森保ジャパンが苦戦、アジア杯対戦国の「フラット3」 当時批判も…日本戦で効果証明【コラム】
アジアカップ日本戦でベトナム代表が見せたフラット3、トルシエ監督時代に日本も採用
アジアカップ初戦の相手はベトナム代表。33分に1-2とリードを許した日本代表だったが、前半のうちに2ゴールを追加して3-2と再びリードを奪い、後半にも1点を追加して4-2とねじ伏せた。
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日本のプレッシングに怖気づくことなく、時折素早いパスワークで外していたベトナムの技術の高さについて、「予想外だった」という声が選手からも出ていたようだが、準々決勝で対戦して1-0の辛勝だった4年前を思い出せば、足技や俊敏性に意外性はなかったはずだ。むしろ意外だったのは統制の取れたコンパクトな守備のほうだろう。
3バックのラインコントロールによるコンパクトネスの維持と、連動して寄せていくプレッシングは懐かしの「フラット3」である。ベトナムを率いるフィリップ・トルシエ監督の代名詞とも言える守備戦術だ。2000年レバノン大会、トルシエ監督が日本を率いて、史上2度目の優勝をもたらした時の看板でもある。
「フラット3」は当時、日本のサッカー界に論議を巻き起こした。同じ3バックでも「リベロ」を起用したシステムに馴染みがある頃で、フラット3については「リスクが高すぎる」と懸念する声も多かった。ただそれ以上に、この守備戦術がトルシエ監督のパーソナリティーと結び付いてしまい、「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」ではないが、たんなる守備戦術の枠を超えて批判されていた。
DF3人の息をピッタリと合わせるために、かなり細かい注文がつけられていた。初期の練習ではボールを使わずにラインコントロールとプレッシングのメニューを延々とやっていたこともあり、その高圧的な態度も相まってトルシエ監督のメディア受けは良くなかった。監督を認めたくないがゆえに、フラット3も認めるわけにはいかないという雰囲気があったものだ。
しかし、あれから25年以上経ち、ベトナムのフラット3が現在の日本に対しても一定の効果があったのは興味深い。
優勝候補筆頭の日本にもある程度通用したフラット3、普遍的な効果がある守備戦術
2000年レバノン大会の時、日本のフラット3はアジア諸国にとっては「見たこともない戦術」であり、「欧州的なプレースタイル」と評されていた。一方、今回のベトナムは新しくもなんともない。
24年前とは状況が全く違う。にもかかわらず、フラット3が優勝候補筆頭の日本にもある程度通用していたのは、それが新しいからではなく普遍的に効果がある守備戦術だからだ。フラットバックによるプレッシングは一周回って新鮮という程度の、すでにアジアでも消化された基本戦術だからである。
トルシエ監督が日本を率いていた時期もフラット3が世界の最先端だったわけではない。フラット3の運用に極端なところはあったとはいえ、フラットバックによるコンパクトネスは時代の流れだった。しかし、2002年自国開催のワールドカップへ向けて、日本の守備戦術が強豪国に対しても一定の効果を表していたのも事実である。今回のベトナムが日本に善戦した時間帯を作れたように、格上の相手との差をある程度詰めるのに向いた性質の戦い方なのだ。
ある意味、硬直したシステムではあるので、相手が本気で弱点を狙いにくると難しいが、対策を気にしすぎて墓穴を掘ってくれることもある。ベトナムは2000年アジアカップでの日本の立場にはないが、アジアの強豪へ挑む姿は、世界の強豪へ立ち向かった当時の日本には近いかもしれない。
(西部謙司 / Kenji Nishibe)
西部謙司
にしべ・けんじ/1962年生まれ、東京都出身。サッカー専門誌の編集記者を経て、2002年からフリーランスとして活動。1995年から98年までパリに在住し、欧州サッカーを中心に取材した。戦術分析に定評があり、『サッカー日本代表戦術アナライズ』(カンゼン)、『戦術リストランテ』(ソル・メディア)など著書多数。またJリーグでは長年ジェフユナイテッド千葉を追っており、ウェブマガジン『犬の生活SUPER』(https://www.targma.jp/nishibemag/)を配信している。