進撃の堀越、高校選手権初ベスト4快挙の舞台裏 選手の可能性を引き出す大胆改革がもたらした部活の新しい息吹【コラム】

堀越はベスト4の大躍進を見せた【写真:徳原隆元】
堀越はベスト4の大躍進を見せた【写真:徳原隆元】

2012年にボトムアップ理論を導入した堀越高校サッカー部、試行錯誤し最適解へ急接近

 佐藤実監督が堀越高校サッカー部にボトムアップ理論を導入したのは、2012年の春だった。以来12年間、選手たちと一緒に追求してきたのは、10代の多感なプレイヤーたちが秘めた可能性を最大限に引き出すための正解のないチャレンジだった。

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 これまで団体スポーツに限らず、日本の教育全体に浸透してきたのは、唯一の正解を引き出すためのディスカッション不在の上意下達だった。しかし佐藤監督は、そういう環境に馴染み育ってきた選手たちに、半ば見切り発車で部活の主権を手渡す。

 もちろん自ら広島へ向かい、広島観音高校時代に選手主導のボトムアップ方式で全国制覇を成し遂げた畑喜美夫氏の先駆的な成功体験を学習したうえでの決断だったが、型にはめて足並みを揃える教育を常識と捉える内外を含めた周囲からの逆風は想像に難くない。

 しかし、責任を託された選手たちは、佐藤監督の想像を超えて、試行錯誤を繰り返しながらも堀越サッカー部ならではの最適解へと急接近した。選手起用の裁量を任された初代主将は、重圧から自身のパフォーマンスが低下すると、自らスタメンを外れる決断をした。

 やんちゃ坊主が大半を占めた頃には、部活を円滑に継続させるために仲間同士で誘い合って授業に出席し、終了後には速やかなグランドへの移動を習慣づけた。勝つために、あるいはそれ以前のサッカー部の円滑な活動継続のために、どんな責任が伴うのか。彼らはそこから思考し歩み始めた。

ボトムアップ方式を採用して全国ベスト4までたどり着いた【写真:徳原隆元】
ボトムアップ方式を採用して全国ベスト4までたどり着いた【写真:徳原隆元】

佐藤監督が得た確信と実感「ボトムアップをやっていなかったら、絶対来られていません」

 ボトムアップ方式に転換して3年目、石上輝という強烈なリーダーシップを持つ主将を得て、堀越は20年ぶりに西が丘サッカー場(選手権東京都予選準決勝以降の舞台)に到達する。ようやくピッチ上の選手たちとスタンドが一体化して沸き上がるシーンを目にして、佐藤監督も「これでいいんだ」と確信できたという。

 東京制覇(全国高校選手権出場)を実現したのは、2度決勝戦で跳ね返されたあとの2020年度だった。もっとも堀越にとって29年ぶりの快挙に沸く渦中の佐藤監督は、改めて選手たちの秘めた可能性に驚愕していた。

「本当は堀越が100周年を迎える今年度の大会でなんとか全国大会に出て、学校をワクワクさせることができたら、と考えていたんです」

 ところが主権を託され、個々が目標も到達方法も熟考し、役割を見極め議論し互いに客観評価をするようになった選手たちは、とうとう創立100周年では全国ベスト4まで上り詰めた。その成長曲線をすべて見てきたからこそ、国立競技場の準決勝を終えた佐藤監督は言い切った。

「ボトムアップをやっていなかったら、絶対にここには来られていません」

選手たちもボトムアップ方式の部活を満喫「自分たちで戦術も考えられて楽しかった」

 今年度の最上級生たちは、3年前の全国ベスト8を見る前に入学を決め、多くは堀越がボトムアップ方式を導入していることも知らなかった。しかし、副キャプテンとしてチームを支えてきた吉荒開仁は、堀越での部活を経験したからこその成長を、こう振り返る。

「堀越にはプレーでもプレー以外でも全員から信頼される中村健太という主将がいて、積極的に発言するタイプだった。だから僕は陰で彼を支え、背中を押すことを意識してきた。私生活でも周りを見て気を遣えるようになった。自他ともに、そう思います」

 また189センチの長身GKで、チームの安定した守備を支えた吉富柊人も、ボトムアップ方式の部活を満喫できたという。

「自分たちで戦術なども考えられて楽しかったし、トップダウンでは選手起用に監督の好き嫌いが反映されそうだけど、ここではやるべきことをやった選手が選ばれます」

 旧来の部活では、勝ちたい監督が、勝つための方法論を選手たちに強要してきた。しかし選手が主役の堀越では、彼らが目的地を定め、指導者には必要な手助けを求める。どちらがコーチとして高次元の資質が要るかは自明の理だ。逆に佐藤監督が目指すのは「日本一」以前に「日本一魅力的な部活の実現」だが、そこには限りなく近づいているように映る。

(加部 究 / Kiwamu Kabe)



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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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