混戦のJリーグで進む「3種類」の色分け 予算潤沢でもまさかの転落…「序列逆転」へ突き詰めるべきものは何か?【コラム】

横浜FCのJ1残留争いから考察するJリーグで進む「3種類」の色分けの現状【写真:徳原隆元】
横浜FCのJ1残留争いから考察するJリーグで進む「3種類」の色分けの現状【写真:徳原隆元】

下位のチームが優勝候補を次々に下す未曾有の大物食いぶりを発揮

 週末の横浜・ニッパツ三ツ沢球技場は、薄いブルーとグリーンに色分けされ、異質な熱気に包まれた。

 今年J1から降格するのは1チームのみ。本命なき混戦レースが続いたシーズンも、途中から降格危機の主役のほうは、横浜FCと湘南ベルマーレに絞られてきた。勝ち点2差で脅かされる湘南は、もし当面のライバル横浜FCのホームで敗れれば最下位に転落する。生死を賭けるような一戦で、前半の主導権を握ったのはホームチームのほうだった。実際に横浜FCの四方田修平監督も「前半は非常に良いゲームができた」と振り返っている。

 しかし明暗を分けたのは、決定的なシーンで責任を全うするフィニッシャーのメンタリティーと精度だった。横浜FCは前半で4度、後半開始早々にもカウンターから決定機を迎えたが、いずれも決め切ることができない。逆に湘南は最初のチャンスでネットを揺すり、このゴールを決勝点としてJ1への残留を決めた。ただしその湘南も、エースストライカーの大橋祐紀が2度到来した突き放す好機を逸しており、それは降格ゾーンが広がる来シーズンへの警鐘となったかもしれない。

 敗れた横浜FCにも数字の上では残留の可能性が残された。しかし17位に転落した柏レイソルとの3ポイント差だけならともかく、得失点差で「12」の違いは重すぎる。残された最終戦へ向けて指揮官も「プライドを賭けて全力で」と語るにとどめたように、この一戦が事実上の降格宣告となった。

 結局昨年J2の2位で昇格して来た横浜FCは、今年もそのままの順位で終えたことになる。致命傷になったのはJ1の水に慣れない序盤の低迷で、初勝利に辿り着くには同じく昇格組のアルビレックス新潟と戦う第11節まで待たなければならなかった。

 ただし反面、最初のアウェー戦(第12節)では0-3と完敗したヴィッセル神戸や、0-5(第7節)と大敗した横浜F・マリノスには、しっかりとホームで勝利を飾っており、とりわけ横浜ダービー(第25節)は4-1の快勝。遅まきながらJ1のレベルに順応すると、最下位のチームが優勝候補を次々に下す未曾有の大物食いぶりを発揮した。

現状打破に必要なのは明確で独自のコンセプト、今後も問われるピッチ内外の総合力

 昨年度のヴァンフォーレ甲府の天皇杯制覇を見てもJ2の上位グループの底上げは顕著で、リーグ全体を俯瞰すれば、J1で優勝やAFCチャンピオンズリーグ(ACL)枠を争い続ける上位グループ、常に昇降格を争うJ1中位以下からJ2上位までのグループ、そしてJ2の中位以下と3種類の色分けが進みつつあるようにも映る。

 現状を脱却するには、徹底してロングパスやクロスに頼らずパスでの攻略にこだわる新潟や、個性と照らし合わせながらその対極を突き詰めるアビスパ福岡や京都サンガF.C.のように、明確で独自のコンセプトを突き詰め浸透させていく必要がありそうだ。

 逆にそこが曖昧で揺れ動くと、いくら潤沢な予算を確保し、一見十分な戦力を有しても下のグループに引きずり込まれるリスクに直面する。とりわけ大宮アルディージャのJ3降格は驚愕の事実で、明確に進むべき道を見極められないクラブは、他山の石として早急に打開策を探らないと、規模や実績にかかわらず転げ落ちるのは早い。

 横浜FCと一緒に昇格してきた新潟は、むしろ新参の真新しさを逆手に、対策に慣れない相手を翻弄して序盤で貯金を作った。J2で過ごす間にブレないコンセプトで地道にチーム作りを進めた成果で、中核の伊藤涼太郎がベルギー1部シント=トロイデンに移籍しても失速を最小限に止めた。反面チームの色が武器になり切れていないと苦戦は必至になる。

 助っ人選手などの質を考えれば、おそらく横浜FCは来年J2では昇格候補に挙がるはずだ。一方でFC町田ゼルビア、ジュビロ磐田などの昇格組は、このままでは厳しい戦いを強いられるし、湘南や柏も同じテーマを抱えている。

 今後混戦リーグで序列を覆しステップアップを実現するには、ますますピッチ内外の総合力が問われることになるはずである。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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