「監督のせい」「もう招集するな」は極論 アジア杯8強敗退…森保ジャパン解体論の是非【コラム】

森保ジャパン解体論の是非を考察【写真:ロイター】
森保ジャパン解体論の是非を考察【写真:ロイター】

アジア杯8強敗退の教訓をどう生かすか

 森保ジャパンは2月3日、アジアカップ準々決勝のイラン戦で先制しながら試合終了間際のPKによって逆転され、ベスト8で敗退した。

 ワールドカップ(W杯)優勝という高い目標を掲げながら、アジアのベスト8止まりだったことで批判が続出している。果たして、この痛い教訓をどう生かしていくべきか、まずは整理して考えたい。

 なお、避けるべきなのは「何が起きても、それは監督のせいなので監督を交代させるべきだ」「あの選手がミスをしたのだから、もう招集するな」という極論だろう。敗退の原因を狭めていくことは、本来解決すべき問題を見えにくくしてしまう。

 例えば、「森保一監督を交代させればすべて上手くいくようになる」という論は、根拠がしっかりしなければ、単に責任を押し付けただけになる。さらになんの責任を取らなければならないのかも分からない。

 アジアで負けるようなチームはW杯で活躍できない、というのは2022年のカタールW杯の予選と本大会で違うことが実証されている。同じように、逆の極論である「このままで良い」というのにも論拠が必要だ。少なくとも、カタールW杯のベースとなったチームは2019年のアジアカップで準優勝なのだ。

 今回、1月5日のカタール入りから2月3日の敗退まで、練習を含めてチームを見続けて問題ではないかと感じたことがいくつかある。そのポイントを基に、果たしてこのチームを継続するべきかどうかを考えてみたい。大きく考えると2点ある。

選手たちはアジア杯に集中できていたのか

 まず感じたのは、果たしてこの「アジアカップ」に選手たちはどれくらい集中できていたのだろうかという点だ。2019年のUAE大会の時は、第一次森保ジャパンが発足して6試合目がアジアカップ初戦だった。つまり、まだ誰もが日本代表で自分のポジションを獲得すべく虎視眈々と狙っている時期でもあった。また、チームは世代交代を意識しており、その意味でも、ベテランも若手も張り切らざるを得ない大会だった。

 今回のアジアカップは、第二次森保ジャパン発足から12試合目が初戦のベトナム戦だった。しかも監督が継続したため、チームは熟成期を迎えようとしている。しかも、森保ジャパンで押しも押されもせぬ選手たちは、自チームのリーグ戦を抜けてカタールに集合。自分がいないことで空いたポジションがどうなるか気になってもおかしくない。

 これがW杯なら良かったかもしれない。だが、このアジアカップで優勝したとしても、次に何かの大会につながるわけではない。もしも優勝チームは自動的にW杯出場が決まる、などという「特権」があれば良かったかもしれないが、約7億円という優勝賞金だけでは、選手の気持ちは動かなかったのではないだろうか。

 グループリーグのベトナム戦、イラク戦と、選手のポジションや距離感が合っていない試合が続き、インドネシア戦ではやや改善が見られた程度。決勝トーナメント1回戦のバーレーン戦でフォームを取り戻したかに見え、イラン戦は前半こそ良かったものの、後半はまたもバラバラになった。

 選手のコンディションはカタールW杯の時のほうがよりひどかったが、それでも試合になればしっかりとしたプレーを見せてくれた。それに比べれば、今回はまとまりがなかったと言える。

森保監督が“俯瞰”する指導体制は問題?

 続いて感じたのは、指導体制はこれでいいのだろうかという点だ。

 第二次森保ジャパンは発足当時から名波浩コーチ、斉藤俊秀コーチ、前田遼一コーチに戦術練習を任せた。森保監督はやや離れた位置から全体を見渡し、時折重要な点を説明するにとどめている。

 日本国内にはこの方法で成功しているクラブがある。FC町田ゼルビアは黒田剛監督と金明輝コーチの分業制で2023年、念願のJ1昇格を果たした。全体の方向性を黒田監督が決め、それを金コーチがユニークな指導で選手たちに落とし込んでいった。

 森保監督は、2期目を指導するにあたって指導のマンネリ化を防ぎたかったのだろう。また、分業することでもっと選手の細部を観察できるようにしたかったのかもしれない。

 だが、選手たちが監督に求める役割とはズレを生じるのではないかと思える。というのも、カタールW杯前にヨーロッパに視察に出かけた森保監督は、日本人選手が所属するチームの監督は選手に細かく指示を出していると感想を述べていた。

 一方で、2018年のロシアW杯、ベルギー戦の敗因をベンチからの指示の前に選手が感じて動かなければ間に合わなかったと分析し、選手たちが自分たちで判断できるようにとチーム作りをしてきた。

 今回の敗戦を受けて森保監督は「ヨーロッパと日本との文化の違いで、選手への声のかけ方が全然違う。(自分で判断できるのは)日本の良さでもありますが、海外の選手たちの日常の熱量に合わせていくところは考えていかなければいけない」と語ったのは、まさにその部分だろう。

「口調の強さ、言葉の使い方、どれだけ強い言葉を使うか」という点の再考を示唆したが、それと同時に、指導の時の立ち位置も問題かもしれない。

メンタル専門家の招聘や監督自らの強烈指導も必要

 では、感じたこの2つの問題点をどうすればいいのだろうか。

 ポイント1の、試合に対する選手の気持ちについては、今後、このような大会はW杯までないため、大きな問題にはならないかもしれない。だが、試合への集中力を高められない可能性がある時は、メンタル面の専門家をチームに加えるのがいいかもしれない。

 ポイント2の、森保監督がどうチームをコントロールするかについては、W杯の前のように、時おり声を荒げてでも指導していた部分を、コーチに任せているなかでも出さなければいけないのではないだろうか。

 この2つの問題だと思った点を解決すればアジアカップに優勝できたかというと、そうではないかもしれないが、チームとしては考えなければいけない点であると思う。そしてもし、これでもダメだったら、それこそ指導体制を考え直さなければならない。

 ヨーロッパで活躍している選手が増えているので、ヨーロッパの監督がいいだろう。日本人を指導して、日本人の特長などを分かっていて、なおかつW杯でも成績が出せそうな人物を選ばなければならない。そう考えると、もうすぐフリーになるというユルゲン・クロップ監督などがいいのだろうが、年俸は約30億円と言われていることを考えると……どうも自分で言った極端な論は慎むべきということに引っかかりそうだ。

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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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