J1復帰の磐田オフ補強後「新陣容」 川島永嗣が“電撃加入”「まっさらな状態」なチーム力考察【コラム】
2年ぶりにJ1へ復帰、今オフ補強後の陣容にフォーカス
ジュビロ磐田は2年ぶりにJ1で戦う。昨シーズンは1年間の補強禁止という処遇のなかで、加入戦力がレンタルバックの4人とユースから昇格のFW後藤啓介(→アンデルレヒト)のみという厳しい体制に。カタール・ワールドカップ(W杯)までコーチとして森保ジャパンを支えてきた横内昭展監督が、チームのベースを引き上げて、2位での自動昇格を勝ち取った。
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そこからFW大津祐樹、GK八田直樹、MF遠藤保仁の3人が現役引退。磐田の象徴的な存在だったMF山本康裕がJ3の松本山雅FCに移籍など、大幅な入れ替わりがあったなかで、15人の選手が新たに加わった。高卒ルーキーのDF朴勢己や20歳のDF西久保駿介など、若い選手が多数を占めるなかで、4度のW杯を経験した40歳のGK川島永嗣がサプライズ的な加入となった。
全体的に若い選手が増えた印象だが、横内監督は「若返りというよりも、さらに成長できる。個人として。そこはすごく、僕の中で補強のこだわりがありました」と語る。昨シーズン中は藤田俊哉スポーツダイレクターを筆頭とするフットボール本部に対して、具体的なリクエストは出していなかったというが、そのなかでも「こういう選手が必要だよねという話はずっとしていた」というように、大方針は共有されていたようだ。
今回の磐田の補強で注目されるのはJ3のカマタマーレ讃岐からDF川﨑一輝が、Kリーグの大田ハナシチズンからMF石田雅俊が加入するなど、非常にバリエーションに富んでいること。横内監督は「うちの強化のスタッフはいろんなところの試合を観てるので。そこに関しても話をしながら、僕のやろうとするスタイルに合ってるかどうか。それはJ3だろうがJFLだろうがカテゴリーに関係なく、そのポテンシャルを持った選手は常に発掘しようとしてくれている」と横内監督は説明してくれた。
もちろん川﨑に関しては横内監督も「僕も数試合観ましたけど、元々は前目の選手で、昨年は右サイドバック。十分フィットするんじゃないかなということで、加入することになった」とポテンシャルに太鼓判を押している。1つの基準になるのは自分たちからボールを動かして、主導権を握っていくスタイルを継続すること。ただ、やはりJ1が舞台となることで相手の強度が上がったり、ボールを握られたりする時間、守備でハメられる状況もJ2より生じやすくなる。
いざ、そうなった時に「放棄しなきゃいけない時もある。その判断が重要になってくる」と横内監督も語るように、ボールを握ることに固執するのではなく、前方に蹴る場合もあれば、タッチラインに逃れて流れを切る場合もある。まずは勝利から逆算していく優先順位を間違えないというのが横内監督の譲れないポリシーだ。
日本代表、欧州で百戦錬磨の守護神・川島加入で好影響も期待
そうした意味で経験ある川島加入の影響というのは非常に大きい。そのことは横内監督も強く感じているようだが、その川島でもポジションは約束されていないことを強調する。戦力面では昨シーズンより上がっている印象はあるが、やはり高校生Jリーガーとして7得点を挙げた後藤がベルギーの名門アンデルレヒトへ、中盤のポリバレントな活躍が目立ったMFドゥドゥがJ2のジェフユナイテッド千葉に移籍。右サイドバックとして3得点10アシストを記録したMF鈴木雄斗(→湘南ベルマーレ)も含め、J1で戦ううえで重要な戦力になり得た選手たちの退団もあり、単純に上積みされているわけではない。
そうしたなかでも昨シーズンのロアッソ熊本でキャプテンを務め、J2のベスト11に輝いたMF平川怜、アビスパ福岡でルヴァン杯の優勝を経験したMF中村駿など、順調にフィットすれば確実に磐田のインテンシティーやクオリティーを引き上げてくれそうなタレントも加入している。また、守備陣の要であるDFリカルド・グラッサの引き留めに成功した外国人勢も期待は大きい。
中盤の底を担う新加入MFレオ・ゴメス(←ヴィトーリア)は守備的なキャラクターだが、ボールを奪うだけでなく、正確なファーストパスで攻撃の起点になれる。MFブルーノ・ジョゼ(←グアラニ)はサイドをドリブルで切り裂けるタイプのアタッカーで、主に右側からチャンスを作り出す。左サイドのスペシャリストであるMF古川陽介とともに、相手ディフェンスの脅威になりそうだ。
残る2人はFWで、28歳のFWマテウス・ペイショット(←アトレチコ・ゴイアニエンセ)はサイズを生かしたポストプレーとボックス内の力強さを持つ。川崎フロンターレを退団したFWレアンドロ・ダミアンのスタイルに似ていることを本人も認める。21歳のFWウェベルトン(←ニューイングランド・レボリューションⅡ)は身体能力が高く、またフィニッシュのセンスにも優れるストライカーで、かつてのFWフッキやFWアモローゾのように、Jリーグで成長して、将来的に欧州やセレソンでの活躍も見込まれるヤングタレントだ。
もちろん、楽しみなのはそうした新加入選手だけではない。昨シーズンの中盤で主力を担ったMF上原力也やMF鹿沼直生はもちろん、伸び盛りのMF藤原健介も、持ち前の展開力やセットプレーのキックに磨きをかけて、主力定着を目指す。左サイドの古川に関しては昨シーズン、横内監督の下で守備面などに成長を見せたが、やはり突破力やゴール前での決め手など、結果を突き詰めるシーズンになるだろう。
主力退団、怪我から回復途上…左右サイドバックは懸念事項に
少し不安材料となるのが、DF松原后が怪我から回復途上の左サイドバック、鈴木の抜けた右サイドバックだが、左は大分トリニータから加入したDF高畑奎汰、右は川﨑が開幕スタメンの有力候補となる。サイドの選手ながら抜群の跳躍力を備える西久保、左右のサイドバックをこなせる生え抜きのDF小川大貴もおり、パリ五輪の出場に期待が懸かるDF鈴木海音も右サイドバックをこなせる。ここは選手たちの奮起はもちろん、横内監督のチョイスが鍵を握るところではある。
チーム始動の時点で「多分、永嗣をトップで使うとかはないと思う。そこは考えてない。本当にまっさらな状態ですね、今のところ」と冗談混じりで現在の状態を語った横内監督。まずは目標の最低ラインである勝ち点40に到達して、残りの試合でどこまで伸ばしていけるかというシーズンになるが、磐田がJ1王者、アジア、そして世界へとステップアップしていく本当の意味でのスタートになるようなシーズンを厳しく、前向きに見守って行きたい。
河治良幸
かわじ・よしゆき/東京都出身。「エル・ゴラッソ」創刊に携わり、日本代表を担当。著書は「サッカーの見方が180度変わる データ進化論」(ソル・メディア)など。NHK「ミラクルボディー」の「スペイン代表 世界最強の“天才脳”」を監修。タグマのウェブマガジン「サッカーの羅針盤」を運営。国内外で取材を続けながら、プレー分析を軸にサッカーの潮流を見守る。