「GKはミスしてナンボ」 浦和・西川周作が鈴木彩艶へ送る“モットー”…森保Jへ願う闘将魂【コラム】
西川が森保ジャパンの新守護神・鈴木彩艶を語る
2024年シーズン開幕まで2週間を切ったJリーグ。ペア・マティアス・ヘグモ監督率いる新体制へと移行した浦和レッズは、2月23日のサンフレッチェ広島戦から新たな戦いをスタートさせることになる。
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プロ20年目を迎える守護神・西川周作にとっては今回の古巣対戦は特別。というのも、広島の新本拠地・エディオンピースウイングスタジアムのJリーグ初試合だからだ。かつての広島ビッグアーチでタイトルを手にしたことのある男にしてみれば、さまざまな感情が湧き上がってくるだろう。
そこで相手を完封して最高の一歩を踏み出せれば理想的。ここまで浦和はプレシーズンの練習試合全勝と非常に仕上がりがいいだけに、期待は日に日に高まっているのだ。
「沖縄キャンプの成果は前線からの守備がうまく機能していたこと。より相手ゴールの近くで奪って得点機会を増やすところが目的だったけど、そこはみんなミスを恐れずに前進できていたのかなと。僕らGKが求められているのは、背後のスペースの対応。今のチーム戦術だと、そこがより空いてくるので、監督からも強く言われていますけど、問題なくやれているかなと思います」とベテラン守護神も大きな手ごたえをつかんだ様子だ。
指揮官は変わったが、ジョアン・ミレッGKコーチは今年も残留。グループとしては3年目に突入する。慣れ親しんだ指導体制の中でできるのも、西川にとっての大きなアドバンテージと言っていい。
「今年のテーマは、2年やってきたことをミスなく動く、効率よく動くというところを体に染み込ませながら。頭で考えるのではなく、体が自然に動く状態を作っていくこと。すごく楽しみですね」と彼は爽やかな笑みを浮かべていた。
そのGKグループでは、昨夏までのメンバー鈴木彩艶(シント=トロイデン)がゴールマウスを守った日本代表のアジアカップ全5試合の戦いぶりを全員で見て、ディスカッションを行ったという。
「キャンプ中だったので、毎試合、みんなで見ました。彩艶のプレーを見て、ジョアンも含めて『解決方法をどうするか』いう話し合いもしましたし、彩艶を自分たちに置き換えながら学びをしましたね。彩艶自身、不完全燃焼だと思っていると思います。本人のコメントにもありましたけど、彼にとってはすごくいい経験になったはずです。日本代表のゴールマウスは、いろんな人が考えている以上にプレッシャーを感じますし、勇敢でなければいけない。そういう場所で全試合出てゴールを守り続けたことに意味がある。どう感じたかは本人にしか分からないですけど、話す機会があったらいろいろ聞いてみたいと思います」とずっと近くで切磋琢磨してきた男は21歳の若きGKの心情を誰よりもよく分かっているようだ。
その西川自身も20代前半でA代表の大舞台を踏んでいる。2009年10月のアジアカップ予選・香港戦(日本平)。当時の正守護神は楢崎正剛(名古屋アシスタントGKコーチ)で、川島永嗣(ジュビロ磐田)も控えている状況。23歳の西川はまだまだ経験不足だったがゆえに、恐怖感を覚えたというが、最終ラインに陣取った先輩たちが勇気を与えてくれた。
「今でもすごく覚えていますけど、闘莉王(田中マルクス闘莉王)さんが円陣を組んだ時に『お前を信じているから大丈夫だぞ』と声を掛けてくれたんです。その一言で『やってやろう』という気になれた。経験値のない自分を安心させてくれる言葉に助けられたんです。阿部(勇樹=浦和ユースコーチ)ちゃんもいてホントに心強かった。終わった後は『ああ、楽しかった』と思えたんですよね。彩艶も試合をこなすごとによくなっていったし、イラン戦なんかはビルドアップもしっかりつないでいて、立て直した感があった。そこは嬉しかったですね」と西川は自身と鈴木彩艶を重ね合わせつつ、試合を見ていたことを明かす。
ベテランGKが誹謗中傷に警鐘「間違っている」
確かに今大会の鈴木彩艶の重圧は計り知れないものがあったはず。前にいた谷口彰悟(アル・ラーヤン)や板倉滉(ボルシアMG)、冨安健洋(アーセナル)らが鼓舞し、自信を持たせるような声掛けをしていただろうが、当時の闘莉王のようにもっともっと強く激しくやっても良かったのかもしれない。キャプテン遠藤航(リバプール)含め、成長途上の若いGKをしっかり育てるように仕向けてほしいというのが、西川の中にある小さな願いなのかもしれない。
もしも鈴木彩艶が、イラン戦の後半アディショナルタイムに相手大サポーターが背後に陣取る騒然とした状況下で、アリレザ・ジャハンバフシュ(フェイエノールト)のキックを止めていたら、確実にヒーローになっていただろう。ただ、決められてしまったことは決して失敗ではないと西川は断言する。
「最後、PKが来た時は、『これは彩艶のためのPKだな』と思いながら、GKチームで見ていました。もともとPKは相手が決めて当たり前。シュートのコースもよかったし、あれは防ぐが難しかった。彩艶はちゃんと手も伸ばしていたし、やることはやったというのが僕らの分析です。彼がああいう状況を楽しんでやれるくらいのメンタリティーになれれば、もっともっと余裕を持てる。そうなってほしいですね」とベテラン守護神はどこまでも前向きに語っていた。
こうして半年前まで一緒に練習していた後輩が大きな挫折を味わう結果になったわけだが、「GKはミスしてナンボ」というのが西川のモットーだ。
「ミスを成長のエサにするというか、自分もそうやって来ました。逆にミスをしないと自分の限界域が分からない。いろんなトライをして『自分はここまで行けるな』とか『あのボールだったら、あれ以上は難しいな』というのを理解しながら、学ぶことが一番大事なんです。今回、ミスに対していろいろ言う人がいましたけど、それは間違っていると僕は思います。SNSはいい形で利用できたらいいけど、そうじゃないところもある。最後は自分の親指に『これ、投稿していいのか』と問いかけながらやらなければいけないんじゃないかと強く思います」
鈴木彩艶への誹謗中傷にも警鐘を鳴らした西川。そういう勇敢さも実に彼らしいところ。人情味のある懐の深い男は38歳になる今季もさらなる前進を続け、最高峰レベルを追い求めていく覚悟だ。
大先輩・川島永嗣とJリーグを牽引するベテラン勢「自分の力を証明」
加えて言うと、長い間、尊敬の眼差しで見つめていた川島が2010年以来のJリーグ復帰を果たし、同じリーグで相まみえることになったのも大きな刺激。年齢を重ねたからこそ出せる味を彼らは示していくはずだ。
「永嗣さんは年々パワーアップするイメージですね。代表で試合に出ていなくても、所属チームでしっかり練習して、代表に来た時にはパワーアップしていたので。レッズレディースのコズコズ(安藤梢)も『年齢はただの数字』と言っていましたけど、本当にその通り。僕もその言葉を信じながら、自分の力を証明していけたらいいと思います」
そうやって高みを目指し続けている先に、もしかしたら日本代表復帰がないとも言い切れない。森保一監督は西川と長く共闘した指導者なのだから、必要なタイミングになれば呼んでくれるかもしれないのだ。そんなサプライズもうっすらと脳裏に描きつつ、プロ20年目の守護神は浦和にJ1タイトルを取らせるべく、最高の準備を続けていく。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。