日本代表入り期待のアペルカンプ真大が語る、ドイツ2部の魅力と難しさ「世界的になかなかない」「1部のほうが…」【インタビュー】
デュッセルドルフのアペルカンプ真大が体感、ドイツ2部は「すべてがアグレッシブ」
ドイツのブンデスリーガ2部フォルトゥナ・デュッセルドルフでプレーするMFアペルカンプ真大は、日本代表MF田中碧やU-23日本代表DF内野貴史と共闘し、今季トップチームで4年目を戦っている。「日本代表のユニフォームを着たいという思いは間違いなくあります」と明かしていた23歳は、欧州で研鑽を積むなかでドイツ2部の魅力と難しさについて語っている。(取材・文=中野吉之伴/全5回の2回目)
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ドイツ2部リーグは難しいとよく言われる。とにかく“タフ”だ。1部リーグ以上にフィジカルコンタクトが多く、走行距離や連続での動きも相当なものが要求される。そのなかでも確かなクオリティーを発揮し、試合の中で違いを生み出す選手が1部リーグへの扉を開いていく。
デュッセルドルフでトップチーム4年目を迎えるアペルカンプ真大が、2部リーグについて感じていることを話してくれた。
「いや難しいですね。本当にインテンシティー(プレー強度)も高いし、プレーのすべてがアグレッシブです。特にボールを持てる時間がなかなかないですね。ブンデス(1部)はまだやったことないし、実際どうかは自分では分からないですけど、いろいろ聞いた感じだとブンデスのほうがもっと時間があるとよく聞く。その点、2部リーグだとどのチームと試合しても、すぐにハイプレスできたりする。あとは特に空中戦が多いですよね」
2部やそれより下のリーグで、ハイ・インテンシティー&ハイプレスが機能するのはそれをいなして、逆にスペースを突いてチャンスを作り出せるチームが少ないことの表れでもある。ドイツ1部だと闇雲なプレスを丁寧なビルドアップでかいくぐり、素早い攻撃に転じられるだけのクオリティーを備えたクラブがそれなりにあるし、監督もそうした選手を求める傾向があり、アペルカンプもそこに同意する。
「プレッシャーは常に速い。(トップチームにデビューした)最初の頃はもっときつかったですね。今は慣れてきたけど、それでも毎試合毎試合やっぱり難しいなって感じています」
思い出す日本代表MF中村敬斗の言葉「逆にフィジカル面が勝手に伸びていた」
2部リーグではビルドアップを放棄するわけではないが、相手のプレスに対してリスクを冒さずシンプルなパス展開を図り、打開が難しいと感じたら大型FWをターゲットにして一気にパスを飛ばし、セカンドボールを狙うというシンプルな戦い方も少なくはない。そうしたスタイルのサッカーにリズムを掴めず、自身のパフォーマンスを十分に発揮できない選手もやはりいる。
これは日本人選手に限った話ではなく、他国から移籍してきた選手全般に言えることだ。特に各国の世代別代表選手をはじめ、将来を有望視されるプレーヤーであっても、2部リーグや3部リーグで思うような活躍をできずに伸び悩むパターンは多い。近い年齢の選手と対戦する育成年代の試合と、大人のサッカーはやはり違う。
そうした2部リーグのスタイルに順応するのは決して簡単ではない。だが、例えば2部リーグのスタイルは自分に合わないからといって、距離を取ってしまうのはどうなのだろうか。それを負担と受け止めたり、正面から向き合わないのではなく、今必要とされるプレーやスキルの向上に取り組み、自身をさらに成長させる必要なプロセスとポジティブに解釈できるかどうか。
そうした前向きな思考は間違いなくその先の明るい未来につながっていく。アペルカンプも言う。
「ここ2部で自分のプレーをしっかりと見せられたら、1部でもできるかなって思ってます」
オーストリア1部LASKリンツのセカンドチーム時代に、オーストリア2部でプレーしていた日本代表MF中村敬斗(現フランス1部スタッド・ランス)が、当時こんなことを言っていたのを思い出す。
「オーストリアリーグってフィジカルサッカーでもある。僕とは逆なタイプというか。だから逆にそこ(フィジカル面)が勝手に伸びていたんですよね。このリーグにフィットするにはそれが必要だったし、そこに取り組みながら自分の技術で違いを作っていくという感じです」
欧州5大リーグ1部に匹敵するドイツ2部の熱気「5万7000人くらい入りました」
ブンデスリーガ2部には、リーグとしての魅力がある。
9月中旬のリーグ戦平均観客動員数で、ヨーロッパ6大リーグでトップ3に入る数字を残しているのだ。その週はトップがプレミアリーグ(イングランド)で4万2432人、次いでブンデスリーガ1部(ドイツ)が3万5775人、そしてブンデスリーガ2部(ドイツ)が3万3018人。ラ・リーガ(スペイン)やセリエA(イタリア)よりも多い。これは凄いことだ。
「僕らの開幕戦も4万ぐらい入ってましたね。2部でもやっぱりサッカーが持つパワーっていうのは凄い。特にドイツは凄いですね。ファンが本当に熱狂的。昨季も2部でのハンブルガーSVとの一戦は5万7000人くらい入りました。世界的にもなかなかないですよね。そういう意味でもブンデスリーガは2部でもすごく魅力的だと思います」(アペルカンプ)
タフさが求められる一方で、熱狂的な数万人のファンの応援を背にプレーできる素晴らしい環境がそこにはあり、それぞれのクラブにはかけがえのない歴史がある。そんな2部で活躍し、ステップアップを遂げる日本人選手が今後も数多く出てきてほしいものだ。
[プロフィール]
アペルカンプ真大(アペルカンプ・シンタ)/2000年11月1日生まれ、東京都出身。ドイツ人の父、日本人の母の間に生まれ、ヴィトーリア目黒FCや三菱養和SC巣鴨ジュニアユースでプレー。15年にデュッセルドルフの下部組織に加入し、19年にプロ契約。21年にU-21ドイツ代表に選出されて10番も背負った。将来、ドイツ代表か日本代表のどちらを選択するか注目される逸材。23-24シーズンもコンスタントに出場し、デュッセルドルフのトップチームで4シーズン目を戦う。
(中野吉之伴 / Kichinosuke Nakano)
中野吉之伴
なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。