大岩J、最終予選“落選組”3人の現在地 “第2の杉本健勇”になれるか…求められる細谷超え【コラム】

染野唯月は3月に招集されるもパリ五輪最終予選メンバーで選外【写真:徳原隆元】
染野唯月は3月に招集されるもパリ五輪最終予選メンバーで選外【写真:徳原隆元】

東京Vの染野は3月に招集されるもパリ五輪最終予選メンバーで選外

 大岩剛監督率いるU-23日本代表は8大会連続五輪切符を獲得できるのか……。日本サッカー界の未来を大きく左右するU-23アジアカップ(カタール)に挑むメンバー23人が4月4日に明らかにされた。

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 3月のU-23マリ・ウクライナ2連戦から外れたのは藤田和輝(ジェフユナイテッド千葉)、バングーナガンデ佳史扶(FC東京)、馬場晴也(北海道コンサドーレ札幌)、染野唯月(東京ヴェルディ)、小見洋太(アルビレックス新潟)、植中朝日(横浜F・マリノス)の6人。代わって山田大樹(鹿島アントラーズ)、木村誠二(サガン鳥栖)、内野航太郎(筑波大)の3人が滑り込んだ。

 このうち、サプライズ落選となったバングーナガンデについては、3日の浦和レッズ戦で中村帆高が負傷。再び長期離脱が見込まれる状況になったため、クラブ側が彼の派遣に難色を示したという見方が濃厚だ。大岩監督も「発表前夜遅くまでスタッフで議論した」と語っており、一番の論点はそこだったはず。やむを得ない判断だったのではないか。

 植中も所属の横浜FMがAFCチャンピオンズリーグで勝ち進んでおり、かなりの過密日程。そういった事情に配慮する形になった可能性が高い。

 それ以外の落選4人は指揮官の求める能力が少し足りなかったということかもしれない。特に内野に代わって落選した染野はショックが大きいだろう。内野は昨年9~10月のアジア大会(中国・杭州)、直近のデンソーカップ・日韓戦で目覚ましい活躍を見せており、「アジアレベルの舞台では彼の方が結果を出せる」と見なされたのではないか。

 3月29日の京都サンガ戦で2ゴールを叩き出し、「ゴールで自分の価値というところも示さなきゃいけない」と気を吐いていた染野にしてみれば、辛い落選に違いない。ただ、東京ヴェルディにとっては山田楓喜という重要戦力を欠く中、彼が残ることは大きなプラス。城福浩監督も染野に対するゴールへの期待はより高まるはずだし、本人もそこに応えていくことが重要な責務と言える。

 最終予選選外の選手がJリーグで際立ったインパクトを残し、本大会行きを勝ち取った例は過去にもあった。その筆頭と言えるのが、2012年ロンドン五輪の杉本健勇(大宮アルディージャ)だろう。彼はセレッソ大阪から東京Vに4か月間の短期レンタルに赴き、18試合出場5ゴール3アシストという凄まじいアピールを見せ、最終メンバー18人に滑り込んでいるのだ。

 同じ東京Vにレンタル移籍中の染野にしてみれば、「目指せ、杉本健勇」というところだろう。ここからコンスタントに結果を残し続ければ、7月の時点でU-23世代のFW陣の序列がどう変化しているか分からない。1~2月のアジアカップ(カタール)にA代表の一員として参戦しながら、今季なかなか調子の上がらない細谷真大(柏レイソル)を上回っていることも否定できない。染野は飽くなき野心を抱き、ピッチで底力を示すことが肝要だ。

 大岩監督からたびたび呼ばれながら、代表から遠ざかった面々も大舞台を諦めていない。その1人が松岡大起(アビスパ福岡)。サガン鳥栖に在籍していた2021年夏までは「パリ世代の筆頭ボランチ」と目されていた男は、清水エスパルス移籍後に発足したU-23日本代表に頻繁に呼ばれ、アジア大会にも参戦している。

 だが、2023年3月からレンタルで赴いたブラジル2部グレミオで思うように出場機会を得られなかったことが災いし、昨年11月のアルゼンチン戦(清水)以降は代表から離れることになってしまった。

「サッカー選手をやっている以上、代表はみんなが目指すべきもの。現時点では難しいというのも分かっているけど、自分自身は絶対にチャンスがあると思っているし、諦めてない。自チームでしっかり結果を残す、試合に出続けて結果に結びつけるっていうのが一番なので、まずは自分自身のやるべきことをしっかりと全力で全うしようと思っています」

 本人は3月30日の浦和レッズ戦後にも力を込めていたが、相手アンカーのサミュエル・グスタフソンに対して激しいボール奪取力を披露。闘争心やタフさを鮮明にしていた。

「ブラジルに行って、対人のところもそうですけど、本当にサッカーが決まる重要なところ、どこが危なくてどこがチャンなのかっていう局面の部分はより学びました。あとは1つのボールに対する執着心も研ぎ澄ませないといけない。そこをピッチの中でより多く出していきたいと思っています」と彼は目をギラつかせながら語っていた。

 以前の松岡はそういう野性味溢れるタイプではなかっただけに、ここから再浮上しそうな気配もある。パリ世代のボランチ陣は山本理仁・藤田譲瑠チマのシント=トロイデンコンビを筆頭に実績ある選手がひしめくポジション。競争はし烈だが、ここから再びそこに参戦してほしいものである。

鹿島のアタッカー松村はまず主力復帰へ「パリ五輪には出たい」

 もう1人、注目すべきは松村優太(鹿島)だろう。彼は昨年11月のアルゼンチン戦まで大岩ジャパンの主軸アタッカーの1人と位置づけられていたが、今季から所属先の指揮官がランコ・ポポヴィッチ監督に代わったことで、立ち位置が大きく変化。キャンプから控え組での練習を強いられ、開幕後もベンチ外が続き、3月の代表活動も最終予選もメンバー外となってしまった。

 荒木遼太郎が今季レンタル移籍した新天地・FC東京でブレイクし、染野もレンタル延長となった東京Vで主軸として活躍。さらに山田大樹も最終予選メンバーに選出されるなど、同期3人の躍進ぶり間に当たりにする松村は非常に辛い立場ではあるが、決してネガティブにはなっていない。

「今季は『自分が鹿島を引っ張るんだ』という強い覚悟を持って、新シーズンを迎えました。でもいきなり主力組から外されて『なぜなんだ』と理由が分からなかった。でもウダウダしていても仕方ないし、毎日練習はあるし、毎週試合は来る。自分の100%を出すことだけは続けていこうと思っています」と本人は強調。試合から遠ざかっている間も走り込みなどを続け、負荷を落とさないように懸命に取り組み続けたのだ。

 その成果もあり、3月17日の川崎フロンターレ戦で今季初出場を果たすと、30日のジュビロ磐田戦、4月3日のアビスパ福岡戦と確実に出場時間が増えている。この調子でゴールという目に見える結果を残せば、彼自身も勢いに乗れるだろう。

「パリ五輪には出たい」と松村自身も熱望している。ならば、7月までの間に鹿島の主軸になり、目に見える結果を残すことが肝要だ。短い出場時間でも圧倒的存在感を示し、ゴールを奪えるようになれば、ポポヴィッチ監督も大岩剛監督も彼を放っておくわけにはいかなくなる。そう仕向けるしかないのだ。

 彼らが大舞台のチャンスをつかむためにも、まずは最終予選を突破してもらわなければならない。染野、松岡、松村らには仲間たちの奮闘を祈るしかない状況だが、まずは大岩ジャパンの戦いぶりにフォーカスすべき。8大会連続五輪出場権獲得というノルマを必ず果たしてほしいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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