独2部MFアペルカンプ真大と考える人種差別問題 「『おい、中国人!』と遊び感覚で言う人もいる」【インタビュー】

デュッセルドルフでプレーするアペルカンプ真大【写真:Getty Images】
デュッセルドルフでプレーするアペルカンプ真大【写真:Getty Images】

日本からドイツへ、アペルカンプ真大「幸運なことにそうした目に遭ったことはない」

 ドイツのブンデスリーガ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフでプレーするMFアペルカンプ真大は、ドイツ人の父と日本人の母の下で育ち、15歳の時にドイツへ渡った。日本代表入りの思いも語っていたアペルカンプは、サッカー界でもいまだに見られる「人種差別問題」について「そういうのは、本当に嫌ですよね」と持論を展開している。(取材・文=中野吉之伴/全5回の5回目)

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 差別問題というのは、いつの日かなくなるのだろうか。

 海外で生活していると、いろんな出来事に遭遇する。通りすがりに「おい、中国人!」とからかわれたり、こちらがアジア系と見られれば高飛車な態度を取られたりすることもある。距離感の取り方が洗練され、あしらい方に慣れが出てくると雑音として聞き流すこともできるだろうが、だからといって罵詈雑言の度合いによっては、メンタル面でそう簡単に回復できないダメージを受けてしまうこともある。

「僕は幸運なことにそうした目に遭ったことはないですけど」と前置きし、話をしてくれたのはデュッセルドルフでプレーするアペルカンプ真大だ。

 ドイツ人の父、日本人の母を持つアペルカンプは東京で生まれ、三菱養和SC巣鴨ジュニアユースでプレー。15歳の時、父親の仕事の関係でドイツのデュッセルドルフに渡り、デュッセルドルフの下部組織に加入した。着実にステップアップを遂げてトップチームデビューを飾り、プロ4年目となる今季も第17節を終えて15試合に出場し、1ゴール7アシストの活躍を見せている。チームの主軸の1人としてファンや首脳陣から期待されている選手だ。

「日本代表のユニフォームを着たいという思いは間違いなくあります」とドイツ地元紙に語っていたアペルカンプは、学生生活を含めてドイツで長い時間を過ごしているなか、人種差別問題をどのように受け止めているのだろうか。

「そういうのは、本当に嫌ですよね。『おい、中国人!』というような言葉って、本当に差別するつもりで言っている人もいるし、遊び感覚で言う人もいる。でも、例えば学校や通りすがりにいきなり知らない人に言われるのはジョークなんかじゃないし、ジョークにはならないと思う」

社会的に高いステータスを持つ「プロスポーツクラブ」が果たすべき義務と責任

 人種差別問題について、国際サッカー連盟(FIFA)をはじめ、各国サッカー協会も力を入れているし、スタジアムに行けば「人種差別撲滅」という言葉や横断幕はよく目にする。メディアに取り上げられる機会も増えてきているのは事実だ。それでも世界中のスタジアムでは今も、単なるヤジに収まらない差別表現を見聞きすることがあるし、実際にそれが原因で試合が一時中断したり、中止になったりするケースさえある。

「どこだったか、確かドイツでも(東京)オリンピックの前くらいに親善試合をした時に、黒人のルーツを持つ選手がそうやって差別されたことがありました」

 U-21ドイツ代表としてプレー歴を持つアペルカンプは悲しそうにそう話した。そうした差別問題を「仕方がないこと」として受け入れながらやっていくしかないのだろうか。すべての人種差別を根絶するの難しいし、不可能かもしれない。だからといって、何もできないということではない。

 欧州において、プロスポーツクラブというのは社会的に高いステータスを持っているし、だからこそ社会に対して模範的な活動をする義務と責任がある。プロクラブでプレーする選手や指揮を執る監督だからこそ、そのメッセージはさまざまな人にダイレクトに届く可能性があるはずなのだ。

 元ヘルタ・ベルリン育成部長のフランク・フォーゲルがこんなことを言っていた。

「今、世界で目にしているものが、知らない内に自分たちを間違った方向へ導く危険性を知ることが大切なんだ。残念ながら両親や学校からの影響だけでは難しいのが現状だ。我々はプロクラブとして、子供たちに対してポジティブな影響を与えられるチャンスを手にしている。規律、マナー、振る舞い。正しく自分を舵取りする大切さを伝えるのは、プロクラブとして重要なテーマなんだ。現在社会が生み出しているものの中には、子供たちの成長をサポートするのではなく、むしろ弊害にしかなっていないものがあることを認識しなければならない」

本気の取り組みが地域社会にもたらす活力、人種差別に「ノー!」と言える人を増やす

 デュッセルドルフでは、アペルカンプをはじめトップチームの選手が地元の学校を回り、人種差別撲滅キャンペーンに参加する機会も少なくないという。

「僕ら選手が『Schule ohne Rassismus』(人種差別のない学校)というキャンペーンに参加して、自分の話をしたり、子供たちと交流する活動をしています。本当にそれでなくなるかは分からない。でもこうした活動をクラブとしてやっていくことは大切なことだと思っています」(アペルカンプ)

 キャンペーンだから話をして、話を聞くというような一過性で終わらないように、他人事として見過ごさないようにするのが大事だ。プロクラブだからこそできることがある。本気の取り組みは地域社会に確かな活力とビジョンをもたらす。人種差別をゼロにすることは難しいのかもしれない。だが、人種差別に「ノー!」と言える人を増やすことは可能なのだから。

[プロフィール]
アペルカンプ真大(アペルカンプ・シンタ)/2000年11月1日生まれ、東京都出身。ドイツ人の父、日本人の母の間に生まれ、ヴィトーリア目黒FCや三菱養和SC巣鴨ジュニアユースでプレー。15年にデュッセルドルフの下部組織に加入し、19年にプロ契約。21年にU-21ドイツ代表に選出されて10番も背負った。将来、ドイツ代表か日本代表のどちらを選択するか注目される逸材。23-24シーズンもコンスタントに出場し、デュッセルドルフのトップチームで4シーズン目を戦う。

(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)



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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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