大岩監督の“愛弟子”福田師王に待ち受ける茨の道 序列“最下層”からパリ五輪切符を掴めるか【コラム】
アルゼンチン戦は出場わずかな時間でゴールをマーク
交代でピッチへと送り出される前に大岩剛監督から与えられた指示は「楽しめ!」だった。高揚感とともにタッチラインを跨いだ福田師王は、18日に行われたU-22アルゼンチン代表戦でU-22日本代表初キャップを刻んだ。
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ドイツの古豪ボルシアMGのセカンドチームに所属する福田は、2004年4月8日生まれの19歳。「パリ五輪世代」と呼ばれるU-22日本代表は2001年1月1日以降に生まれた選手によって構成されているため、19歳のストライカーにとっては“飛び級”に近い。
今年5月にはU-20ワールドカップでも活躍していたが、パリ五輪本大会まで1年を切った今から年上の選手たちとの競争に挑んで居場所を勝ち取っていくのは決して簡単ではない。だからこそ、大岩監督は「楽しめ!」の指示に言葉通りの意味だけでなく、「限られた時間の中で何か見せてみろ」という期待も込めていたのではないだろうか。
福田に与えられた時間はアディショナルタイムを含めても10分弱。4-2と日本が2点リードの状況で交代出場した19歳は、最もわかりやすい形で自らの価値を証明した。
後半43分、藤田譲瑠チマが中盤の底から前線にロングボールを送ると、福田が絶妙な動き出しで相手ディフェンスラインを突破。そのままペナルティエリア内まで侵入し、左足でGKの股を抜くシュートでダメ押しの5点目を決めて見せた。
「出たら絶対に決めるというのが頭にあったので、決められてよかったです」
試合後、報道陣の取材に応じた福田はU-22日本代表での初ゴールを素直に喜んでいた。武器として磨き続けてきたディフェンスラインの背後への動き出しにも、大きな手応えがあったようだ。
「前半を見ていて、(アルゼンチンの)センターバックの両方が広がっていて、間が空いているというのを見つけました。そこに走り込んだら、みんな上手い選手なのでボールは出てくるだろうと信じて走って、あとはシュートに自信あったので、決めちゃいましたね」
自分からアクションを起こしてパスを呼び込むだけでなく、出てきたパスに対して正しい動きで反応することもできた。「練習でいいコミュニケーションをできてきたので、『ありがとうございます』という感じです」と、アシストしてくれた藤田への感謝も口にする。
一方の藤田は「(事前に)そんなに話はしていないですけど」と前置きしながらも「師王がいい動き出しをしてくれた。点差もあったので、少しチャレンジ精神を強くという(意識の)プレーがうまく得点につながってよかったなと思います」と語る。お互いの意図が完璧に噛み合ったゴールだったのは間違いなさそうだ。
では、大岩監督は福田のパフォーマンスをどう評価しているのだろうか。19歳のストライカーを「皆さんが期待しているところも当然考慮しながら」起用したという指揮官は、記者会見で次のように語った。
「師王は『やってやりました』と言っていましたけど、『たまたまだろう』という(笑)。彼はまだまだ発展途上ですので、大きな期待と、しっかりと厳しい目で見続ける必要はあるんじゃないかなと。期待はしています」
それほど長くないコメントの中で、3回も「期待」という単語を使った。神村学園高校からJリーグを経ずに直接欧州へと打って出たストライカーのポテンシャルに、大岩監督は相当大きな「期待」を寄せている。
A代表に招集された細谷や藤尾ら…4-3-3の1トップ争いは熾烈
今回の合宿に向けたU-22日本代表メンバー発表会見でも、大岩監督は福田に言及している。「師王だけでなく全選手に期待しています」という前提あっての発言だが、U-18日本代表監督時代から目をかけてきた“愛弟子”は年上の選手が揃うU-22日本代表に入っても問題ないレベルに成長していると評価していた。
「現段階で(主にプレーしているのは)ボルシアMGIIですけれども、得点を決め、チームでのタスクを非常に高いレベルでやっていると見受けられました。我々グループ(U-22日本代表)のFW陣に負傷者が多く出ている事情もありますけれども、私がU-18代表の監督をしている時も彼を見ていますし、現時点での彼のパフォーマンスを見て、しっかりと戦える、我々のグループに入れるという期待を持って今回の参加の要請をしました」
海外組ゆえ、合宿中に何らかのアクシデントが起きてから追加招集するのが難しいという事情もあっただろう。ドイツでプレーする福田の力を試すならメンバー発表の段階でリストに名前を入れておく必要がある。そのためには「我々のグループに入れる」高い基準をクリアしなければならないが、福田は大岩監督が求めるラインを越えてきたことになる。
ただ、パリ五輪出場に向けた競争を勝ち抜くのは容易ではない。本大会のメンバーは18人に絞られ、その中でストライカーに使われる枠はおそらく2人分。ライバルは多く、皆それぞれに実績も実力も十分な選手たちばかりだ。
パリ五輪世代のチームを立ち上げ当初から引っ張ってきたエースの細谷真大は今季のJ1で13得点して、一足先にA代表へと引き上げられた。FC町田ゼルビアのJ1昇格に貢献した藤尾翔太や、名古屋グランパスで研鑽を積む中島大嘉、アジア競技大会や10月の北米遠征で結果を残した筑波大学の内野航太郎も有力な候補になる。アルゼンチン戦で10番を背負って先発した鈴木唯人も1トップでプレー可能。そして、福田と同じく今回の活動で初招集となった植中朝日も、横浜F・マリノスで急成長を遂げて競争に加わった。
福田は4-3-3を基本システムとするU-22日本代表の1トップ争いに参戦したばかり。立場としては「一番下」と言ってもいいだろう。来年3月の国際Aマッチウィーク期間中に予定されている活動、さらに4月にカタールで開幕するパリ五輪アジア予選(AFC U-23アジアカップ2024)に生き残れなければ、五輪本大会出場は極めて難しくなる。
ボルシアMGでインパクトある結果を―本人も認める「これから」
そのためにもボルシアMGで結果を残し続けることが何より重要だ。ドイツ4部相当のレギオナルリーガ・ウェストで11試合に出場し5得点1アシストを記録している福田だが、先発出場した試合は半分程度。しかも、5得点全てが出場した直近3試合で奪ったものだ。
徐々に出場時間が伸びてゴールも決まり、世代別代表にも招集された。このいい流れをどれだけ継続できるか。あわよくばセカンドチームで圧倒的なパフォーマンスを見せ、トップチームの公式戦デビューを……。パリ五輪への道のりを走り切るには、それくらい大きなインパクトが必要になる。
「まだまだこれからゴールを決めていかないと残っていけないと思っています。(細谷)真大くんみたいにすごいFWの選手がいるので、負けないように頑張っていきたいです」
福田自身の現状認識は、極めて冷静だった。自らの立場をよく理解したうえで「FWの仕事はゴールを決めることなので、これからも謙虚に頑張り続けていきたいと思います」とも語る。短い時間で結果を残しても浮き足立つことなく、むしろあっけらかんとしている。
当然ながら神村学園高校時代から“超高校級”と注目を集めたストライカーへの期待は大きい。その重圧に押しつぶされることなく進化を続け、将来は日本代表を背負って立つ存在に。どんどんステップアップして、自信満々にU-22日本代表を通過点にするくらいでも一向に構わない。
では、アルゼンチン相手にゴールを挙げたことでパリ五輪出場を目指すチームで生き残っていくための自信を掴めたのだろうか。押し合いへし合い周りを取り囲んだ報道陣に向けて、福田は言う。
「まだまだですね、僕は。これからだと思っているので、頑張るっす」
舩木渉
ふなき・わたる/1994年生まれ、神奈川県逗子市出身。早稲田大学スポーツ科学部卒業。大学1年次から取材・執筆を開始し、現在はフリーランスとして活動する。世界20カ国以上での取材やカタールワールドカップ取材を経験し、単なるスポーツにとどまらないサッカーの力を世間に伝えるべく、Jリーグや日本代表を中心に海外のマイナーリーグまで幅広くカバーする。