“Jリーグの稀有なチーム”川崎が直面する節目 黄金期→充実期の転換点…歴史的評価に大きく影響【コラム】

川崎がFC東京から3ゴールを奪い快勝【写真:Getty Images】
川崎がFC東京から3ゴールを奪い快勝【写真:Getty Images】

巻き返しを図り精力的な補強を進めた川崎、序盤3連敗とまさかの事態

 川崎フロンターレが多摩川クラシコでFC東京に快勝し、連敗を「3」で止めた。

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 昨年の川崎は天皇杯を制したが、リーグ戦では現在のスタイルの礎を築いた風間八宏監督の初年度(2012年度)と同じく8位と低迷。今年は巻き返しを図り精力的な補強を行い、層の厚さは群を抜いているかに見えた。

 実際その総合力の高さを見せつけたのが、シーズン開幕を告げるスーパーカップだった。ACLで山東との連戦の間に組み込まれた試合だったのでターンオーバーで臨んだが、昨年のリーグ王者・ヴィッセル神戸に1-0で勝利。サブメンバーでも十分に内容の伴うパフォーマンスを見せていただけに、序盤の3連敗はまさかの事態だった。

 ただし選択肢が広がれば、全体への浸透には時間を要する。豪華補強をしたチームがシーズン序盤に下馬評に反して凡庸な試合を続けるのは、欧州シーンでも珍しいことではない。確かにスケールアップしたかに見える戦力を使いこなすのに1か月間は短かすぎた。

 とりわけ山根視来が抜けた右サイドバックの選択には迷いが見え、佐々木旭で開幕を迎えたものの第3節からの2戦では橘田健人をコンバート。FC東京との第5節では、ユーティリティーな瀬川祐輔をスタメンに起用した。もともと外国人選手の起用には慎重な指揮官だが、今年も3人補強したブラジル人選手の中でリーグ戦のピッチの立ったのはエリソン1人。スーパーカップで決勝点をもたらしたファンウェルメスケルケン際もチャンスを与えられていない。

 そして苦境に立たされた多摩川クラシコでは、長く4-3-3を継続してきたフォーメーションも変更。ボランチを橘田と瀬古樹の2枚にして、脇坂泰斗をトップ下に配する形で臨んだ。

「クラシコ」と半ば強引に命名してみたものの最近の両者の戦績を比べれば伝統的なライバル関係と見なすには無理のあるカードだったが、逆にその分だけ序盤からFC東京には挑戦者としての気概が見えた。局面の攻防で身体を張り、開始10分間で左サイドから立て続けに4本のクロスを送っている。だが典型的なセンターフォワードが不在で狙いが不鮮明なのか、ことごとく前節からスタメンに復帰した川崎のジェジエウが阻止。従来のように川崎が明らかに支配する展開ではなかった。

 だが、ピッチ上の選手たちは「ストレスなくポジティブにできていた」(瀬川)ようで、前半34分に三浦颯太の縦への仕掛けを突破口に均衡を破ると、後半27分にはFC東京に退場者(GK波多野豪)が出て一層流れが傾く。さらに後半38分には交代で送り出したばかりの山内日向汰が左から切り崩し、山田新が合わせて追加点。アディショナルタイムには橘田が3点目を挙げて快勝劇に色を添えた。

チームを率いる鬼木達監督【写真:徳原隆元】
チームを率いる鬼木達監督【写真:徳原隆元】

攻撃的スタイルを貫き勝ち続ける川崎の「重要な節目」

 重要なのは「選手間の距離感が良くて、奪われても連続して(守備に)行けて、必然的に相手陣内でショートパスが増える」(鬼木監督)スタイルを表現できて、しかもクラシコと名のつく大事な試合で結果が伴ったことだ。

 もともと潜在能力には疑いのないチームなので、共有できた自信が最良の特効薬になり復調を後押しする可能性はある。

 川崎はJリーグの歴史を俯瞰しても、攻撃的スタイルを貫きながら勝ち続けている稀有なチームだ。唯一匹敵する例としては20世紀末からのジュビロ磐田が挙げられるが、同じ川崎を拠点としていた草創期のヴェルディ川崎もネルシーニョ監督の到来とともにバランス型に変貌したし、日産自動車を原点とする横浜F・マリノスもプロ移行後で初めて攻撃的スタイルを植えつけたのはアンジェ・ポステコグルー監督だった。裏返せばJリーグの歴史の大半は、堅守を基盤にしたチームがタイトルを手にしてきたことになる。

 そういう意味でも、川崎は重要な節目を迎えている。すでに第一期黄金期を彩った大半の主力はチームを去っている。ここで再び様変わりした顔ぶれで充実期を迎えられるかどうかが、おそらく歴史的な評価に大きく影響する。鹿島アントラーズはタイトルを積み重ねることでJ屈指の名門クラブになった。しかし、もし川崎が観る者を魅了し、なおかつ勝利も両立し続けるクラブになれれば、それを超えていける日が来るかもしれない。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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