37歳・長友佑都の招集“是非”「メリットあるのは確か」…森保Jに継続登用すべき?【コラム】

37歳の長友佑都【写真:Getty Images】
37歳の長友佑都【写真:Getty Images】

5度目のW杯出場を目指す長友佑都が3月シリーズに日本代表へ復帰した

 アジアカップ(カタール)惨敗を経て、新たなスタートを切った森保ジャパン。3月シリーズは2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選・朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)2連戦の予定だった。

 しかしながら、ご存知の通り、3月21日のホーム初戦(東京・国立)を田中碧(デュッセルドルフ)の決勝弾で1-0の勝利を収めた直後に、26日のアウェー第2戦の平壌開催がキャンセル。中立地での試合も成立せず、試合自体が行われないことが決まった。これで不戦勝となれば、日本は6月シリーズを待たずに最終予選進出を決めることになる。

 そうなれば、6月のミャンマー・シリア2連戦は大胆なトライも可能になる。森保一監督は「試せるところは試して、ベースを固めるところは固める。その両方をやっていかなければいけない」と25日のU-23ウクライナ戦を視察した北九州でコメントしていた。

 となると、やはり気になるのが、37歳の長友佑都(FC東京)の扱いだ。今回は出番こそなかったものの、凄まじい熱量で代表を鼓舞する魂のベテランの存在感は圧倒的だった。21日の北朝鮮戦でも、ベンチ前に出て指示を出したり、若い選手に精力的に声をかけるなど、「選手の中のコーチ」と言ってもいいくらいの重要な役割を担っていたのだ。

「佑都はピッチ内外で存在感をもたらしてくれたなと思っています。練習から高い基準でプレーしてくれましたし、いろんな選手と意思疎通を図りながら活動してくれた。残念ながら2試合目の出場チャンスはなくなりましたが、より高い基準、そして『アジアの戦いは厳しいよ』というところは示してくれたと思います」とも指揮官は発言。アジアカップで予期せぬ壁にぶつかり、北朝鮮という難敵と対峙するチームにとって、やはり数々の修羅場をくぐってきた4度のW杯経験者を加えた効果は少なくなかったと言える。

 アジアカップでリーダーとしての身の振り方に悩んだ遠藤航(リバプール)にしてみれば、近くに寄り添って「締めるところは締めなきゃいけない」とピリッとくる一言を口にしてくれるだけで安心感が高まるはず。「僕にとっても助けになる」と31歳のキャプテンは神妙な面持ちで語っていた。それは久保建英(レアル・ソシエダ)や堂安律(フライブルク)ら主力級にとっても同様だろう。

 そういう意味では、長友がチームに居続けた方がメリットはあるのは確か。だが、そうなると若い世代の「自分たちがやらなければいけない」という意識が薄れてしまう恐れがある。板倉滉(ボルシアMG)も「いつまでも佑都さんに頼っているわけにはいかない」と語気を強めたように、今の代表の主軸である東京五輪世代がもっともっと長友のようなアクションを起こしていかなければいけないのだ。

 20代の面々が長友から学んだことをチームに還元し、声掛けや雰囲気作り、時には周りに苦言を呈するような厳しさを体現できるようになれば、むしろ長友を呼ばなくてもいい状況が生まれる。先々に目を向けると、その方が理想的。森保監督もそういったタフに戦える集団に変化させたかったという思惑はあっただろう。となれば、少なくとも、最終予選進出が決まる見通しの6月は長友招集の必要性は低くなる。

 とはいえ、最終予選突入後はどうなるか分からない。アジアカップ以上の難局に直面する可能性もあるだろうし、遠藤や板倉、冨安健洋(アーセナル)が揃わない状況も生まれるかもしれない。そうなった時、それ以外のメンバーで凄まじい熱量を生み出せるのか。そこはやはり疑問が残る。そういう時に要所、要所で彼にお呼びがかかるというパターンになるのかもしれない。

長友を脅かす“次世代”が示すべき姿勢とは

 それを可能にするためには、長友自身がハイレベルなパフォーマンスを維持することが絶対条件。今季の彼はシーズン開幕から右サイドバック(SB)でコンスタントにプレー。攻守両面でハードワークを続け、データ的にもJ1トップクラスの記録を叩き出している。頭抜けた状態を今後も維持できれば、誰もが彼の代表入りを認めるはずだ。しかしながら、少しでもプレーやコンディションが落ちれば、選考対象から外されてしまう。そこは40歳近い年長者にとって大変なことだが、彼ならばやってくれるという期待は大きい。

 そのうえで、中山雄太(ハダースフィールド)や伊藤洋輝(シュツットガルト)らほかのメンバーの状態を勘案することになる。今回のようにケガ人がいれば、長友浮上の可能性が高まってくる。ただ、最終予選がスタートする9月以降はパリ五輪も終わっているため、パリ世代のバングーナガンデ佳史扶(FC東京)や半田陸(ガンバ大阪)、関根大輝(柏レイソル)といった若い世代のSBも戦力と見なされる。そういう面々との競争も強いられるため、長友にとって代表入りのハードルはより上がってくると見られる。

「5回目(のW杯)に僕は行くんで。自分の中ではそれは決めていて、そこから逆算して今、いろんなものに取り組んでいる。もちろん決めるのは森保さんなんですけど、自分はそのために今、努力しています。こんなことを偉そうに言っていたら、また批判されて、叩かれているんでしょうけど、それをまたエネルギーして這い上がっていきます」

 この言葉に象徴される通り、本人は2026年W杯出場を諦めるつもりは一切ない。中山や伊藤、その他の若いSBがその気迫を上回れるのか。それとも「やっぱり代表には長友が必要」という判断になるのか。ここからの彼らのバトルの行方が非常に興味深いところだ。

 我々メディアにとっては、「世界コミュニケーション選手権があったら優勝できる」と豪語する長友がいてくれた方が報道自体も盛り上がるし、より強いメッセージを世の中に伝えられる。ぜひ5度目の大舞台を勝ち取ってほしいが、長友のようなマインドを持った次世代のタレントが出てきてほしいのも事実。まずは今後の展開をしっかりと注視していきたいものである。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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