堂安律「驚く能力を持った選手いなかった」 欧州強豪撃破でらしさ全開…同僚「永遠に心に残る」【現地発】

フライブルクでプレーする堂安律【写真:Getty Images】
フライブルクでプレーする堂安律【写真:Getty Images】

フライブルクが2季連続EL決勝トーナメント進出、負け試合ムードから一転

 日本代表MF堂安律がプレーするフライブルクが2季連続となるUEFAヨーロッパリーグ(EL)決勝トーナメント進出を決めた。

 ランスとの決勝トーナメント・プレーオフ第2戦(3-2)で殊勲の決勝ゴールを決めたオーストリア代表FWミヒャエル・グレゴリッチはミックスゾーンで報道陣に感想を聞かれると、まだ現実のものと受け止められないのか、何度も首を横に振っていたのがとても印象的だ。

「永遠に心に残る試合だと思うし、きっと僕はこの試合のことを永遠に語り続けていくだろうね。ファンのサポートは本当に凄かった。本物のホームゲームだったよ。12人目どころか、13人目の選手がいるような感じだった」

 前半を終えた段階では完全な負け試合だった。不用意なミスから2失点。攻撃でも決定機を作り出すところまで持ち込めない。ファンもイライラでざわついていた。

 後半、クリスティアン・シュトライヒ監督は攻撃的な布陣に切り替え、フライブルクはより精力的に動いていく。この日右ウイングバックでスタメン出場した堂安も、何度も上下動を繰り返しながら、虎視眈々とチャンスを狙い続けていた。

 後半23分に堂安から鋭いフリーキックがゴール前へ送られて混戦状態になると、最後はハンガリー代表MFロランド・サライが右足でズドン。ホームの声援を背に、フライブルクのボルテージはさらに上がっていくが、その後の追加点が遠い。

 このまま追い付けずに終わるのかと思われた後半アディショナルタイムに待望の同点ゴールが生まれた。ゴール前に上っていた途中出場のドイツ代表DFマティアス・ギンターがヘディングで折り返すと、サライがダイレクトパスで途中出場のオーストリア代表FWミヒャエル・グレゴリッチへつなぐ。グレゴリッチもダイレクトでゴール前に折り返すと、ここにジャンピングボレーで飛び込んだのが堂安だった。シュートこそ相手にブロックされたが、そのこぼれ球を素早くサライが押し込んだ。

 フライブルクのファンが飛び上がり、シュトライヒ監督は何度も言葉にならない言葉を叫んでいた。突き上げたこぶしが空気を切る。

 延長に入っても堂安やフライブルク選手の足は止まらない。堂安はクリアばかりになっていた時間帯にボールを何度も収めて、味方につなぐプレーを見せていた。苦しい時にそうしたプレーがどれだけ味方の助けになることか。

 延長後半11分には、堂安がコーナーキックからのカウンターで飛び出すと、ゴール前に走り込む。そのあとのシーンでは自陣深いところで対峙する相手に鋭く身体をぶつけてボールを奪い取る。どこまでも走り、戦う。そんな堂安に対して、至近距離からシュトライヒ監督が大きな拍手を送った。

必然のランス撃破、堂安も手応え「勝つことができるだけの差はあったと思う」

 試合後の堂安は、120分間ハイインテンシティーで走り切っただけに、さすがに疲労の跡を見せながらも丁寧に対応をしてくれる。

 相手は昨季フランス1部リーグ・アンで、パリ・サンジェルマンにわずか勝ち点1差で優勝を逃した強豪ランス。UEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループリーグでは、ホームでアーセナルに勝っている。そんな相手にも堂安らしい強気な姿勢は揺るがない。

「それほど驚くような能力を持った選手がいなかったなという感じです。勝って当然じゃないですけど、勝つことができるだけの差はあったと思う。次またどこの相手になるか分からないですけど、名前負けせずやりたいと思います」

 ベスト16の相手は、グループステージでも同組だったウェストハムに決まった。難敵なのは間違いないが、今年に入ってからの公式戦9試合でわずか1勝と調子は停滞気味で、勝機は十分にある。

 この試合で2得点の活躍を見せたサライは「フランクフルト戦でもそうだったけど、僕らは相手にリードを許してもそこから追い付けるし、ひっくり返せる」とチームへの信頼を口にしていた。過密日程もなんのその。堂安は「逆に週1で試合だと退屈に思ってしまうくらい」と平然たる様子で言う。サライも「僕らはプロ選手。休養して、コンディションをプロフェッショナルに整えるのは僕らの仕事だよ」とさらりと口にする。

 昨季のELベスト16ではユベントスに涙をのんだフライブルク。一段上の景色を見るために、クラブの総力を懸けて臨む。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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