小野伸二の引退セレモニー&引退会見秘話 社内チーム結成…本人にお願いした「2つのこと」【インタビュー】

ラストマッチ後の引退会見で記者の質問に丁寧に答える小野伸二【写真:(C) mm】
ラストマッチ後の引退会見で記者の質問に丁寧に答える小野伸二【写真:(C) mm】

広報・プロモーション部の田子大地さんが明かす舞台裏

 2023年のJ1最終節・北海道コンサドーレ札幌対浦和レッズ戦、3万人を超えるファン・サポーターが見守るなか、現役ラストマッチを終えた小野伸二。そのあと、ピッチでは引退セレモニーが行われ、プロサッカー選手としての小野の最後のメッセージに大きな拍手が送られた。

 ピッチをあとにした小野が向かったのは引退会見場。引退会見の実現には長年の広報経験から「メディアを通して、多くのファン・サポーターに小野伸二の声を届けたい」という願いを伝え、控えめだった小野の心を動かした広報スタッフがいた。広報・プロモーション部の田子大地さんが引退会見の舞台裏について語った。

   ◇   ◇   ◇

 伸二さんに引退会見についてお話をした時、最初は、「サッカーは辞めないから、“引退会見”みたいに堅苦しいのはやらなくていいよ」というお返事でした。

「たくさんのメディアが伸二さんの声を聞きたいと思うし、メディアを通じて多くのファン・サポーターが聞かれると思うので会見をさせてほしい」とお伝えしたら、「じゃあ、試合後のミックスゾーン(取材エリア)。あそこでいいでしょ」という感じでした。

 それでも、「“リーグ戦の最終戦で、伸二さんの最後”となれば、メディアがたくさん来られるし、ミックスゾーンだけでは対応できないですよ」とお伝えしました。実際、伸二さんのマネジメント会社の担当者の方も「やろうよ」と言ってくださいましたし、伸二さんもそれを分かって、マネジメント会社やクラブが考えていることがあると思うので、話し合っていこうという流れで落ち着きました。

 だんだん日が進んで、伸二さんに「最終戦で伸二さんの引退セレモニーをやりたい」という話をしました。北海道コンサドーレ札幌では、出場記録を達成した選手の表彰を記録達成直後ではなく、ホーム最終戦で実施することになっています。それで、最終戦後のセレモニーでは、まず記録達成の表彰と花束贈呈をし、代表の三上大勝GMの挨拶とミシャ監督の挨拶があって、最後に伸二さんの引退セレモニーをやりたいと話しました。

 サッカーを辞めるわけじゃないことも分かるし、これで終わりじゃないけれど、プロサッカー選手としては区切りということで、今の気持ちやこれまでの歩みについて伸二さんの言葉を聞きたい方がたくさんおられるという話をしたら、伸二さんも、「そっか、じゃあ、やろうか」と言ってくださった。続けて、「引退セレモニーでも喋んなきゃダメ?」と、いたずらっぽく笑いながら話されていました。

 とにかく、引退セレモニーでは来場されたお客様に対して、まずは言葉を届けてほしいことと、引退会見でメディアを通じてファン・サポーターに言葉を届けてほしいという2つをお願いしました。

引退会見の様子【写真:(C) mm】
引退会見の様子【写真:(C) mm】

社内で「シンジオノ、リタイヤメントプロジェクト」チームを結成、各部署から精鋭が集結

 そこから、いろいろなスケジュールを組み始めました。伸二さんとはそれから「今はこんな考えです」「このようなイメージです」というやり取りを何度もしました。そのうちに、「どこでどうやってやるの?」と、逆に伸二さんから質問をいただくようになりました。

 試合には、伸二さんのご家族はもちろん、たくさんの友人や関係者の方が来られました。伸二さんらしいなと思いますが、ご自身の最後のゲームを、見てほしい方にご自身でチケットを買われてプレゼントされていました。マネジメント会社の担当者の方からは、試合後にはその方々との食事会も予定されているとお聞きしました。

 広報としては、伸二さんへの個別インタビューの申請を24社からいただいていたので、それを3日の試合後、4日、5日、6日で分散させていこうと、当初は試合後にもいろいろな取材対応を考えていましたが、試合後は引退会見だけという約束をして、納得をして引き受けていただきました。

 伸二さんの引退が決まってから、社内で「シンジオノ、リタイヤメントプロジェクト」というチームを結成しました。このチームには、広報をはじめ、運営、グッズ、イベントプロモーションなど、各部署から領域を超えて10人ぐらいが集まり、週1回およそ2時間の定例会をして準備を進めていきました。

 引退会見のバッグの垂れ幕のデザインも、広報・プロモーション部のクリエイティブ担当を中心に、定例会で意見を出し合ってたくさんの案の中から決定しました。

 小野伸二を送り出すプロジェクトはクラブ総出で行い、試合前日には手分けして客席に赤と黒の紙を1枚1枚貼っていきました。場内を暗転した時の演出として、「ここにお座りの方は、スマートフォンのライトに赤いテープを付けて、赤く光らせてください」といったお願いを記載しました。赤と黒をちょうど1万7000枚ずつ作って、合計3万4000枚を座席に準備しました。

観客が掲げる色紙が、北海道コンサドーレ札幌のユニフォームを象徴する赤黒の縦じま模様を浮かび上がらせた【写真:(C) mm】
観客が掲げる色紙が、北海道コンサドーレ札幌のユニフォームを象徴する赤黒の縦じま模様を浮かび上がらせた【写真:(C) mm】

初対面は小野伸二、野々村芳和、三上大勝が揃った食事会の席

 私と伸二さんとの出会いは、2014年。私が広報になりたての頃でした。加入の1週間ほど前に伸二さんが一度札幌に来られた時のことです。三上大勝GMの配慮で、これから広報とのやりとりが増えるだろうということで、伸二さんと三上GM、野々村芳和元社長(現Jリーグチェアマン)の会食の席に私も呼んでいただきました。

 その時の伸二さんの印象は今と変らず、互いに自己紹介をして「これからよろしくお願いします」と同じ目線で挨拶してくださいました。伸二さんは、「おいくつですか?」と質問されて、「伸二さんの2つ上です」と答えると、「同世代ですね」というやりとりをして、優しい方だという印象を持ちました。

 会話は自然とサッカーの話になりました。印象深かったのは、伸二さんの「高校生の時は、頭の中にアイデアやイメージがどんどん湧いてきた」という話です。食事会は、伸二さん、野々村社長(当時)、三上GMというサッカー好きの3人が止めどなくサッカーの話をされて、あっという間の2時間でした。

小野伸二はいつもプロフェッショナル、一緒に過ごして憧れが尊敬に変わった

 引退会見については伸二さんから事前にいろいろな質問をされました。例えば、「どんな服装がいいの?」や「足もとは?」からはじまり、「どのタイミングで座ったらいいの?」や「どっちを向いていたらいいの?」という細かな確認です。

 いつもそうなんですが、プロサッカー選手としての気配りがすごくてプロフェッショナルだと思います。一般的に、選手が気にされるのは所要時間などですが、伸二さんは、服装や振る舞いなど、しっかりポイントを聞いてこられる。立ち位置もフラッグの前がいいのか、バナーの前がいいのかなど、細かな確認をされるんです。我々広報チームは伸二さんにかなり磨かれたと思います。

 伸二さんが2014年に加入された当時、札幌はJ2でしたが、当時の私からすれば、海外のビッグクラブにおられた方が、J2クラブの入社1年目の広報に毎回細かく注意点を聞いてくださることが嬉しかったです。目線を一緒にして仲間として接してくださって、人間性が素晴らしい方だと思いました。

 僕だけではなく、小野伸二という選手に憧れていた若い職員も、その憧れがだんだん尊敬に変わっていったと思うんですよね。個人的には、伸二さんへの尊敬と10年間の感謝を最終戦でしっかり表現することで伝えられたらいいなという思いでいました。伸二さんに「ありがとう」と思ってもらえるような時間にしたい。「シンジオノ、リタイヤメントプロジェクト」は、最終戦で伸二さんへ敬意を込めて感謝を表したいというプロジェクトだったと思います。

 最終戦が終わり、最後に伸二さんとお会いしたのは、伸二さんが12月7日にクラブ事務所に挨拶に寄ってくださった時です。職員みんなで記念に写真を撮ったあと出発されました。お別れの日の伸二さんは笑顔だったのはもちろんですが、事務所の休憩スペースの人工芝でリフティングされていましたね(笑)。

(mm)



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