中村敬斗、A代表初のビッグトーナメントへ 非凡な決定力でニュースターに躍り出るのか?【コラム】
初戦のベトナム戦は、非公開試合のヨルダン戦のメンバーがベースとなるか
2019年のアジアカップUAE(アラブ首長国連邦)大会で、伏兵・カタールにファイナルで敗れ、準優勝に終わった日本代表。森保一監督、そして選手たちにとって今回のカタール大会は前回のリベンジを果たす絶好の機会となる。
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1月14日の初戦・ベトナム戦は重要なファーストステップ。そこでスムーズに白星を手にできるか否かで今後の展開が大きく変わってくると見られる。
13日も別メニューだった三笘薫(ブライトン)、全体練習に合流したばかりの中山雄太(ハダースフィールド)、冨安健洋(アーセナル)、久保建英(レアル・ソシエダ)らは初戦回避が確実。となれば、今回のスタメンは9日に非公開で行われたヨルダン戦のメンバーがベースになるだろう。
その場合、攻撃陣は細谷真大(柏)、伊東純也(スタッド・ランス)、南野拓実(ASモナコ)、中村敬斗(スタッド・ランス)という組み合わせが有力視される。基本布陣は4-2-3-1なのか、ボランチを一列上げた4-3-3になるのか未知数な部分もあるが、上記4人が攻めの中心になる公算が大だ。
このうち細谷と中村はアジアカップ初参戦。特に2023年3月のウルグアイ戦(東京・国立競技場)で初キャップを飾ってからA代表5戦5発、ヨルダン戦を含めれば6戦6発と、驚異的なハイペースでゴールを量産している中村にはブレイクの予感が色濃く感じられる。
「絶対優勝したい。優勝すれば僕初めてのタイトルだと思いますし、チームとして日本として本当に取りたいタイトルなので」と彼は13日の前日練習後にも目をギラつかせた。
三笘の欠場もあって初戦からスタメンのチャンスが巡ってくるのは、やはり“持ってる男”。今大会のニュースター有力候補は特別な闘争心を抱いてピッチに立つはずだ。
伊東も太鼓判「敬斗はチャンス。薫とは違った良さがある」
中村のストロングは、やはり傑出した得点力にほかならない。2018年に代表デビューした堂安律(フライブルク)が7点、2019年デビューの久保が3点という数字なのだから、すでに1年足らずで5ゴールという実績は高く評価していい。
「今のところスーパーゴールは決めていないし、パスがいい。みんながつないで後は決めるだけなので、ホントにラッキーですね」と本人も2024年元日のタイ戦(東京・国立)後にもコメントしていたが、同クラブの先輩・伊東を起点とした右からのクロスに詰める形は高い確率でゴールにつながる。
「それは間違いなく狙っています。伊東選手が突破してくれるので、そこに全エネルギーを注いで僕が入っていく。やっぱり逆サイドから入っていくところは自分の武器でもあるので、うまく形になればいい」と中村は自信をのぞかせた。
もちろんベトナムも日本の新たな得点パターンを徹底的に分析してくるだろうが、今の彼には冷静かつ確実に仕留めるだけの能力がある。前回の南野が決勝までゴールできなくて苦しんだことを考えると、とにかく彼には早い段階で一発決めてほしい。それがメンタル的な余裕、自分らしいプレーにつながるはずだ。
普段から行動をともにしている伊東も「今は薫が怪我をしていて、敬斗はチャンスだと思いますし、やる気は十分だと思う。薫とは違った良さがあると思うので、そういうところを出せるように手伝ってあげられればいい」と援護射撃を約束していた。心強いサポートも力にして、ベトナムを圧倒してほしいものである。
左サイド以外でも、攻撃パターンを多彩にしていく必要性
ただ、アジアカップは最大7試合。上のステージに行けば韓国やオーストラリア、サウジアラビアといった強敵とも対峙することになる。となれば、1つの得点パターンだけでは必ず壁にぶつかる。中村が陣取る左サイドからも仕掛けや局面打開をして、中央や右からゴールする形も確立させていかなければならないのは事実だ。
「左からの崩しはもっと増やしていきたい。1人でぶっち切るのはそんなに簡単なことじゃないので、周りを使うことを考えたいですね。左サイドバックと連係してタイ戦の2点目を取りましたけど、あんな感じでボランチとFW、トップ下と絡みながら崩せればいいと思ってます」と彼は単独突破に長けた三笘とは違った色合いを出しながら、左サイドの攻略を考えていく構えだ。
こうしたチャレンジの結果として、得点ランキング上位に浮上するようなことがあればまさに理想的。前回王者に輝いたカタールのアルモエズ・アリが9ゴールをマークし、得点王に輝いたことを考えれば、中村にもできないことはない。
当時のアリはそこまで知名度がなく、年齢も22歳と若かった。その彼に比べれば、中村は欧州での実績もあるし、国際経験値も高い。もちろん最前線のFWとサイドアタッカーではゴールチャンスの数に差があるかもしれないが、もともと点取り屋だった男はペナルティエリア内での仕事に長けている。どうしても期待を抱いてしまうのだ。
「得点を取れるかどうかはタイミングにもよりますし、ゴールはラッキーなところもある。(得点王とか)そういうことはあまり気にせず、アジアカップで日本が優勝するために頑張りたいです」と本人は雑念を捨ててフォア・ザ・チームに徹するという。
そうやって献身的な姿勢を貫いた先に輝かしい未来が待っている。日本のニュースターが自身初のアジアカップで見る者を震撼させるパフォーマンスを見せつけるのを楽しみに待ちたい。
元川悦子
もとかわ・えつこ/1967年、長野県松本市生まれ。千葉大学法経学部卒業後、業界紙、夕刊紙記者を経て、94年からフリーに転身。サッカーの取材を始める。日本代表は97年から本格的に追い始め、練習は非公開でも通って選手のコメントを取り、アウェー戦もほぼ現地取材。ワールドカップは94年アメリカ大会から8回連続で現地へ赴いた。近年はほかのスポーツや経済界などで活躍する人物のドキュメンタリー取材も手掛ける。著書に「僕らがサッカーボーイズだった頃1~4」(カンゼン)など。