川崎、J1タイトル奪回に失敗も復活の光明 負のサイクルから脱却途上…良いタイミングで上昇機運【コラム】

優勝候補らしい力を取り戻しつつある川崎【写真:Getty Images】
優勝候補らしい力を取り戻しつつある川崎【写真:Getty Images】

柏戦の後半に1人退場した川崎、数的不利も本来の優勝候補らしい力を発揮

 シーズン終盤に入り、ようやく川崎フロンターレが負のサイクルから脱却しつつある。

 第31節の相手は、依然として残留が確定せず16位に低迷する柏レイソル。時期を考えれば、最もやり難い相手とも言えた。

 実際に前半アグレッシブな試合運びで主導権を握ったのは、ホームの柏だった。前日18位の横浜FCが敗れ、17位の湘南ベルマーレも引き分けていたので、ここで勝ち点3を奪えれば一気に残留に近づく。

 前半27分には左サイドからカウンターを仕掛けて細谷真大がゴールネットを揺するがオフサイド。同30分にも細谷のシュートがポストを叩くが、遂に同40分に均衡を破る。

 自陣でブロックを作る柏は、川崎の瀬古樹が縦に入れたミスパスをマテウス・サビオにつなぐと、大きくスペースが広がる右サイドを駆け上がる山田雄士へと渡り先制。川崎は直前に家長昭博が最終ライン近くまで降りてビルドアップに参加しており、左サイドバック(SB)の登里亨平を最前線近くまで上げていた。逆に柏は川崎のSBが高い位置取りをした際に裏を突くカウンターを意識し続け、格好の時間帯に完結させた。

 後半に入っても、ゲームの流れは柏優位に推移しかけた。追いかける川崎は、後半開始から瀬古に代えて、最近好調の遠野大弥を送り出す。ところがその遠野が8分前後で退場処分を受けてしまうのだ。

 ただしここから川崎は、本来の優勝候補らしい力を引き出した。10人になった時点で鬼木達監督は、バフェティンビ・ゴミス1人をトップに配す4-4-1を選択するが、すぐに家長も最前線に加える4-3-2に変更。「構えるのではなく、前に出る」という姿勢を明確にする。こうした流れから、橘田健人の同点ゴールが生まれた。

 今年の川崎は、センターバック(CB)を中心に故障者が続出したこともあり勝負弱さが目立った。節目の重要な試合で、せっかく主導権は握りながらも決定機を活かせず、あるいは決定機の創出にも至らず、競り負けることが相次ぎ早い段階で優勝戦線から脱落した。

 プレーし続けた中心選手たちのパフォーマンスは必ずしも悪くはなかった。それどころか、脇坂泰斗などはJにいるのが不思議なほど傑出した存在だし、山根視来、家長の右サイドは一貫して創造性を示し、マルシーニョのスピードも常に脅威を与えてきた。また橘田は、この日の同点ゴールにも象徴されるように広範な動きとともに、フィニッシュの能力を高めており、AFCチャンピオンズリーグ(ACL)でも強烈なミドルシュートを連発している。

川崎の最前線と最後尾に明らかなプラス材料、ここでの復調はACLも考えれば好都合

 この日の柏戦での光明は、最前線と最後尾に明らかなプラス材料を確認できたことだった。最前線に君臨する元フランス代表のゴミスは、4年前のアル・ヒラル時代にACL決勝で浦和レッズを一蹴した頃は、まだ別格の凄みを見せつけていた。だが38歳になり今年川崎に加入してからは、まったくコンディションが整わず別人のように精彩を欠いていた。

 当初鬼木監督は「ゴミスに入ると何かが起こる予感」と話していたが、むしろ起用そのものに疑問しか残らないほどの内容だった。しかし柏戦では、盛んにボールを引き出しコンタクトの強さも見せてフィニッシュにも絡んだ。レアンドロ・ダミアンとの併用という指揮官の判断にも頷けるだけの価値を示し、今後のチームとしての可能性を広げた。

 一方最後尾では復帰したジェジエウが、圧倒的な身体能力で安定感を担保。こうした要素が絡まって、負けに傾きかけた試合を引き分けに持ち込んだわけだが、それを牽引したのがリーダーの自覚とともに90分間をフル稼働して、ホイッスルとともにピッチに座り込んだ脇坂だったことも見逃せない。

 復調途上の川崎は、今ならチャンピオンを目指せる力を取り戻しつつある。また幸い川崎のシーズンは先が長い。12月には天皇杯決勝を控え、ACLは勝ち進めば来年の5月まで続く。J1のタイトル奪回には失敗したが、秋春制に変わったアジアのカレンダーを考えれば、ここで調子が上向いてきたのは、むしろ好都合かもしれない。

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加部 究

かべ・きわむ/1958年生まれ。大学卒業後、スポーツ新聞社に勤めるが86年メキシコW杯を観戦するために3年で退社。その後フリーランスのスポーツライターに転身し、W杯は7回現地取材した。育成年代にも造詣が深く、多くの指導者と親交が深い。指導者、選手ら約150人にロングインタビューを実施。長男は元Jリーガーの加部未蘭。最近選手主体のボトムアップ方式で部活に取り組む堀越高校サッカー部のノンフィクション『毎日の部活が高校生活一番の宝物』(竹書房)を上梓。『日本サッカー戦記~青銅の時代から新世紀へ』『サッカー通訳戦記』『それでも「美談」になる高校サッカーの非常識』(いずれもカンゼン)、『大和魂のモダンサッカー』『サッカー移民』(ともに双葉社)、『祝祭』(小学館文庫)など著書多数。

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