大国オランダより…日本サッカーには「夢がある」 現地邦人記者が抱く“日蘭”プロ、アマ意識の違い【コラム】

オランダと日本のアマチュアサッカーを巡る違いとは?(写真はイメージです)【写真:Getty Images】
オランダと日本のアマチュアサッカーを巡る違いとは?(写真はイメージです)【写真:Getty Images】

【日本×海外「サッカー文化比較論」】プロ参入意欲が薄いオランダとその逆にある日本

 日本と海外を比較すると、異文化の側面からさまざまな学びや発見があるなかで「FOOTBALL ZONE」ではサッカーに絡めながら、海外では当たり前の価値観、制度、仕組み、あるいは、日本文化や風習にフォーカスした日本×海外「サッカー文化比較論」を展開。今回はオランダリーグにおけるプロ、アマチュア意識への違いを比較する。

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 オランダはプロリーグへの新規参入意欲が非常に薄い国だ。アマチュアクラブはアマチュアのままで良しという気風が根強い。

 1954-55シーズン、56クラブでスタートしたオランダプロリーグは、チーム成績やクラブの財政事情、クラブ同士の合併などで淘汰が進み、その過程でアマチュアクラブは身の丈を知った。21世紀に入り、アマチュアからプロに新規参入したのは、たった3クラブだけである。

 この状況を憂えていたKNVB(オランダサッカー協会)は、2層化されたサッカーピラミッドを1つにするため、09-10シーズンに2部(プロ)から3部(アマ)への降格、10-11シーズンに2部・3部間の昇降格システムを採用した。

しかし悪いことにリーマンショックの時期と重なり、プロクラブが4つも破産する憂き目にあった。もともとアマチュアクラブは総じてプロ化への意欲が低いこともあり、3部リーグの優勝・準優勝チームの昇格辞退が相次いだ。こうしてオランダではプロ・アマ間の昇降格システムが有名無実化した。

 現時点で3部リーグの首位に立つスパーケンブルフがこのまま優勝しても、彼らの勇姿を来季、2部リーグで見ることはない。オランダ1部・2部リーグを形成する34クラブ(リザーブチームを除く)の面々はしばらく変わらないだろう。しかし、オランダの国土が九州ほどしかないことを思えば、プロサッカークラブが34も存在していること自体、すごいことなのかもしれない。

 1993年、10クラブでスタートしたJリーグは毎年のように新しいクラブが参入し、今は3カテゴリー60クラブまで膨らんだ。

 2023年シーズンと24年シーズン、Jリーグは、同じ顔ぶれの60チームで開催される。シーズンをまたいでJリーグが同一チームで構成されるのは06年、07年シーズン以来、本当に久々のこと。愛媛FCを新たに迎えた当時、J1、J2合わせて31チームだった。

 横浜フリューゲルス消滅は今も記憶に新しい。経営危機に陥ったクラブはいくつもある。果たしてプロと呼べるのか、疑わしいクラブもあるとも聞く。しかし、V・ファーレン長崎のように2013年にJリーグ加入という短い歴史ながらもさまざまな困難を乗り越え、街を活気づけるような新スタジアムのオープンに漕ぎ付ける好例もある。

 日本のアマチュアクラブはまだまだJリーグへの新規参入意欲が旺盛だ。今季JFL優勝チームのホンダFCがアマチュア体制を維持し、準優勝チームのブリオベッカ浦安もJ3ライセンスを持たないため、昇格チームが生まれなかったが、近いうちにまた新たなJリーグのクラブが生まれるだろう。

Jリーグ発足を契機に地域のプロスポーツに目覚めた日本

 Jリーグを目指すクラブの公式サイトを眺めるだけで、私はワクワクする気持ちを抑えることが出来ない。以下、いくつかを紹介しよう。(本当にごく一例に過ぎない)

▼レイラック滋賀「滋賀に光を!いざ、滋賀県初のJリーグへ! スタジアム仮設照明設置プロジェクト」

▼東京23FC「2003年の発足以来、着実に階段をのぼってきた東京23FC。目標としているJリーグ参入が狙える位置まで来ました。区民の夢を乗せて、チームは今、東京23区をホームタウンとするクラブとして初のJリーグ昇格にチャレンジしていきます。」

▼VONDS市原「千葉県市原市から県内3番目の”Jリーグクラブ” へ!」

▼南葛SC「南葛SCの短期目標は「葛飾からJリーグへ」の実現です。東京23区にホームスタジアムを持つクラブとしてJリーグ入りするのが現時点での目標ですが、我々のMISSIONはそこでは終わりません。『キャプテン翼』にふさわしく、日本を、そしてアジアを代表するクラブを目指して活動していきます。」

▼房総ローヴァーズ木更津FC「木更津市を拠点に、千葉県全域のサッカーの普及・強化に務めるべく、木更津から房総半島初のJリーグ加入を目指し活動しています。」

▼福山シティFC「Jリーグ参入を果たし、2030年にはJ1で優勝争いをできるクラブを目指す。」

 JFLのヴィアティン三重というクラブの存在は5年前、オランダ人記者から教えてもらった。ヴィアティンというのは、オランダ語のveertien(フェールティーン/14)、つまりヨハン・クライフの付けた背番号に由来するクラブ名であり、クラブカラーもオランダのナショナルカラー、オレンジだ。

ヴィアティン三重「ヴィアティンとは、オランダ語で「14」の意味。
クラブ設立前に視察をしたオランダのような3世代が集まるスポーツコミュニティを実現するためにオランダ語で表現しています。またオランダサッカーを象徴する世界的名選手であるヨハン・クライフ氏の背番号『14』でもあります。現代サッカーに大きな影響を与え、時代を築き上げたヨハン・クライフ氏のように、サッカーを中心とした総合型スポーツクラブとして、日本の豊かなスポーツ文化の発展に貢献するというスピリットを表しています」

 成熟期のオランダは、世界一と言われるほどサッカーの環境が整っている。

 Jリーグ発足を契機に地域のプロスポーツに目覚めた日本は、サッカーのみならず他競技の活性化とともに独自のスポーツ文化を発展させようとしている。Jリーグ参入を目指すクラブの中には、バスケットボール、ハンドボールなどにも力を注ぐところがある。

 この両国を観察する立ち位置にいる私は幸せだなと思う。そういえば房総ローヴァーズ木更津FCはこういう一文を載せている。

「オランダの名門クラブアヤックスをモデルとした、千葉房総が世界に誇る育成機関を創りあげる」

 日本の地方にアヤックスをモデルとするクラブがある。ならば、私ももっとアヤックスのことを取材しなければと思うのである。

(中田 徹 / Toru Nakata)



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中田 徹

なかた・とおる/1966年生まれ。転勤族だったため、住む先々の土地でサッカーを楽しむことが基本姿勢。W杯やユーロ(欧州選手権)をはじめオランダリーグ、ベルギーリーグなどを現地取材、リポートしている。

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