Jクラブの「賢い補強策」と主流は? 鍵は突出した選手の存在…難しいのはチームバランス【コラム】

穴埋め的な補強が主流【写真:徳原隆元】
穴埋め的な補強が主流【写真:徳原隆元】

プロサッカーの成否を握るシーズンオフの編成…注目はやはり新加入選手

 新シーズン開幕に向け、Jリーグの各チームはキャンプを張って準備を進めている。注目はやはり新加入選手だ。プロサッカーの成否を握るのがシーズンオフの編成である。

 どのチームも補強はしているが、ここまでの情勢を見る限り戦力の大幅アップというより、穴埋め的な補強が主流のようだ。

 そんななか、川崎フロンターレのFWエリソンがキャンプの練習試合でのプレーぶりで話題になっていた。その様子を評して「献身的なフッキ」というパワーワードも出てきている。

 フッキと言えばJリーグで活躍したあと、ブラジル代表に上り詰めたストライカー。筋骨隆々の肉体と驚異的なスピード、パワーで移籍した欧州でもひときわ目立つ存在だった。しかし、Jリーグではまだ若かったこともあり、典型的な個人プレーヤーであり献身性とは縁遠い印象だったのだが、あのフッキがアグレッシブに守備をするとなるとかなり強烈だ。

 ブラジル人アタッカーと言えば、技術と攻撃力は素晴らしいが守備を熱心にやるという印象はなかった。ただ、それも過去の話になりつつあるのかもしれない。欧州リーグへの飛躍を目指す彼らにとって、欧州での強度の高いプレースタイルに適応しなければならない。獲得を検討する側も、かつてのように1つ2つの決定的なプレーで「違い」を作ってくればいいというわけではなくなっているからだ。

 Jリーグも2019年にアンジェ・ポステコグルー監督の率いる横浜F・マリノスがリーグ優勝したのを節目に、高強度のプレーは明確なトレンドになっている。およそどのチームも強度アップに余念がない。かつてあるチームの強化を担当した人の話では、「資金がないクラブは上手い選手は高額で手が出ないけれども、走れる選手なら集められる」と考え、補強ターゲットを強豪クラブと重ならないように設定し、走力を活かすプレースタイルで対抗しようとした。ところが、現在は上手い選手も走れるのが当たり前になりつつある。

 また別の強化担当者の話では、「日本代表クラスを別にすれば、50試合以上出場している日本人選手はカテゴリーに関係なく十分信頼できる」と言っていた。一定の試合経験があれば、J1かJ2かを問わず戦力として計算できるというわけだ。例えば、J2時代の徳島ヴォルティスの“顔”だった岩尾憲は浦和レッズに移籍したあとも中心的な存在として活躍してきた。

理想は突出した選手に合わせて全体がレベルアップすること

 こうした現状を踏まえると、新たな賢い補強策が浮かび上がってくるかもしれない。

 鍵を握るのは突出した選手の補強だ。日本代表クラスか、それに匹敵ないしそれ以上の能力を持つ外国籍選手を獲得する。一方、穴埋め部分としてはJ2以下のカテゴリーでプレーしていて一般的には有名ではないが50試合以上出場の実績を持つ手堅い選手を獲得する。ここで大きな差が出ないなら、予算は抑えたほうが得策だからだ。

 ここで難しいのはチームのバランス。図抜けた選手が1人いるだけでは、かえって全体の統一感が損なわれる。簡単に言えば、1人だけプレーのテンポやイメージの違う選手がいると全体の収まりが悪くなってリズムが出ないのだ。

 理想は突出した選手に合わせて全体がレベルアップすること。そうすると安定した強さを発揮できるが、停滞は後退なのでさらに図抜けた選手が必要になる。そして再びバランスは悪くなる。こうした浮き沈みを経験しながら5年くらいでサイクルを上手く回せるかどうかが強化担当の腕ということになりそうだ。

(西部謙司 / Kenji Nishibe)



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西部謙司

にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。

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