ソシエダ下部組織加入報道の10代日本人FWは何者? スペイン開催大会で日本人初の得点王…夢は「CL得点王」【現地発コラム】
2007年生まれのFW森田遥翔、昨年7月開催のドノスティ・カップで16ゴールの活躍
日本の若武者が新たにスペインの門を叩くことになったと、4月6日のスペイン紙「ムンド・デポルティーボ」で報じられた。日本代表MF久保建英が所属するスペイン1部レアル・ソシエダの下部組織に加入するとして一躍脚光を浴びたのは、2007年生まれの16歳(報道時)FW森田遥翔(はると)だ。
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本稿執筆時点で普段レアル・ソシエダのトップチームの番記者を務めるウナイ・バルベルデ氏に話を聞いてみると、森田の現状を次のように説明してくれた。
「森田がラ・レアル(ソシエダの愛称)に正式加入するのは来季からだ。以前からサン・セバスティアンに住んでいて、今はスビエタ(レアル・ソシエダの練習場)でトレーニングに参加し、練習試合に出場している」
森田はサッカー留学や海外遠征、クリニックなどを手掛ける株式会社ワカタケのプログラム出身選手。同社は2022年1月からソシエダと育成面で業務提携を結んでいる。森田はその直後、現地での育成プログラム参加選手の1人に選ばれ、学生寮に入り、学校にも通っている。今季は森田を含む8人の日本人選手が参加している。
なぜ森田がソシエダの下部組織と契約を結ぶに至ったのだろうか?その理由の1つとして、今季参加した国際大会での素晴らしいパフォーマンスが挙げられるだろう。
森田はスペインで夏に開催される育成年代の国際大会の中でも、特に大きなドノスティ・カップで大きなインパクトを残した。昨年7月にサン・セバスティアンで開催され、全カテゴリー合わせると1万5000人以上が参加した大会に、ワカタケFCのU-15チームの一員として出場。準決勝で惜しくも敗れたが、森田自身の活躍ぶりには目を見張るものがあった。
ピッチで高い技術力と得点力を発揮し、7試合16得点、1試合平均2.29得点を記録。日本人選手として初めて同大会の得点王に輝いた。2位の選手が5試合9得点、1試合平均1.8得点だったことを考えると、この数字がどれだけ凄いかが分かるだろう。
森田は大会後のインタビューで、得点王への強い想いがあったことを明かしていた。
「僕はこの大会で2年前は得点ランキング2位、昨年は5位だった。だから今年はどうしてもトップになりたかった。そして最終的にそれを達成できた。でもそれは自分だけではなく、チーム全体のおかげ。ワカタケFCの一員になれて本当に良かったし、FWとして得点王になれることは最高の喜びです」
またこの大会でチームが素晴らしいパフォーマンスを見せた鍵について、ソシエダでの日々の経験が大きく役立ったようだ。
「今大会の成功の大部分は、僕たちが今季スペインサッカー界最高峰のカンテラで練習する機会を得て、毎日学び、スペインで経験を積んで成長しているおかげです」
選手発掘を図るソシエダ、“外部選手”は「森田のように日々テストを受けている」
森田は3月下旬、カタルーニャ州北部を舞台にイースター時期に開催されるのが恒例となっている、欧州最大級のビッグトーナメントであるMIC(地中海インターナショナルカップ)に、ソシエダがレンタル選手と外部選手で形成したU-18選抜チームの一員として参加。このメンバーは日本人3選手、ガーナ人3選手、ハンガリー人1選手を含む多国籍集団だった。
バルベルデ記者は、ソシエダがこのようなチームを編成した理由として、クラブが将来を担う選手を発掘するため、スペイン国内外問わず、スカウティングに力を入れていることを強調した。
「ラ・レアルは契約を結んではいない将来性豊かな“外部選手”をたくさん抱えている。彼らは普段、森田のようにトレーニングや練習試合にだけ参加し、日々テストを受けている」
森田はこの大会で4ゴールを決め、準決勝まで進んだチームに大きく貢献。契約にこぎつける選手が少ないなか、森田は厳しい試験に見事“合格”したと言えるだろう。
森田が来季加入するソシエダのカンテラは、ヨーロッパ屈指の育成機関として名を馳せている。
それを示す一例として、下部組織出身選手を今季、欧州5大リーグ(スペイン、イングランド、イタリア、ドイツ、フランス)で12番目に多い22人を輩出していることが挙げられる。スペインのクラブでは、レアル・マドリード(44人/全体1位)、FCバルセロナ(40人/全体2位)、バレンシア(29人/全体4位)、アスレティック・ビルバオ(24人/全体7位)に次ぐ5番目だ。
ソシエダで今季トップチームに登録されている25人のうち、GK=ウナイ・マレーロ、DF=アルバロ・オドリオソラ、アイエン・ムニョス、アリツ・エルストンド、ウルコ・ゴンサレス・デ・サラテ、ジョン・パチェコ、ロビン・ル・ノルマン、イゴール・スベルディア、MF=マルティン・スビメンディ、ジョン・オラサガスティ、ベニャト・トゥリエンテス、FW=アンデル・バレネチェア、ミケル・オヤルサバルの13人が“スビエタ産”である。
久保建英の弟も所属するソシエダ下部組織で夢実現へ、大好きな選手は「ムバッペ」
また久保建英の弟の瑛史が現在、ソシエダの下部組織に所属している。ポジションはボランチまたはインサイドハーフ。まだ16歳にもかかわらず、その素晴らしいパフォーマンスにより、エアソ(U-18)でプレーしている。
来季新たな扉を開くことになる森田だが、サッカーだけでなく、学業の大切さも重々承知しており、日々の努力を怠っていない。
「サッカーの世界で夢を叶えるためには、学業を充実させることがとても重要であることを理解している。そのため学校とトレーニングの間の時間を最大限に活用して勉強しているし、週末はいつも勉強時間を確保して、スペイン語を上達させる時間を作るようにしているんだ」
また、自身のサッカーキャリアで刺激を受けている選手やチームについて、「スピード、テクニック、強さ、そして何よりも高い得点力を備えている(キリアン・)ムバッペが大好き。そしてラ・リーガのチームやマンチェスター・シティなど、攻撃力のあるチームが好きだ」と話し、将来の夢については「UEFAチャンピオンズリーグ(CL)で得点王になること」と力強く語っていた。
今季も間もなく終了し、あっという間に新シーズンが訪れる。森田がどのような成長を遂げていくのか、今からとても楽しみである。
高橋智行
たかはし・ともゆき/茨城県出身。大学卒業後、映像関連の仕事を経て2006年にスペインへ渡り、サッカーに関する記事執筆や翻訳、スポーツ紙通信員など、スペインリーグを中心としたメディアの仕事に携わっている。