今季初得点の堂安律、右ウイングバック起用に隠された指揮官の意図 「彼らしいプレーを取り戻すため必要だと思った」【コラム】

ボーフム戦に右WBで出場した堂安律【写真:Getty Images】
ボーフム戦に右WBで出場した堂安律【写真:Getty Images】

堂安が待望のゴール、ボーフム戦で2-1勝利 フライブルク監督「満足している」

 ブンデスリーガ第8節、堂安律がプレーするフライブルクは浅野拓磨が所属するボーフムにホームで2-1と勝利した。ボーフムFWゴンサロ・パシエンシアに年間最優秀ゴールに選ばれてもおかしくないほどの素晴らしいゴールを許したが、それに対して反撃の狼煙を見事に上げたのが堂安だった。

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 長かった。9試合目で今季初ゴールだ。

 10月の代表週間では日本代表から外れ、親知らずの抜歯を行っていた。この日は右ウイングバック(WB)でスタメン出場。フライブルクで堂安がこの位置で起用されたのは初めてだ。守備時は相手サイドバック(SB)の攻め上がりを警戒しながら、スピードのあるボーフム攻撃陣をケア。攻撃時にはボランチのマクシミリアン・エッゲシュタインがサイドへ流れてパスを引き出し、堂安はより攻撃的に関与するというタスクだった。

 これまで右WBにハンガリー代表ローランド・シャーライ、堂安がオフェンシブハーフに入る布陣が多かったが、これを逆にした理由はどこにあったのだろうか。試合後の地元記者との囲み取材でクリスティアン・シュトライヒ監督に直接質問をしてみた。

「(堂安)律にはアウトサイドで上下動をするタスクを持ってプレーしてもらった。サイドラインとともにプレーをしてもらいたかった。彼らしいプレーを取り戻すためにはラインが必要だと思ったんだ。そしてサイドラインからゴールへ向かうというプレーをイメージしてもらった。そうしたらゴールへの危険性も出てくると。逆にシャーライをアウトサイドではなく、センターで起用する決断をした。そこからだとローランドの良さもでるし、堂安もプレーがやりやすくなるというイメージだった。それが上手く機能するかは分からなかったが、試してみようと思った。満足している」(シュトライヒ監督)

 前半26分、堂安の身体が跳ね上がった。右サイドからビンツェンツォ・グリフォがクロスを送ると、ファーポスト際で飛び込んできた。目一杯飛び上がり、ヘディングでクリアしようとする相手DFの前に、文字通り身体ごとねじ込むように入り込んでヘディングでゴールを決めた。ギュッと両手を握ってガッツポーズして仲間にもみくちゃにされた。

堂安の一撃、指揮官の印象は? 「いやいや、律は(ヘディングだって)できる選手だよ」

 堂安のギアはさらに上がる。右からのパスをアウトサイドで流してチャンスにつなげ、前半40分にはオーストリア代表フィリップ・リーンハートの浮き球パスに抜群のタイミングで抜け出すとダイレクト左足ボレー。GK正面を突きゴールとはならなかったが、このシーンでホームスタジアムのボルテージはさらに上がっていく。

 決勝点となるPKにも堂安は絡んだ。左サイドからのテンポのいい攻撃からゴール前に来たボールをスムーズにコントロールした堂安が、FWマキシミリアン・フィリップへパス。ワントラップからの振り向きざまシュートが相手の手に当たり、ハンドの反則でPKとなった。これを名手グリフォが落ち着いてゴール右へ決めて逆転に成功した。

 後半に入っても、好プレーを随所に見せる堂安は後半にもフィリップのパスから連続でシュートを放つなど、前線で存在感を発揮。チームは追加点を挙げることはできなかったが、ホームで貴重な勝ち点3を勝ち取った。堂安個人としても、チームとしても、結果だけではなく、内容的にもらしさが戻ってきた一戦だっただけに、今後に向けて確かな弾みをつけられる試合になったに違いない。

 ゴールシーンについてシュトライヒ監督にもう1つ聞いてみた。

 堂安のゴールにはどんな印象を受けたのだろうか? ヘディングでゴールを決めたことに驚きがあったのだろうか?

「いやいや、律は(ヘディングだって)できる選手だよ。そしていいタイミングでスペースに入り込むことができる。アウトサイドで待つのではなく、外から中へ入り込むと、中にいるDFはボールが来るのを待つことになる。その前に上手く入りこんだら、ゴールを決めることはできる。あのゴールは彼の自信にとって、とてもいいものになることを祈っているよ」(シュトライヒ監督)

 そしてこちらにニコッと笑って「OK?」と口にし、颯爽と記者会見場から去っていった。指揮官からの信頼は今も変わらず高い。チームの調子も少しずつ上ってきている。堂安のここからの活躍ぶりに期待したい。

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中野吉之伴

なかの・きちのすけ/1977年生まれ。ドイツ・フライブルク在住のサッカー育成指導者。グラスルーツの育成エキスパートになるべく渡独し、ドイツサッカー協会公認A級ライセンス(UEFA-Aレベル)所得。SCフライブルクU-15で研修を積み、地域に密着したドイツのさまざまなサッカークラブで20年以上の育成・指導者キャリアを持つ。育成・指導者関連の記事を多数執筆するほか、ブンデスリーガをはじめ周辺諸国への現地取材を精力的に行っている。著書『ドイツの子どもは審判なしでサッカーをする』(ナツメ社)、『世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書』(カンゼン)。

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