森保ジャパンの「アンバランス」なボランチ田中碧 “遠藤保仁超え”も見える得点力の真実とは?【コラム】

中盤で存在感を見せた田中碧【写真:徳原隆元】
中盤で存在感を見せた田中碧【写真:徳原隆元】

3月唯一の代表戦となった北朝鮮戦でゴール

 アジアカップ(カタール)8強敗退という大きな挫折を経て、チーム再建を迫られている日本代表。3月21日の2026年北中米ワールドカップ(W杯)アジア2次予選・北朝鮮戦(東京・国立)はその重要な一歩となった。

 特に同大会で守田英正(スポルティング・リスボン)が問題提起した中盤のバランスについては大きなポイントの1つ。森保一監督がどの組み合わせをチョイスするかが注目されたが、今回はリバプールで超過密日程を強いられたキャプテン遠藤航を温存。守田とアジアカップ選外だった田中碧(デュッセルドルフ)をボランチに並べ、その前に南野拓実(ASモナコ)を配する形でスタートした。

「(碧は)いい意味でアンバランスというか、彼にしかない能力がある。ゴールを嗅ぎつける力だったり、すごい得点を取ったりとか、パンチ力もありますし、それはチームにとってすごくプラスになる。対アジアでブロック敷いてくる中、大胆なシュートだったり、ランニングは効くので。それは彼自身に期待している部分かなと思います」と守田も川崎フロンターレ時代から共闘してきた相棒へのワクワク感を抱いていたが、その期待通りの働きを彼はいきなり見せてくれた。

 それが開始早々の2分の先制弾。前田大然(セルティック)が奪ったボールを上田綺世が左サイドでキープ。相手DFを引きつけた瞬間、田中碧は左のポケットを取り、クロスを入れた。これを堂安律(フライブルク)が折り返し、南野がシュート。そのこぼれ球を再び堂安が拾ってマイナスに折り返すと、進入してきたのが田中碧。彼の一撃は確実にネットを揺らし、日本に大きなアドバンテージをもたらした。

「綺世が相手DF2枚を引きつけて、その前に目があったので、あんまり顔を出さずにそこで待っていて来るかな、と。すごくいいパスをくれたので、律がファーにいるのは見えていましたし、欲を言えば、律が直接決めてくれたら良かったですけど、ああやってこぼれてきて、律がまた折り返してくれたので、あとは決めるだけだったかなと思います」と背番号17は冷静に戦況を見極めながらフィニッシュに持ち込んだことを明かす。

 このシーンで特筆すべきなのが、ポケットを取る動き。それこそが、守田の言う「いい意味でのアンバランスさ」なのかもしれない。

 彼自身はアジアカップに参戦していなかったが、その戦いを外から見ていたら、中盤のバランスが微妙に崩れていたことはよく分かったはず。そこで、普通の選手なら、パートナーといい距離感を保ち、ゲームを落ち着かせ、タテにつけるパスを出すことを第一に意識するはずだ。けれども、田中碧はあえてリスクを犯して前線に出ていくことを厭わない。その大胆不敵さがチームにダイナミズムをもたらしたと言ってもいいだろう。

「僕自身、低い位置でプレーすればボールをもらえるけど、それが効率的かというのは試合の中で判断しなきゃいけないですし、相手が4-4-2で来ていた分、自分が少しインサイドでセンターバックからもらってアンカーに落とせればもっとスムーズだったのかなと思いつつも、でもそれがうまくいくかな?というのは少々疑問を持ちながらやっていた。そういう意味で少しプレーを変えたということもあります」と本人もあえてアンバランスに挑んでいったという。

「自分はどっしり構えるというより、広範囲に動くタイプ。いろんな局面に顔を出して動くことが大事だと思う。ただ、動きすぎてもポジションが崩れるだけなので、そこの使い分けはしながらやっていければいいですし、自分たちのボールの時間を増やしたりだとか、いい流れを作れるようなプレーを心がけていければいいかなと思います」とも田中碧は語っていた。

 彼が臨機応変にポジションを変えることで、守田や南野と新たな関係性が築けていたのは確か。それは後半になって遠藤航と組んだ時もそう。ある意味、異質なボランチがいることで、日本の戦い方の幅は確実に広がる。やはりこの男は貴重な存在なのである。

遠藤航、守田の鉄板コンビに割って入る活躍

 昨年3月に第2次森保ジャパンが発足してからというもの、ボランチは遠藤航と守田が鉄板と言われ、田中碧は第3の男と位置づけられてきた。それは所属クラブがドイツ2部のデュッセルドルフだったことが大きい。本人もそこから抜け出して欧州5大リーグ1部へステップアップしたいと熱望。アジアカップ参戦を回避したのも、1月の冬の移籍期間に格上クラブへ赴くことを目指していたからだと言われる。

 結果的にはそれは叶わなかったものの、所属クラブで腰を据えて2か月間プレーに集中。ゴールを奪い、アンカーとしてもプレーしたことで、確実に進化が見て取れる。今のパフォーマンスなら、今夏の移籍はほぼ間違いないだろうし、日本代表でも主軸の1人になれるはず。遠藤・田中碧がファーストチョイスになることも十分に考えられるのだ。

 とにかくボランチでありながら、国際Aマッチ26試合出場・8ゴールという数字は驚異的。8点というのは堂安と同じで、浅野拓磨(ボーフム)にあと1点と迫るレベルだからだ。日本歴代最多キャップ数の152試合誇る偉大な先人・遠藤保仁(ガンバ大阪トップチームコーチ)もボランチ・2列目兼務で15得点だから、田中碧はその数字を超える可能性が大いにある。そう考えると、この男を有効活用しない手はないのだ。

「特別何か難しいゴールを決めているわけじゃないんですけど、自分の力で点を取れれば、もっといい選手になれるのかなと思う。今はミドルだったり、自分で打開して点を取ったりする選手ではないんですけど、そういう形で取れればよりいい選手になれるのかなと。チームが勝つことに対して、それ以外もやることもありますし、そこに対しても全力でやればいいかなと思います」

 本人は得点を奪うことも大事にしているが、守備やパス出し、起点を作る仕事などそれ以外のプレーの質を上げることも貪欲に目指している。そうやってあらゆる部分でスケールアップできれば、田中碧は日本代表にとって必要不可欠なピースとなるはずだ。その布石を打ったという意味で、北朝鮮戦のパフォーマンスは大きな価値がある。

 2026年W杯まであと2年。ここから彼がどのような軌跡を描いていくのか。それがますます楽しみになってきた。

(元川悦子 / Etsuko Motokawa)



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元川悦子

もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。

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