久保建英に求める本田圭佑の「エゴイストさ」 日本人離れしたメンタリティーを【コラム】
日本代表では献身性を重視する久保
「優勝候補筆頭」と目されながら、グループリーグ序盤2戦で1勝1敗とまさかの展開を余儀なくされている日本代表。1月24日のインドネシア戦に引き分け以上ならD組を2位通過することになる。ここで停滞感が払拭できないと決勝トーナメント以降に弾みがつかない。次こそは相手を零封したうえで、攻撃陣も爆発し、圧勝したいところだ。
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そのためにも、早い時間帯に点を取ることが重要。伊東純也(スタッド・ランス)がイエローカードをもらっていて、南野拓実(モナコ)も21日の全体練習に不参加だったことを考えると、彼らは先発回避する可能性がある。今回は堂安律(フライブルク)、トップ下に久保建英(レアル・ソシエダ)が入る公算が大だ。
このうち久保は、イラク戦でもトップ下で先発しながら、思うような攻撃チャンスを作れず、後半頭から右サイドへ移動。そこでようやく彼らしい躍動感や創造性が出てきたと思った矢先に交代を強いられた。
試合後には「今日は正直、あんまり崩せている感覚はなかったですね」と不完全燃焼感を吐露。JFA(日本サッカー協会)の公式YouTubeチャンネル「JFATV」が公開する「Team Cam」の中でもロッカールームでうなだれている姿が映し出されており、大きな期待を背負いながらチームを勝たせられなかった悔しさを噛みしめていたに違いない。
18歳になったばかりの2019年6月のエルサルバドル戦で初キャップを飾ってから約5年。同年夏のコパアメリカ(ブラジル)、2022年カタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選、W杯本番と彼は数々のA代表公式戦に出場してきたが、正直なところ、彼本来の頭抜けた能力を出し切ってエース級の活躍をした試合はかなり少ない。
とりわけ、今回と同じカタールの地で行われたW杯は最たるもの。ドイツ、スペイン戦では先発しながら守備に忙殺され、持ち味を全く出せず、勝負の懸かったクロアチア戦は高熱を出して欠場。最悪の形になってしまったのだ。
「自分はもうカタールW杯の時とは別の選手」と1年以上の月日が経った今、久保は断言している。確かにその後のレアル・ソシエダでの傑出した活躍、今季UEFAチャンピオンズリーグ(CL)参戦で自信をつけているのは事実。今季リーガ・エスパニョーラ前半戦での6得点3アシストという実績も際立っている。しかしながら、代表に来ると、アシストには関与しているものの、ゴールはいまだ3だけだ。
本人は「自分が点を取らなくてもチームメイトが取ればいい。僕はクラブで点を取っているので」と涼しい顔をしているが、日本が窮地に陥っている今は悠長に構えてはいられない。自らチームを救い、優勝へと導くような結果が強く求められるのだ。
代表での久保は調和を大事にする日本人選手らしく、ハードワークや献身性を重視。伊東や堂安、中村敬斗(スタッド・ランス)らに点を取らせようというお膳立ての意識が非常に強い。それはそれで大事なことなのだが、バルセロナのアカデミーで育った選手なのだから、日本人離れしたメンタリティーを持つストロングをピッチ上で示すことも重要だろう。
ゴール数は「3」 求めるのは本田、香川超え
思い返してみると、2015年に初めてU-15日本代表入りした頃は、1つ上の菅原由勢(AZアルクマール)や中村に「俺にボールをよこせ」と注文をつけるほど強気の少年だった。「そこがタケのよさ」と当時の森山佳郎監督(現ベガルタ仙台)も太鼓判を押していたが、A代表入りしてからは、いい意味で「俺が、俺が」といった姿勢があまり見られなくなっている。もっとエゴイストになる場面もあっていいのではないか。
「僕よりいい意味でうるさい長友(佑都)選手が抜けたことで、僕が(盛り上げ役みたいに)なっているだけなのかなと。僕が目立ってきただけなのかと思います」と久保は賑やかで明るい性格がより浮き立ってきたと自覚している様子。ならば、そういうラテンのキャラクターをよりピッチで表現し、自分で流れを引き寄せてくれれば理想的だ。
同じカタールで2011年アジアカップを優勝へと導き、MVPに輝いた本田圭佑は、今の久保とは比べ物にならないほどのエゴイストだった。代表37ゴールという数字はそのマインドの強さから生まれたもの。2012年5月に背番号18を4に変えた時も「もともと18番は与えられた番号やったんで、2年くらいプレーしたけど、あんまり好きじゃなかった。好きな番号っていえば10番やけど、(香川)真司って決まっているし、もうちょっと面白い番号ないかなって考えて、4番だった(栗原)勇蔵くんにOKをもらった」と自分の意思でアクションを起こしたことを堂々とメディアの前で語っていた。
まさに「有言実行」のスタイルは、長友を上回る表現力を備えた今の久保にもできるはず。久保がかつての本田のような存在感を示しつつ、インドネシア戦でコンビを組むであろう堂安や中村らと連動し、自分も得点に向かっていけるようになれば、「1+1」が「3」にも「4」にもなる。久保を中心にそういったハーモニーが生まれれば、間違いなく日本の停滞感は払拭できるはずだ。
「このチームは幸い、雰囲気が悪くなることはあんまりないので。負けても自信もありますし、過信はしないですけど、僕らは連勝してきて強いチームであることは間違いない。どんな強いチームも対策されたら負けることはありますから。このチームの目標は全勝じゃなくて、アジアカップ優勝。まずはグループリーグ最後のインドネシア戦に向けてしっかり準備をして、しっかり勝って、グループリーグ突破したいなと思っています」
その意気込みを結果につなげられるのか。とにかく今の「代表ゴール3」という数字は久保らしいとは決して言えない。本田の37、香川の31といった高い領域を目指して、彼にはインドネシア戦を代表成功ロードの新たなスタートにしてほしいものである。
(元川悦子 / Etsuko Motokawa)
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。