“崖っぷち”パリ五輪世代の救世主になれるか ドイツで奮闘アタッカーが示すべき10番の覚悟【コラム】
マリとの対戦は1-3で完敗…ブレーメンでプレーする佐藤恵允に期待されるのは
4月に迫ったAFC・U-23アジアカップ(カタール)。ご存知の通り、2024年パリ五輪アジア最終予選を兼ねた同大会で3位以内に入らなければ、U-23日本代表は出場権を獲得することはできない。4位になれば、アフリカとのプレーオフに回るが、22日のU-23マリ代表戦(京都)を見る限りだと、国内組中心の今の日本が彼らを凌駕できる可能性は低い。となれば、やはりアジアで上位3つに入ることを貪欲に目指すしかないだろう。
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そういう意味で、最終予選前最後の親善試合となる3月25日のU-23ウクライナ代表戦(北九州)は貴重なトライの場。マリ戦で1-3の逆転負けを食らった大岩剛監督率いる若き集団にリバウンドメンタリティーが見られるのか。よりタフでアグレッシブな戦いができるのか。そこは大きな注目点だと言っていい。
今回はマリ戦でスタートから出なかった選手の多くがスタメンに陣取るはずだ。エースFW細谷真大(柏レイソル)や欧州組の藤田譲瑠チマ(シント=トロイデン)、Jリーグで存在感を見せている松木玖生、荒木遼太郎(ともにFC東京)らがピッチに立つ公算が大だ。
マリ戦で後半31分からピッチに立った佐藤恵允(ブレーメン)も左ウイングで先発するだろう。前回は出場時間が短かったうえ、フィジカルに強いマリにチーム全体が押されたこともあって、彼らしいタテへの推進力やドリブル突破力を出せるシーンが少なかったが、今回こそは違いを見せないといけない。
「もうちょっといい形でボールを持てればという感じもあったけど、低い位置で受けることになっちゃったので。高い位置でボールを受けるために、もうちょっと工夫ができれば、相手ゴールを脅かせると思いました。僕はマリ相手でも個人で負ける気がしなかったし、もうちょっと1対1を作り出せれば、より多くのチャンスが生まれたはず。海外でやっているとアフリカ系の血を持ったドイツ人の選手はいっぱいいますし、自分にとっては身近な環境だった。そういう意味ではもっとやれると思います」とエースナンバー10をつけるおとこはガツガツ感を前面に押し出している。
確かに佐藤の突破力と推進力が出せれば、日本はもっとゴールに迫る回数が増えるはず。これまでの親善試合やアジア大会でもこの男はそれ相応の存在感を示してきた。だからこそ、明治大学から一足飛びにドイツ・ブンデスリーガ1部に参戦することができたのだ。
今季は主にセカンドチームでプレーしており、まだトップデビューは果たせていないが、欧州5大リーグのタフさや激しさ、球際や寄せの厳しさは日々、体感できている。そういう環境の中でいかにして自身のストロングであるスピードや局面打開力を出していくかを模索し続けているに違いない。
そういう経験値のあるアタッカーは今回の大岩ジャパンでは彼1人。だからこそ、攻撃の牽引役にならなければいけない。
「マリみたいな相手は個の力ではもちろん勝っていると思いますけど、試合の90分間、全てにおいて1対1で勝てるわけでもない。連続したプレーの中で疲れが出るところもあるだろうし、そういう時こそ、日本の助け合いや気遣えるプレー、ポジショニングが必要になってくる。そういう良さが出れば、互角以上で戦える」と彼は語気を強めたのだ。
日本代表の森保一監督も「連係・連動」という言葉を口癖のように言っているが、大岩監督もそのコンセプトは変わらない。やはりサッカーは個のバトルで勝つことが最優先ではあるが、それに加えて組織としてのコンビネーションやコミュニケーションが重要になってくる。個の力でなかなか上回れないのであれば、よりチームとして戦う部分を研ぎ澄まさなければいけない。佐藤がアクションを起こして周囲といい関係性を構築していけば、自らも輝ける場面が増えてくるはず。唯一の欧州組アタッカーに課せられることは少なくない。彼にはチームの救世主になってもらわないといけないのだ。
ウクライナ戦では連係面を見せられるか
「マリ戦をいい経験ができたということで終わってはいけないと僕は思っています。次は試合の中で修正して、勝利を大前提として戦っていきたい。もし自分が出るのであれば、シュートが少なかったので、思いきりのいいシュートを打ってゴールを決めたいですね。 前回はうしろに(右サイドバックを主戦場とする内野)貴史(デュッセルドルフ)がいて、初めて組むような形になりましたけど、『普段と違うポジションだからできない』というのは通用しない。もっともっと意思疎通を図って、合わせていく必要がある。それぞれが得意なプレーをしっかり分析してやれば、個々が生きてくる。そういうふうに仕向けたい」
佐藤が神妙な面持ちで言うように、代表はその時々でメンバーが入れ替わる集団。そこですぐにアジャストできないとギクシャクしたまま終わってしまうのだ。最終予選に向けて、欧州組の誰を呼べるか分からず、藤田や山本理仁(シント=トロイデン)さえも五分五分と言われる中、やはり彼らには声を出してお互いの考えを伝え合う作業をより重視してほしい。
日本人離れしたメンタリティーを持つ佐藤なら、チームの雰囲気を変えていける。強靭なメンタリティーを持つ川﨑颯太(京都サンガF.C.)や松木らと協力しながら、大岩ジャパンを闘争心溢れる集団にすること。そのうえでウクライナという大柄なサイズと高さを誇るチームに勝っていくこと。それができれば、最終予選に向けて希望が見えてくるのではないか。
「正直、危機感しかない」と2004年アテネ五輪代表を率いた山本昌邦ナショナルチームダイレクターも語っていたが、本当に今回のチームは崖っぷちに瀕している。1996年アトランタから7大会続いてきた五輪出場が途絶えてもおかしくないくらいの厳しい状況に直面しているのだ。
その現状を彼らには今一度、強く認識したうえで、佐藤らには本番前のラストゲームに挑んでほしい。ここで何ができるかで全てが決まると言っても過言ではないのだから。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。