FKよりも効果的? 町田の黒田監督が説くロングスロー肯定論「効果がありすぎる」【コラム】
なぜ日本ではロングスローを取り入れるチームが少ない?
カタールで開催されたアジアカップのグループリーグ第3戦、森保一監督率いる日本代表はインドネシア相手に3点を奪い、試合をクロージングしようとしていた。アディショナルタイムに入った後半45+1分、インドネシアが日本の右サイドのタッチライン、まだペナルティーエリアの角までも届かない位置でスローインを得る。
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ボールを掴んだのは、2023年シーズンまで東京ヴェルディに所属していたアルハン。投げたロングスローはペナルティースポット近くまで飛んだ。日本はクリアしきれず、ファーサイドのサンディ・ウォルシュにボールが渡る。そしてフリーのウォルシュは、ゴールに蹴り込んだ。
アルハンは東京V時代もロングスローからゴールを演出していた。2023年6月7日、ザスパクサツ群馬と争った天皇杯2回戦の後半38分、ゴール前にボールを送ると混戦の中からオウンゴールで決勝点を生んだのだ。
インドネシアだけではない。アジアカップでは多くの国がロングスローを投げる選手をメンバーに入れていた。多くの国でロングスローが有効だと考えられているのは間違いないだろう。
だが、日本ではロングスローを取り入れるチームは多くない。また、ロングスローについては別の批判もある。
東京Vの城福浩監督が2023年に、「ロングスローを武器にするチームだと1回ごとにスロアーが逆サイドまで行ってボールを拭いて、センターバックが上がっていって、と、長いときには40秒ぐらいかかることがあるのです。しかもコーナーキック(CK)と違って10回、20回とある」と、アクチュアルプレーイングタイムを短くする問題点を指摘した。
さらに、足でボールを扱う「フットボール」において、スローインは副次的なプレーである。そのため、スローインをゴールに結びつける戦い方には違和感を覚える人もいるだろう。
黒田監督は攻撃だけでなく、守備でもロングスローは効果的だと説明
それでもルールの範囲内である限り、ロングスローを有効に使わないのは、せっかく持っている攻撃手段を放棄してしまうのと同じになる。ロングスローがどれくらいの有効性を持っているのか、青森山田高を率いていた時にロングスローに注目して積極的に取り入れた、FC町田ゼルビアの黒田剛監督は攻撃のポイントをこう語る。
「相手は推測ができない、予定できない、GKもディフェンスもポジションが取りにくいという錯乱をさせるためには投げられるのなら極力投げたほうがいい。CKを蹴るのと同じように、リスタートとして処理するにすごく難しいものになってくる。ライナー性のボールが来るのか、短いのが来てフリックされるのか、ゴールムーブで一気に飛んでくるかも全く分からないので、守るほうとしてはすごく難しい」
さらに、黒田監督は守備でも効果的だと説明した。
「相手の攻撃陣がみんなゴール前に帰陣することも1つ。そうすることで相手のカウンターを受けずに済む。相手の攻め残りしている選手を1回相手のゴール前に戻す作業にも繋がってくるので、ロングスローは攻撃のセッションだけど、守備においても有効性が高いという考え方もできる」
スローインを投げる時に逆サイドの選手がやってきて投げることについては時間稼ぎという批判について、黒田監督はCKと同じだと説明した。CKの時には反対サイドから選手がやってくることもあったり、GKの前に選手を立たせたりすることと同じだという。
また、そこでの時間が「選手たちの、少し頭を休める、心肺を休めることにもつながってきたり、いろんなところでコミュニケーションを取れたりする時間にもつながってくる。だから、その移動の時間も含めて、すごく有効に使おうと思えば使える」のだと語った。
もっとも、黒田監督はロングスローが非難されていることも知っていた。
「効果がありすぎるからこそブーイングもある。でも、サッカーにおいて攻守にわたって必要な要素でもあるし、必要な時間供給でもある。たくさんあるうちの1つの武器として持っておくことは、より有効性が高くなるし、かつ得点できる可能性が高くなるし、失点の確率が減る」
「スローインの1番いいのはオフサイドがないということ。普通にフリーキック(FK)を蹴るよりも、もしかしたらより有効性がある」と黒田監督は批判を意に介さない。
次の試合でどうスローインを使うのか、監督は「(練習日が)雨なのでロングスローの練習ができないから(次の試合では)たぶん使わない」と笑いながら煙に巻いていたが、今シーズンも間違いなく町田はロングスローを使ってくるだろう。そこでも有効性が確認できれば、日本代表にも積極的に取り入れることを考えてもいいはずだ。
(森雅史 / Masafumi Mori)
森 雅史
もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。