「もう一花咲かせたい」 宇佐美貴史が思い描く“30代ブレイク”の道…目指すトップ下での2桁得点【コラム】
G大阪の主将が最後にJ1で2桁ゴールしたのは2015年
2021年が13位、2022年が15位、2023年が16位と近年、苦境が続いているガンバ大阪。2014年にJ1・リーグカップ・天皇杯の3冠を達成した名門クラブとしては、いち早く停滞感を払拭し、「勝てるチームを再建したい」と躍起になっているはずだ。
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そこで2024年に向けて、中谷進之介、鈴木徳真、山田康太ら実績ある面々を大量に補強。昨季就任したポヤトス監督体制を継続させ、ボールを支配しながら敵を凌駕するスタイルをさらに研ぎ澄ませていく構えだ。
キーマンの1人と目されるのが、キャプテン宇佐美貴史だ。2022年3月に負った右アキレス腱断裂の重傷の影響が少なからずあった昨季は29試合出場5ゴールという結果だったが、先発は16試合とコンスタントな活躍が叶わなかった。
「フィジカル的にはだいぶ戻ってきましたね。トレーニングした後のリアクションも患部あたりはよくなってきましたし、2~3年経って『自分の足に戻ってきたな』という感じがある。今、自分自身に対する心配や不安要素は全くないです」と本人も力を込めている。
前向きな状態だけに、今年は再び圧倒的な存在感を示さなければいけないのだ。
「去年はダニ(ポヤトス監督)が来て、なかなか結果を出せず、苦しんだ1年でした。でも苦しんだり、試行錯誤することはサッカー選手の本質。達成感に満ち溢れるだけがキャリアではないし、僕はそういう経験の方が多いと思います。実際、自分のキャリアは華々しくないので(苦笑)。どっちかと言うと、下に潜っている時間の方が長いので、『潜り慣れてきたな』という感じです(笑)。だけど、今年はもう一花咲かせたいなと個人的には強く思っています。2桁ゴールは取りたいですし、アシストもというところもありますけど、まずはゴール数ですね」と本人は昨季J1でMVP&得点王に輝いた2つ上の大迫勇也(ヴィッセル神戸)にような“30代ブレイク”を期して、新シーズンに挑む覚悟だ。
宇佐美がJ1で2桁ゴールを奪ったのは、2015年が最後。なんと9年も前の話だ。その間にはアウクスブルクやデュッセルドルフでの2度目のドイツ挑戦もあったが、ここ5年間はJ1でプレー。不完全燃焼が続いている。
今年、32歳になるアタッカーが「このままではいけない」という危機感を募らせるのも当然のこと。かつて怪物と言われた決定力と推進力を今こそ示し、本領を発揮すべきなのだ。
2月10日のサンフレッチェ広島とのプレシーズンマッチではベンチスタートとなった宇佐美だが、24日の開幕・町田ゼルビア戦では満を持して先発出場するつもりでいる。今季はトップ下が主戦場になりそうで、本人もよりゴールに近い位置でプレーするイメージを膨らませているという。
「点を取るためには『いるべき場所にいる』ということだと思います。ペナルティーエリアの中でどれだけ仕事ができるかどうか。そこにこだわっていきたいですね。プレシーズンではいい手応えを得られたと思っています」と彼は言う。
確かに近年の宇佐美は下がってビルドアップに参加したり、ゲームメイクに忙殺されるケースもあったが、高い位置で勝負できれば、自ずと得点チャンスは増えてくる。そうなるように、いい意味でエゴを出していくべきだろう。
開幕の相手・町田戦から波へ「去年の神戸を見て痛烈に感じた」
ただ、初戦の相手・町田はまさに難敵。就任2年目の黒田剛監督率いるJ1初参戦の彼らは強度の高い守備と素早い攻守の切り替え、スピーディーな攻めで勝負してくるチーム。「スキを作らない戦い」には定評がある。ボールポゼッションを主体とするガンバは最も相手の罠にかかりやすいのではないかという見方もあるだけに、宇佐美としてはより柔軟な戦い方を模索していくという。
「『やられたら嫌なことを徹底してやってくる相手』というイメージは漠然とありますし、J2でやってきたサッカーをJ1に上がっても愚直に続けてくると思う。勢いを持ってくるでしょうし、代表に入っていた(昌子)源も(谷)晃生といったランクの選手たちも取ってレベルも上がっている。緊張感のあるゲームになると思います。僕らは町田の出方に対して、どれだけ柔軟に対応できるかが肝心。時には自分たちのスタイルに変化を加えながらやらないといけない。時間帯によっては蹴り合いになるかもしれないし、球際だけってこともある。自分たちのスタイルを誇示するだけでやっていくと食われる危険性が高くなる。アドリブを利かせるところがすごく大事になりますね」とキャプテンは気を引き締める。
広島とのプレシーズンマッチを2-1で勝利したこともあり、「今季のガンバは意外に良さそうだ」という前評判も高まっているが、宇佐美はそういった楽観論にも釘を刺す。あくまでプレシーズンはプレシーズンで、開幕後は全くの別物。そのくらいの厳しさを持って戦うことが重要だという
「僕は危機感を積み上げていく方が、シーズンの入りとしてはいいと思う。勘違いだけしないようにというふうな働きかけはチームにはしています。シーズン前があまりよくなかったのに、開幕からうまく運べば一気に自信に変わるというのを去年の神戸を見て痛烈に感じたので。彼らは正直、開幕前は本当に強くなかったのに、開幕直後に対戦したら全く別のチームに変わっていた。だからこそ、本当にシーズンが始まってみなければ分からない。とにかくいい入りができるようにベストを尽くします」
慎重なスタンスを崩さない宇佐美が力強くチームをけん引し、昌子、谷というかつての同僚からゴールを奪って、初戦白星発進できれば、ガンバも過去数年間の流れを払拭できるかもしれない。いいスタートを切るべく、青黒の背番号7には持てる力の全てを発揮してもらうしかない。
7番の大先輩・遠藤保仁も今季からコーチとして身近でサポートしてくれているが、そういったプラス要素も力にして、2024年Jリーグで圧倒的なインパクトを残せれば理想的。宇佐美貴史にはこのまま小さくまとまってほしくない。類まれなゴールセンスを多くの人々に見せつけ、存在感の大きさを再認識させるシーズンにしてほしいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。