の光…A代表入り必須の条件とは?【コラム】
清水の17歳MF西原源樹はクラブ最年少ゴール記録を更新
44歳の遠藤保仁(ガンバ大阪コーチ)、42歳の松井大輔(横浜FCスクールコーチ)、40歳の長谷部誠(フランクフルト)、38歳の岡崎慎司(シント=トロイデン)と、今年に入ってから一時代を築いた名選手の引退発表が相次いでいる。
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「去る者がいれば、来る者もいる」というのがサッカーの世界。彼らがスターダムにのし上がった2000年代半ばから後半にかけて生まれ、ボールを蹴るようになった10代の若いタレントが今季、徐々に頭角を表しつつある。
J1を見渡すと、インドネシアで行われた2023年U-17ワールドカップ(W杯)に参戦した佐藤龍之介(FC東京)が4月21日の町田ゼルビア戦でJ1デビュー。彼と共闘した中島洋太朗、井上愛簾(ともにサンフレッチェ広島)もすでにJリーグの舞台に立っている。
J2の方では、2006年生まれの彼らより1つ下16歳・神代慶人(ロアッソ熊本)がここまで4ゴールと得点ランキング7位タイというビッグサプライズを披露。未来の大器と目される2023年U-17W杯のエースFW道脇豊(熊本)もすでに1ゴールをマークしている。
こうした面々に割って入ろうとしているのが、17歳のMF西原源樹(清水エスパルス)。彼は4月20日のベガルタ仙台戦で決勝弾となる3ゴール目を叩き出したのだ。
そのシーンは後半38分。山原怜音からパスを受けた背番号44は、相手DF小出悠太らを巧みにかわし、右足を振り抜くという冷静なプレーで3連勝の原動力となった。石毛秀樹(G大阪)が持っていたクラブ史上最年少得点記録を更新した若武者に対し、秋葉忠宏監督も「彼はエスパルスの申し子なのかなと。末恐ろしい17歳が出てきた」と絶賛していた。
「自分的にいい感じに決められたんで良かったです。とりあえずファーと決めていて、体を開いて、打った感じです。練習でやっていたことが成果に出ているんじゃないかと思います」
多くの報道陣に囲まれた西原は、恐縮しながら歴史的ゴールの瞬間を振り返っていた。 西原にとって大きかったのは、勝利した相手・仙台の指揮官が森山佳郎監督だったこと。ご存知の通り、森山監督は2015~2023年まで日本サッカー協会でU-17日本代表監督を4世代にわたって務め、久保建英(レアル・ソシエダ)、菅原由勢(AZアルクマール)、中村敬斗(スタッド・ランス)らA代表に上り詰めるタレントも送り出している。
育成年代のスペシャリストはもちろん西原のこともチェックしていて、2022年のAFC・U-17アジアカップ予選(ヨルダン)や2023年の広島国際ユース大会などにたびたび招集。本大会メンバー発表直前だった9月のフランス遠征にも呼んでいる。
11月のU-17W杯本大会も最終選考のテーブルには乗せていたはず。だが、同じアタッカーに佐藤龍之介や吉永夢希(ゲンク)、名和田我空(神村学園)といった面々がいたことから、最終的に選外という決断を下すことになった。
「何度か呼ばせてもらって、すごく武器がある選手。ただ、最後のゴールにつながる仕事が課題だった」と森山監督は選考理由を改めて語ったが、自らを落とした指揮官にゴールという形で恩返ししたことは、西原にとって最高の結果だったに違いない。
「仙台の監督が森山さんだというのは、ちょっと意識していました。U-17W杯は悔しかった。選んでほしかったな、と」と本人も話したが、だからこそ、成長した姿を見せつけたかったはず。
手痛い一発を浴びた指揮官は「この舞台の大事なところで点を決めてしまう選手に成長したのは素晴らしいなと。嬉しいところまではいかないし、悔しいですけれども、彼の成長は喜んであげたいと思います」と目を細めていた。
10代に共通する“急務の課題”…冨安も警鐘「今の代表に10代の選手がいないのは物足りない」
西原の例もそうだが、年代別世界大会に参戦した者よりも、落選組の方が飛躍するというケースは少なくない。2007年U-17W杯(韓国)の世代を見ても、主力だった柿谷曜一朗(徳島ヴォルティス)や山田直輝(湘南ベルマーレ)以上に、本大会に行けなかった大迫勇也や山口蛍(ともにヴィッセル神戸)がより飛躍を遂げている。2009年同大会の宇佐美貴史(G大阪)や柴崎岳(鹿島)にしても、あとから大きく成長した遠藤航(リバプール)や伊東純也(スタッド・ランス)に結果的に上回られる格好になっている。
「今、ここにいるやつで、A代表になる選手はほとんどいない」と森山監督は代表候補合宿のたびに言い続けていたが、エリートがエリート街道をまっしぐらに突き進んでいくことは本当に難易度が高い。そう考えると、西原のU-17W杯落選も決して悪くない経験なのかもしれない。
実際、秋葉監督に現時点でより高く評価されているのは、同大会参戦の矢田龍之介よりも彼だ。試合出場機会を増やし、ゴールという結果を残し続けていけば、2025年U-20W杯(チリ)参戦への道も開けるし、早い段階での欧州挑戦も可能になることも考えられる。
ただ、先を見るよりも大事なのは足元を固めること。プロ初ゴールを挙げたものの、17歳の新世代アタッカーはまだまだ体の線が細いし、フィジカル的にも十分とは言えない。守備のハードワークという部分でも年長の選手に比べると見劣りするのは確かだ。そういう課題を1つ1つ克服し、成長スピードを引き上げることが急務の課題と言える。
それは日本の10代選手全員に言えること。森保ジャパンに10代で選ばれる選手がなかなか出てこないのも、成長曲線が緩やかだからだろう。
ただ、2018年に19歳でA代表デビューした冨安健洋(アーセナル)が「今の代表に10代の選手がいないのは少し物足りない」とコメントしたように、もっともっと若いタレントが出てきてくれないと日本サッカー界が活性化されない。西原らが風穴を空けてくれると理想的。「まだ高校生」という意識ではなく「乾貴士(清水)らベテランからポジションを奪ってやる」といった意識を前面に押し出し、見る者を驚かせてほしいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。