北朝鮮撃破は板倉滉に「懸かっている」 アジア杯でミス、クラブで出場減…求められる“闘将化”【コラム】
長友が復帰で闘魂注入も「頼っているようじゃダメ」
イラクとイランという中東勢のパワーとロングボールに屈し、8強敗退を強いられたアジアカップから1か月半。森保一監督率いる日本代表が再起を懸けて3月18日から始動した。
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21日と26日の2026年北中米ワールドカップ(W杯)で対峙するのは、未知なる敵・北朝鮮。東京・国立競技場でのホームゲームはそこまで重圧を感じることなく戦えるだろうが、平壌でのアウェーゲームは何が起きるか分からない。相手を上回る熱量と闘争心を押し出していくしかない。
アジアカップで日本がロングボールや空中戦の弱さを露呈したこともあり、北朝鮮も徹底してその弱点を狙ってくるかもしれない。それを阻止し、失点を極力減らすことが、勝利への近道なのは間違いない。だが、今回は最終ラインの闘将・冨安健洋(アーセナル)が不在。谷口彰悟(アルラーヤン)、板倉滉(ボルシアMG)、町田浩樹(ロイヤル・ユニオン・サン=ジロワーズ)、渡辺剛(ヘンク)というアジアカップ経験者の4人のDFを中心に、しっかりした対応策を講じていくべきだろう。
とりわけ、冨安とともに主軸と位置付けられながら、イラン戦で致命的なPK献上というミスを犯してしまった板倉には再起が求められるところだ。
昨年10月に左足首の“ネズミ”除去の手術を行い、2か月のブランクを経て、年末の代表合宿からチームに合流したが、本人も試合勘の不足は感じていたに違いない。案の定、大会に入ってからもパフォーマンスが上がらず、彼らしくない動きが目立った。しかも途中で体調不良に陥り、フィジカルコンディションの不安も抱えることになった。こうした負の連鎖がイラン戦につながった。
「アジアカップで悔しい思いをしたので、僕自身、非常に危機感を持って帰ってきました。1対1負けない、戦えるようにならないといけないというのはアジアカップを通して感じましたし、個人として伸ばせるところはそこかなと。あとはチームとしてああいう試合展開になった時に、流れというのをつかめなかったのも事実。そこはもう一度、チーム内で話し合い、コミュニケーションを取りながらやっていきたいと思います」と改めて彼は気合を入れ直した。
守備陣のリーダーとしての役割はもちろんのこと、冨安不在の今、板倉も闘将化しなければならない。今回は37歳の長友佑都(FC東京)が復帰。18日の初日から大声を張り上げ、時折、冗談を交えながらチームを鼓舞する大ベテランに助けられる部分は少なくないだろうが、「長友が戻ってきたから熱量不足の問題は一気に解決」ということにはならない。第2次森保ジャパン発足後、チームの中心的な存在だった東京世代が進んでアクションを起こし、雰囲気を変えていかなければ、ギリギリの局面で勝てる集団にはなれない。それは板倉自身も痛感しているに違いない。
「やっぱり佑都くんに頼っているようじゃダメだと思いますし、これから日本代表を強くしていくうえで、『自分たちの世代が』という思いがすごく強いので。もちろん佑都くんが帰ってきてくれて、実際に会えた時も嬉しかったですけど、そこに頼らずに『自分たちが』という思いは忘れずにやらないといけないと感じています。
僕たちは(2026年北中米)W杯優勝を掲げていますし、そこはブレることはない。見ている人からは『アジアカップでああいう結果を出したんだからムリじゃないか』と思われて当然でしょうけど、みんなが自チームに帰ってからの活躍を見ると本当に前進している。危機感を持って戦っているなというのは自分にも伝わってきています」
板倉が語気を強めるように、確かにアジアカップ後の代表メンバーは奮闘している。直近の週末には、2点を挙げた菅原由勢(AZアルクマール)を筆頭に、上田綺世(フェイエノールト)、堂安律(フライブルク)、田中碧(デュッセルドルフ)がゴール。週刊誌報道の影響で代表を離れている伊東純也(スタッド・ランス)も高度な個人技が凝縮された一撃をお見舞いした。
板倉自身は苦境が続く…ボルシアMGではCB争い強いられるも「全然問題ない」
こうした中、板倉自身は直近2戦で先発落ちを強いられている。しかも16日のハイデンハイム戦では後半からボランチで出場。本職のセンターバックに関しては厳しい競争にさらされている模様だ。
「(クラブでは)シンプルに外されたりしていますけど、コンディション的には問題ないし、自分自身のパフォーマンスも上がっているから全然問題ないと思います。ただ、チームも勝てていないんで、難しい状況なのは確か。悪い時こそ上げていくだけ。メンタル的にやられているわけでもないので、いつも通り、やっていくことが大事だと思います」
サッカー選手は浮き沈みがあって当然。2024年に入ってからの板倉は苦境が続いているようにも見受けられるが、だからこそ、ここから右肩上がりの軌跡を歩んでいくことが肝要だ。今回の北朝鮮2連戦で弾みをつけられれば、本来の鋭さと勢いが戻ってくるはずだ。
いずれにしても、板倉抜きに今の日本代表のディフェンスラインは成り立たない。敵地・平壌に乗り込めば、アジアカップの時以上の騒然とした雰囲気の中での戦いを強いられるだろう。そこで板倉がこれまで通りの冷静さを持って確実な対応ができれば、日本は敵地での1勝を手にできるのではないか。
日本の平壌での初勝利はこの男にかかっていると言っても過言ではないだろう。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。