2023年の漢字一文字は「望」 パリ五輪世代MF松木玖生が勝負の24年に思い描く青写真【コラム】
所属クラブと年代別代表の活動で学びの日々
来春にカタールで開催されるパリ五輪予選も兼ねたU-23アジアカップで日本、韓国、中国、UAEと同組なった。「死の組」とも言われる過酷なグループに入ったなかで、活躍が期待される1人がMF松木玖生(FC東京)だ。「FOOTBALL ZONE」ではパリ五輪世代にスポットライトを当てた特集を展開。主軸として期待される20歳の思考に迫る。(取材・文=馬場康平)
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プロ2年目のFC東京MF松木玖生は、慌ただしい一年を過ごしてきた。今季は3月のU-20アジアカップを皮切りに、5月にはU-20ワールドカップ(W杯)に出場。腕章を巻いてチームを牽引したが、強行軍の中での時差対策や体調管理には苦心したという。さらに、9月以降はU-22日本代表にも招集され、来夏に迫るパリ五輪に向けて研鑽を積んできた。「7番」を背負ったクラブでもリーグ戦22試合1得点を記録するなど、20歳は多忙を極めた。
そうしたクラブと代表の2つのユニホームに袖を通す日々のなかで学び、考えることを続けてきた。
「入団当初は全く考えないでやってきたけど、やっぱり(渡辺)凌磨くんや(東)慶悟くんだったり、先輩たちから話を聞くたびに考えることの重要性を学んだ。考えてサッカーをすることによって個人でも打開できるようになるところはある。特に、今年に入ってからは、より考えてプレーするようにしています」
勝つために走り、戦う。元来はそういった原始的なサッカーの魅力を放つプレーヤーだった。ただ、そこにとどまろうとはしていない。プロ入りからいつもそうだった。目標に「チームに一番貢献できる選手になりたい」と置き、足りないのは「すべて」と言い続けてきた。飽くなき向上心の塊は、技術、戦術ともに「自分はまだまだ」と首を横に振って次の行動へと移す。
松木は相手の懐に飛び込んで疑問をぶつけるのが特徴
そこで、松木は何をしてきたのか。
もちろん練習に打ち込むのだが、その前段にワンクッションがある。とにかく話すのだ。そもそもバックグラウンドが異なる選手が集まり、チームとなるスポーツで主張を交わさないなんてあり得ない。サッカーにおいてコミュニケーションは不可欠だ。松木が特異なのは年齢がいくつ離れていようとも、国籍が違っていても、相手の懐に飛び込んで疑問をぶつける。もしくは考えを伝える。それが合っている、間違っているかは問題ではなく、思い立ったら即行動。そうやって、キャリア過程での学び直しを繰り返してきた。これができるベテランはいても、若手では稀な存在だ。
本能的なプレーから脱却し、次なる自分の理想を追いかける。このリスキリングに際限なき成長の秘訣がある。今季は、目指す姿をこう言語化したことがあった。
「ゲームをコントロールするところは、ボランチにおいてすごく必要なところだと正直思っています。自分が思ったことを人に伝えて、それをやらせることはすごく難しい。でも、それを浸透させることでチームもより良くなっていく。もう少しボランチを経由して縦パスを入れることができれば、相手もなかなか前から来られなくなる。そこで数的優位を作りながら前進できればいい」
こうした考えを行動に移せる松木のリーダーシップと、フォロワーシップは準備期間の少ない代表チームでこそ重用されるはずだ。11月のU-22アルゼンチン代表との強化試合を終えた直後、こんな言葉を残している。
「代表活動は自分の見える世界が変わる。もっと上を目指したいという気持ちも増すし、海外でプレーする選手たちたくさん来ているので、そういった選手とコミュニケーションを取りながらいろいろな話をしている。日本のレベルも上がってきているし、欧州の強豪と対戦しても互角以上に戦える自信が今のチームにはある。ただ、まだ失点しているシーンもあるので、そこをなくせばよりいいチームが作れると思う」
まずは所属するFC東京での活躍が前提「この順位にいたらいけない」
大岩剛監督率いるU-22日本代表では「A代表経由パリ五輪行き」が叫ばれている。すでにチームメイトのDFバングーナガンデ佳史扶や、GK野澤大志ブランドンがA代表に選出され、松木自身も視野に入れているはずだ。そのためには、FC東京での活躍が不可欠になる。
「代表とクラブを行き来するシーズンで、リーグ戦も10試合以上出られなかった。チームに迷惑をかけてしまって難しい1年だったけど、U-20W杯や、パリ五輪予選に出場できたことは大きかった。監督がシーズン途中に替わり、クラブでもいろんな経験が積んだ。去年以上に考えてサッカーをするようになったし、そこもいろんな先輩と触れ合ったり、代表での活動を多くしてきたなかで試合経験も積めていろんな考え方を蓄えられたと思う。アシストは少し多かったかもしれないけど、去年の数字と並ぶぐらいのゴール数なのでクラブでの活動に関しては自分でも上手くいかなかったと思う。代表活動では今年に関しては個人の賞も取れたのでそこはプラスに捉えて来季に生かしていきたいと思う」
個人としてはアジア年間最優秀ユース賞に輝いた一方で、今年の東京は6年ぶりにリーグ11位に終わった。自身のキャリアでもここまで負けた経験はなかったはずだ。笑顔よりも、苦しい表情を見ることが多かったかもしれない。
「FC東京はこの順位にいたらいけない。メンバーを見てもらっても強力な選手たちがいる。(最終節の)勝利は当たり前として捉えて、また来年に向けて個人個人が成長していけば絶対に上位は目指せる。スタメンの選手が2、3人外れていても、サブメンバーも含めて全体が一致団結しないといけない。それができなければ、上手くいくものも上手くいかない。チームとしてもっとまとまることが大事だと思う」
主力としての十分な自覚と責任を蓄え、クラブでも代表でもど真ん中に立つ意志が言葉の端々からは見えてくる。来季に備えて束の間のオフを過ごす松木に「今年を漢字一字で表すとすれば」と質問した。すると、松木は「今年の漢字一字……。難しいですね」と、少し間を空けてからこう返ってきた。
「『望』ですかね。今年は目標を達成できなかったので、自分の希望通りの目標に少しでも近づけるようにしていきたい」
望みを叶えるために雌伏の時を過ごし、雄飛を誓う。また慌ただしい毎日が幕を開けようとしている。2024年、さらなる学びの場を求め、パリを舞台に羽ばたく。松木玖生はそんな近い未来を想像させる選手になりつつある。
(馬場康平 / Kohei Baba)