神戸スタイルの新たな発見 密集地帯を突破する武藤嘉紀のドリブルのダイナミックさ【コラム】
【カメラマンの目】武藤嘉紀のプレーの変化が目についた
3月9日に行われたJ1リーグ第3節FC東京対ヴィッセル神戸戦の前半は、大きな進展のないまま経過していった。
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FC東京はシーズン前の宮崎キャンプで行ったトレーニングマッチのサンフレッチェ広島戦で見せたように、左サイドからの攻撃が戦術的意図を感じさせた。先発メンバーのポジション表記を見ると遠藤渓太は「FW」で、荒木遼太郎が「MF」となっていた。
だが、実際は荒木がよりゴールに近い位置でプレーしていることが多く、この新加入の若きMFを中心に攻撃が生み出された。ボールを持った荒木は、マークを引き付けながら中央へと切り込み、空いたサイドのスペースにパスを出す。そのボールをバングーナガンデ佳史扶が受けて、縦にフィードして遠藤へとつなぐ。そこから遠藤がドリブルで突破を試みるといった、3人によるボールタッチの少ない素早い連係からの崩しが目に付いた。
ただ、こうした攻撃も決定打とはならない。しかし、前半も終了近くになった時、ゴール裏からカメラのファインダーで捉えたアウェーチームの1つのプレーが、両チームに勢いをもたらすきっかけを作ったように見えた。
神戸の武藤嘉紀が中盤でボールを受けると、エンリケ・トレヴィザンのマークをかいくぐり前線へとパスを出す。このダイナミックなドリブルからの一連のプレーに続いて2回、3回と激しいボールの奪い合いがピッチで展開された。
武藤の力強いプレーに触発されたかのように、後半は激しい攻防が繰り広げられることになる。特に神戸は先制を許してもタイトな守備でボールを奪い、そこから素早い反撃に出るサッカーでFC東京に対抗し、後半12分に宮代大聖が同点弾を決めると、さらに勢いを増し大迫勇也の直接FKで逆転に成功。そのまま逃げ切った。
当然だが、昨年のJ1王者である神戸に対して、相手チームはそのサッカーを研究し、対策を講じてきている。そのため簡単には勝たせてもらえない。そうした状況のなか、前年王者の戦いぶりで目に留まったのが武藤だ。
全選手がハードワークで試合に臨み、チーム全体で無駄な動きを削ぎ落し、ゴールへの最短ルートで得点を狙う。ボールを持った選手より前線に味方がいれば、多くの場合でパスを選択する。素早く相手ゴールを目指すプレーが徹底され、これが成功を収めた。このリーグ優勝へと導いた神戸の根幹を成すスタイルに変化はない。
ただ、選手に目を向けると、そのプレーに変化を感じた。それが武藤だ。
もともと推進力のある選手だが、武藤の昨年のプレーを振り返ると、彼もほかの選手と同じくチームが目指すスタイルを吸収し、ドリブルをする機会が減っていたように感じられた。しかし、このFC東京戦では、チームとして相手守備網を崩せないと判断すると、ドリブルを多用して突破の糸口を探った。
しかも、武藤のドリブルは決して状況に手詰まりになったことによる無謀なプレーではなく、攻撃にアクセントを加えて威力を発揮した。従来の戦い方で打つ手がないとなると、神戸はこうした変化を付けて状況の打開を目指した。
何より身体をリズム良く振る鋭いフェイントでマーカーを翻弄し、密集地帯を突破する武藤のドリブルは実にダイナミックで見応えがあった。神戸スタイルの新たな発見だった。
徳原隆元
とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。