川崎→町田で開花のきっかけ 松井蓮之が移籍で掴んだ自信、理想のボランチ像【インタビュー】
黒田監督の「繊細」な要求に驚き
今シーズン、プロ2年目を迎えたMF松井蓮之だが、J1リーグでも有数の強豪クラブである川崎フロンターレでは、出場機会が得られていなかった。「本当に悔しい1年半を過ごしてきた」23歳は、J2のFC町田ゼルビアへの育成型期限付き移籍を決めた理由をこう語った。
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「FC町田ゼルビアからオファーをいただいて、J1とJ2という違いはありましたが『試合に出て活躍したい』という気持ちが強くありました。町田がJ2で首位にいることも分かっていましたし、同じポジションにはいい選手がいっぱいいるということも知っていましたが、競争してスタメンの座を勝ち獲って、FC町田ゼルビアのチームの一員として貢献したいという気持ちで、このチームに加入しました」
加入前、「それほど(町田の)映像を見たわけではなかった」という松井だが、法政大時代の同期でもあるFW佐藤大樹から話は聞いていたため、「大体どういうサッカーをするかが分かっていましたし、監督も黒田(剛)監督ということでイメージはできていました」という。
それでも、実際に黒田剛監督の指導を受けると「繊細さ」には驚かされたという。黒田監督が求める「繊細さ」とは何か。
「例えば、シュートブロックをするにしても身体の向きを黒田監督は細かく言っています。ほかにもシュートに対して最後まで逃げずに身体を張ることだったり、セットプレーで相手をマークする時の身体の向きだったりは、日頃の練習から細かく言われています。僕自身、川崎にいた時とは、また別のことを言われることが新鮮ですし、本当に僕のいろいろな引き出しが増えたなというのは、町田に来てとても感じています」
転機となった6月の天皇杯・金沢戦
町田に来て成長を感じている松井だが、町田のスタイルは自分に合っていると感じていたという。町田と川崎のサッカーは、少しオーバーかもしれないが対極にある。ボールをつなぐ川崎に対し、町田はよりダイレクトなイメージがある人も多いだろう。
「佐藤選手のプレースタイルや黒田監督のやっていたサッカーの特徴を考えても、セカンドボールを拾うことや運動量、攻守の切り替えや球際の強さが絶対に必要になってくると思っていました。僕自身、川崎に入る時も自分の良さを買われていたところがありますが、そういうところはフィットするかなと感じていました」
今でこそ中盤でポジションを掴んだ松井だが、加入直後は先発には入れず、短い出場機会しか得られなかった。試合に出続けることができずに、なかなか試合勘やフィジカルコンディションを上げられない。「これでは川崎の時と変わらないと、正直思っていました」という松井に転機となる試合が来る。
「天皇杯の(2回戦ツエーゲン)金沢戦がなかったら、まだ僕はこのようにたくさん試合に絡めていなかったと思います」
松井が何よりも欲していたのは、アピールする機会だった。というのも、松井が加入してからは過密日程だったこともあり、クラブは練習試合ができていなかった。コーチングスタッフから「実際の試合でプレーを見る機会がないから、なかなか評価しづらい」とも言われていたという。
そうしたなかで、金沢戦が千載一遇のチャンスであることを自覚していたとはいえ、松井は「特別な準備はしませんでした」という。それでも自信はあった。
「いつも通りに自分の強みを出せば、評価されると思っていました。そのための準備を常にしてきましたし、特別にあれをしよう、これをしようとは考えずに、自分の良さを出そうと思っていました」
鹿島MF佐野海舟の「ボールを運べる」能力を参考
迎えた6月7日の天皇杯2回戦の金沢戦、前半23分にFW豊田陽平に先制ゴールを許した町田だったが、3-2で逆転勝利。この試合で同点ゴールを決めたのが松井だった。プロ入り後初ゴールには、もちろん喜びや嬉しさもあった。だが、それ以上に「公式戦で90分のゲームで個人としても結果を出せて、試合に勝てたことが一番大きかった」と、アピールできたことに手応えを感じた。
守備面で相手からボールを奪い、攻撃に移ればしっかりした技術でボールを捌く。「さすが、川崎銘柄」と思わせるプレーを見せている松井だが、プロになる時に川崎からのオファーには「ビックリした」のだという。
「大学の1、2年生の時はセンターバックで、3、4年生からボランチを始めました。もともと守備が得意だったので、アンカーをやっていたんです。そこまで技術がなかったのに、川崎からオファーを受けた時はビックリしたんですが、僕のウィークポイントである技術の部分を伸ばしたいと思って川崎に入りました。それができれば、もっともっと上にいけるなという自信はありましたし、川崎に入ってそこは少しずつ良くなったと思います」
川崎から来たことで、ボールをつなげる選手と見られることも多いが、「川崎の選手に比べたらまだまだですし、それがなかったから(川崎で)試合に出られなかったと感じています」と言い、町田に求められるボランチとして評価されたいと続ける。
「本当に上手くボールを扱えるとは思っていないですし、僕はそんなにそこを僕自身に求めていないんです。やっぱりチームが勝つことが今は一番なので、ボールを保持したり、つなぎたい気持ちはありますが、チームに何が必要かを考えてやっています。評価をしていただけるのはありがたいですが、違うところで存在感を出していきたいんです」
「理想とするボランチ像は?」と聞くと、町田ファンには馴染みのある名前が返ってきた。
「面識はないのですが、昨年、町田にいて今は鹿島(アントラーズ)にいる佐野海舟選手。本当にいい選手だなと思っていて、なかなかああいうボランチは日本にいません。年齢は1つか2つ下なのですが、ボール奪取に長けていますし、自分でもボールを運べる。Jリーグでは僕みたいにボールを取れる選手はいますが、自分でボールを前に運べる、推進力のある選手はなかなかいません。佐野海舟選手はボールも取れて、自分でボールを運べて、なおかつ点も取れる。本当になんでもできるボランチだなと感じています。上から目線になってしまいますが、とても見本になるいい選手で、手本にしているというか、ああいう選手になれたらなと思っています」
今オフの去就に関しては「分からない」
こういう質問をすると、海外のスター選手の名前を挙げられることが多いだけに意外だった。だが、松井は「海外の選手は元が違うというか、真似したくてもたぶんできない部分があるので。そもそも海外サッカーもあまり見ないんです。ハイライトとかでは見ますけど、フルで試合を見ることはほとんどありません。それよりも、日本にいる同じポジションのボランチの選手に、ちょっと注目していますね」と、あくまでも選手として自分が向上するためにサッカーも見ているという。
シーズン途中に加入した松井は町田に加入し、クラブ史上初のJ1昇格をJ2優勝という最高の結果で実現させた。選手としての成長もしっかりと感じ取れていることだろう。気になるのは来季だ。レンタル元の川崎に戻るのか、町田でプレーするのか。本人は「まだどうなって行くか分からない」と語ったが、いずれにせよ来季はJ1でプレーする姿が見られそうだ。
11月12日、町田にとって今季の公式戦最後の試合となる第42節のアウェーで行われるベガルタ仙台戦は、松井にとっても成長を示す集大成の試合となる。
[プロフィール]
松井蓮之(まつい・れんじ)/2000年2月27日生まれ、福島県出身。矢板中央高―法政大―川崎―町田。J1通算0試合・0得点、J2通算17試合・1得点。持ち前の対人の強さ、持久力で勝負するミッドフィールダー。今年5月に育成型期限付き移籍で町田の一員となり、9月23日のJ2第36節長崎戦で待望のJリーグ初ゴールを挙げた。