なでしこジャパン、ブラジル遠征「最大の収穫」は? 3分間2失点の衝撃から修正…選手も手応え「バチバチ行けてた」【現地発】
【ブラジル遠征総括|後編:守備面】現地メディアも騒然…日本がパスミスから連続失点
パリ五輪最終予選前、最後の国際親善試合となったブラジルとの2連戦(11月30日●3-4、12月3日○2-0)、日本は1勝1敗に持ち込み、実り多い遠征となった。前編の攻撃面に続き、後編では守備面に着目。新たな4バックの強度に手応えを掴んだ選手たちの証言を基に、短期間で見せた見事な修正力を掘り下げる。(取材・文=早草紀子)
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ブラジル遠征の第1戦では、日本の最終ラインでの単純なパスミスから、わずか3分のうちに2失点を喫するという衝撃が走った。チームの柱である熊谷紗希(ASローマ)が絡んでいたことで、現地メディアもざわついたが、熊谷本人は「シンプルなミスだった。本当にもったいなかった」としながらも、下を一切向いていなかった。修正可能な“シンプルなミス”ゆえに、繰り返さないことを守備陣全員が改めて肝に銘じる失点だったからだろう。
ただ、ほかの選手たちにとってこの2失点は自らを省みるポイントが多く潜んでいたようだ。
「4バックでDF同士の距離が遠くなって前に強くいけてなかった。アンカーへのプレスが速かったので、前に枚数はあってもそこまでつながらない。攻守でポジショニングはもっと改善できる」とは、ゴールを守ったGK平尾知佳(アルビレックス新潟レディース)だ。
2失点目の場面では、ボールをさらって猛進してくる相手に対して、平尾はギリギリまで飛び込まずに引き付けて最初のシュートは身体に当てた。ボールの落ちどころが悪く、結局決められてしまったものの、平尾がコツコツと取り組んできた結果がプレーで表現されていた。
「至近距離での1対1のトレーニングを、世界の強豪相手を想定して練習してきた。タイミングはドンピシャだったんですけど、ちょっと身体をねじってしまったので変なところにボールが落ちてしまった」(平尾)と反省していたが、倒れ込むことなく見極めた選択は間違いではなかった。
想像以上に中盤でイニシアティブを取れていた長野風花(リバプール)は「自分に対するプレッシャーもそれほど感じなかったし、数的優位も作れていたので、中盤でキツさは感じなかった」からこそ、苦い顔をしていた。
引っかかっていたのは失点後のコミュニケーションの部分だ。
「2失点したあとのプレーの選択としては正しくなかった。どんどん相手がプレッシャーをかけてきてたので、近く近くにボールをつけるんじゃなくて、1回相手の勢いを裏返したうえで、自分たちが整えるっていうのをやったほうが絶対に良かった。(失点後に)集まった時も、『ここで落ちずに行こう』『簡単なプレーをしよう』って話してたけど、自分たちが中盤で見えてる分、やるべきことをハッキリ発信できてたら3失点目はなかったと思う」(長野)
しかるべきタイミングで伝える。その徹底で共有できることは多い。高い授業料にはなったが、心掛け一つでクリアできることでもある。
中2日で迎えた第2戦で見事に改善、若手DF陣が思い切り勝負の好影響
中2日で迎えた第2戦では、第1戦で浮き彫りになった課題がほぼ修正されていた。警戒していたサイドから致命的に崩される場面もなかったと言っていいだろう。
徹底されていたのは、低い位置でのセーフティなプレーだった。対日本の戦い方には共通した策がある。相手は恵まれた体躯を生かし、球際をどんどん攻めて、突っつき、日本の小刻みなパスワークにミスを生じさせる。日本としては少しでも相手を引き付けることでギャップを作りながら、ビルドアップをしたい。そこへのトライは必要だが、ピンチの原因はトライする場所の見極めの誤り。突っつかれてボールをロストしたことで生じた失点に倣い、サポートが届かない場所ではリスクを避けた。
サポートがハマるポジショニングにそれぞれが落ち着くと、熊谷のポジションを1つ上げたメリットが十分に発揮された。相手をピン止めに近い状態に持っていくことも多く、この恩恵を受けたのが、最終ラインだ。
特に初キャップとなった古賀塔子(JFAアカデミー福島)や石川璃音(三菱重工浦和レッズレディース)ら前に強く出ていけるタイプの若手DFが思い切り勝負に出られたことで、ボールの摘みどころがハッキリした。後半、3バックに切り替えたあとは、続けざまに攻め込まれたが、むしろ前のボールを狩りに行く最終ラインとそのカバーリングが光った。
ラインを統括していた南萌華(ASローマ)は安堵の表情を見せた。「前試合の4失点の修正はできた。足もともバチバチ行けてたし、背後もラインを高くキープしながらタイミングで下がってセカンドを生み出せてもいた。(古賀)塔子と(石川)璃音ともしっかり話し合って試合に入ったので距離感も良かったし、これをしっかり続けていければ(パリ)オリンピック最終予選でいい戦いができると思う」と満足げだった。
確かに後半は攻め込まれたが、暑さ、疲労を考慮し、前試合での教訓を生かす形で持たせても最後で身体を張り続けた。再三、ボールをかき出し続けた古賀は終了後、迷うことなく「楽しかった!」と90分を振り返った。
パリ五輪最終予選へ弾み、ブラジルを上回った日本のゲームスタミナとタフさ
第2戦ではリスクを最大限に抑え込み、ラストプレーで勝利を逃した第1戦(3-4)を踏まえて、最後の最後まで中途半端なプレーを封印し、集中力を保ち続けた末の2-0のクリーンシート。欲を言えば3バックに切り替えてからの得点も見たかったが、最終予選を見据えれば、何よりも優先させなければならないのは“勝利”。確実に試合を締める――これに特化した時間の使い方、ボールの運び方で完封して見せた。
長距離移動、時差ボケ、暑熱対策など、コンディション面では厳しい遠征ではあったが、限られた時間のなかで修正し、疲労があるなかで発揮できる力を最大限に引き上げて勝利を掴む。高さやスピードでは劣るかもしれないが、日本のゲームスタミナ、タフさは明らかにブラジルを上回っていた。最後の最後まで修正プランを支えたのは、このタフさだった。
2024年2月に控える北朝鮮とのパリ五輪アジア最終予選2試合に向け、ようやくベースは整った。ここから2か月強で個々のさらなるブラッシュアップは必須だが、何よりこのサッカーで戦えるという感触を得られたことが、ブラジル遠征最大の収穫ではないだろうか。
◆なでしこジャパン「2024年スケジュール」
※ホーム&アウェー戦で上回ったチームがパリ五輪出場
2月24日 vs北朝鮮女子代表/パリ五輪アジア最終予選第1戦アウェー(※)
2月28日 vs北朝鮮女子代表/パリ五輪アジア最終予選第2戦ホーム(※)
4月1日~11日 海外遠征
5月27日~6月6日 海外遠征
7月8日~13日 国内トレーニングキャンプ
7月14日~20日 トレーニングキャンプ
7月25日~8月10日 パリ五輪
10月21日~30日 国内トレーニングキャンプ
早草紀子
はやくさ・のりこ/兵庫県神戸市生まれ。東京工芸短大写真技術科卒業。在学中のJリーグ元年からサポーターズマガジンでサッカーを撮り始め、1994年よりフリーランスとしてサッカー専門誌などへ寄稿。96年から日本女子サッカーリーグのオフィシャルフォトグラファーとなり、女子サッカー報道の先駆者として執筆など幅広く活動する。2005年からは大宮アルディージャのオフィシャルフォトグラファーも務めている。日本スポーツプレス協会会員、国際スポーツプレス協会会員。