J2昇格戦線「勢力図」考察 “本命”清水を脅かすのは?…甲府がACL効果で猛威の予感【コラム】

今季J2の勢力図を考察【写真:Getty Images】
今季J2の勢力図を考察【写真:Getty Images】

開幕から2節を消化、各チームの戦いぶり踏まえ上位戦線を展望

 J2は開幕から2節を消化した。連勝チームが1つもないJ1と違い、ここまでヴァンフォーレ甲府、モンテディオ山形、清水エスパルスの3クラブが連勝で、勝ち点を6としている。さらに勝ち点4で追いかけるのがファジアーノ岡山、レノファ山口FC、ベガルタ仙台、そして“昇格組”の鹿児島ユナイテッドFCだ。

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 自動昇格の大本命は清水だろう。昨年4月から指揮を執る秋葉忠宏監督が2年目を迎え、乾貴士など主力の多くが残ったところにサイドアタッカーの松崎快、ボランチの中村亮太朗など、個人で違いを生み出せるタレントが加わった。キャプテンでもあった鈴木義宜がJ1京都サンガF.C.へ移籍したセンターバックのポジションは不安要素だったが、FC東京から加入した蓮川壮大とサンフレッチェ広島から来た住吉ジェラニレショーンが2試合で1失点というディフェンスを支えている。

 新加入選手の効果はもちろんあるが、新キャプテンに任命されたFW北川航也が目の色を変える働きを見せており、リーダーシップを発揮。プレー面でも第2節の愛媛FC戦で2得点を記録した。日本代表に選ばれたこともあるストライカーが心身ともにチームを牽引すれば、J2ナンバーワンとも言えるタレント力を生かして、昇格プレーオフで涙を飲んだ、昨シーズンの雪辱を晴らす可能性は高いだろう。

 ただ、20チーム制となったJ2も残留が現実的な目標になるチームは清水から何とか勝ち点1でももぎ取ろうとしてくるはず。そうした相手に勝ち点を削られずに、勝利を積み重ねていけるかはJ2優勝、自動昇格のためのテーマとなる。またチームの伸びしろを考えても、開幕戦から2試合連続で途中出場している17歳のMF西原源樹など、若手の突き上げが鍵になってきそうだ。

 2試合で7得点2失点、得失点差+5で首位に立つ甲府はAFCチャンピオンズリーグ(ACL)のノックアウトステージを戦うために、早めにチームを仕上げたことに加えて、韓国屈指の強豪である蔚山現代との試合で、ベースの強度を高めてJ2の開幕を迎えたことが、かなりプラスに影響していると考えられる。磐田から移籍したFWファビアン・ゴンザレスなど、強力な外国人アタッカーを擁するだけでなく、徳島ヴォルティスとの開幕戦で2得点した23歳の宮崎純真のような気鋭の日本人アタッカーもいる。

 面白いのは横浜F・マリノスから期限付き移籍で加入した木村卓斗だ。昨シーズンは愛媛FCに武者修行に出て、右サイドバックとしてJ2昇格に貢献したが、甲府では4-2-3-1のボランチで覚醒的な輝きを放っている。第2節の水戸ホーリーホックとの試合ではタイミングよくバイタルエリアからドリブルで中央を突破して、左足でゴールに突き刺した。アウェーで5-1と大勝した徳島戦で宮崎によるチームの3点目をアシストしたライン間侵入など、非凡なセンスを感じさせるプレーが目立っている。

 篠田善之監督が構築する堅実な守備とファビアン・ゴンザレスのパワー、木村のテクニックなどを融合した攻撃力はJ2トップレベル。しかもピーター・ウタカや三平和司など、経験豊富で勝負強いアタッカーも揃える。一昨年の天皇杯王者としてACLを経験した甲府が、清水など並み居るライバルを制して昇格を勝ち取れるか。ハイプレスとリトリート、ポゼッションとカウンターを臨機応変に使い分けるハイブリッドなスタイルも、長いシーズンの戦いで有利に運ぶかもしれない。

J1返り咲きを目指す横浜FCは、上位浮上の可能性も

 山形は昨シーズン5位で昇格プレーオフに進んだが、1回戦で清水にアウェーで0-0と引き分け、年間順位の差で勝ち上がれなかった。渡邉晋監督は組織的にオーガナイズされたディフェンスと多彩なパスワークを植え付け、開幕戦では昇格争いの強力なライバルと見られるジェフユナイテッド千葉を相手に、アウェーで3-2と競り勝った。

 さらに第2節も栃木SCに3-1で勝利を収めたが、甲府と同じく2試合ともアウェーというのは価値が高い。ここまで2試合で3得点と乗りに乗っているのがFW高橋潤哉だ。昨シーズンは14試合で2得点だったが、2年連続二桁得点のチアゴ・アウベスがブラジルのボタフォゴに移籍するなど、複数のFWが移籍した状況で、開幕戦の後半頭から出て2得点をあげると、栃木戦でもロングボールを右前方でイサカ・ゼインが頭で折り返したボールを受けて、ディフェンスのコンタクトを振り切って豪快に決め切った。ここから厳しくマークされるかもしれないが、周りの選手が空いてくれば相乗効果が生まれるだろう。

 スタートダッシュに成功した上記の3クラブが、序盤戦を引っ張っていくことは間違いなさそうだが、シーズンはまだ長い。開幕戦で山形に敗れたものの、第2節で藤枝MYFCに4-0で大勝した千葉はもちろん、1年でのJ1返り咲きを目指す横浜FCも侮れない。開幕2戦連続ドローと出遅れたが、昨シーズンの徳島で13得点の大型FW森海渡など、J2屈指のタレント力を発揮すれば、上位に浮上してくる可能性は高い。

 開幕直前の監督交代に揺れたV・ファーレン長崎は、開幕戦で藤枝と引き分け、第2節ではホームで森山佳郎新監督の率いる仙台に1-2と敗戦。2試合を消化して15位とスタートダッシュに失敗したが、ルヴァン杯の1回戦でJ2昇格組の愛媛と激闘の末に、4-3で勝利して気勢を上げている。エースFWエジガル・ジュニオもゴールをあげており、下平隆宏監督が掲げるパスワーク主体のサッカーに、前線のタレント力が噛み合ってくれば、昇格争いに絡んできそうだ。今秋に完成が予定される新スタジアムで昇格を祝うためにも、ここから上昇気流を描けるか。

 3月10日には長崎と清水が対戦する。清水が昇格争いのライバルを叩いて3連勝でビッグウェーブに乗るのか。それとも長崎がリーグ戦の初勝利を飾って、ここから反転攻勢の足がかりを掴むのか。そのほか横浜FCと山形、勝ち点4で並ぶ岡山と山口の近隣対決など、注目のゲームが目白押しの週末となる。

(河治良幸 / Yoshiyuki Kawaji)



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河治良幸

かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。

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