上田綺世の前で圧巻2発…立ちはだかるフェイエノールトの怪物FW 「ストライカーとはかくあるべき」の姿【現地発】

フェイエノールトでプレーするサンティアゴ・ヒメネス【写真:ロイター】
フェイエノールトでプレーするサンティアゴ・ヒメネス【写真:ロイター】

上田綺世が所属するフェイエノールトのメキシコ代表FWヒメネス、CLラツィオ戦で2発

 ストライカーとはかくあるべき。

 フェイエノールトのメキシコ代表FWサンティアゴ・ヒメネスはホームにラツィオを迎えたUEFAチャンピオンズリーグ(CL)グループステージの一戦(現地時間25日第3節)で、その才能を見事に披露した。

 ラツィオの4バックは丁寧かつクレバーにラインコントロールするなか、ボール位置に応じてポジショニングを随時調整し、身体の向きも合わせる。ラインをできるだけ高く押し上げながら、ロングボールが来そうな気配がする際にはスッと下がって対応する。

 試合開始直後からハイ・インテンシティーで押し込もうとするフェイエノールトだったが、前半途中からラツィオがゲームを落ち着ける時間帯も増え、押し込んでいるように見えてもシュートシーンまで持ち込めない少しじれた展開が続いていた。

 ラツィオの試合巧者ぶりにコントロールされてしまうのかと思われたが、そんな流れに変化をもたらしたのがCLデビュー戦となったヒメネスだった。

 前半10分に左サイドからのクロスに高い打点のヘディングシュートを放ってラツィオゴールを脅かすと、同30分にはラツィオのセンターバック(CB)間の背後のスペースに抜群のタイミングで走りこんだ。両CBに挟まれる形でチェックを受けながらも、そのままゴール方向へと突き進んでいく。辛うじてクリアしようとした相手DFの足ではじかれたボールは、弧を描いてラツィオゴールに吸い込まれた。ゴールを確信したフェイエノールトサポーターは爆発的な歓声で喜んだが、パスを受けたシーンでわずかにオフサイドという判定でノーゴールとなった。

 せっかくの先制点が取り消されて意気消沈……。そんなわけがない。チームもファンもギアをさらに入れて、前からより一層押し込もうとする。そして前半31分だった。ゴールを背にボールを受けたヒメネスが振り向きざまに見事なシュートを放つと、これがゴール左へと決まったのだ。

 ボールに多く触っているわけではないし、守備で連続プレスをし続けているわけでもない。だが相手DFとの距離感を適度に保ちながら、時に全く動かず、時に小刻みに動いて、ボールが来たら怖いアクションをできるぞというタイミングを見計らい続ける。

 4バックの相手に対して斜めに裏を突く動きが上手いし、味方の攻撃に対して相手DFがどこに立ち、どこを見て、どこを守ろうとしているかをスキャンしながら、少しずつ距離を取り、最後の瞬間にスッと動いて自分の空間を創造する。

 彼の持つ間合いでボールが入ると、シュートへ持ち込む怖さがあるから、味方選手もヒメネスを常に視野に入れながらプレーする。後半29分にはクインテン・ティンバーのシュートをGKがはじき、そのこぼれ球をヒメネスが丁寧に流し込んでこの日2ゴール目をマークした。

上田は後半34分にヒメネスと交代で途中出場、試合後には勝利の喜びを分かち合う姿

 オランダのテレグラフ紙は「アルネ・スロット監督やファンに、フェイエノールトにおいて『フェノメーノ』(超常現象、怪物の意)であることをこれ以上証明する必要はないだろう」と称賛。昨季公式戦45試合23ゴールを挙げ、今季公式戦10試合15ゴールの22歳ストライカーのさらなる発奮と成長には、日本代表FW上田綺世の加入による刺激が少なからず影響していることだろう。

 一方の上田はこの日ベンチスタート。後半34分にヒメネスと交代でピッチに姿を現したものの、すでに3-0とフェイエノールトが優位に立つ状況も影響し、なかなかボールに触れない時間が続いた。その後、ラツィオに1点を決められたものの、3-1で試合終了のホイッスルを聞くことになった。

 指揮官やファンから絶大な信頼を得ているヒメネスからポジションを奪い取ることは容易ではない。だがそれも覚悟のうえでの移籍だったはず。そして試合後、チームメイトと笑顔で勝利の喜びを分かち合っている上田の姿から、確かなつながりを同僚たちと築いていることを感じさせられた。

「上田の起用がチームにとって間違いなくプラスになる」という評価を少しずつ勝ち取り続け、出場時間とプレー機会を増やしていきたいところだ。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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