正守護神と長友に代わるムードメーカー不在…森保監督の「ハプニング力」でも解決できていない課題【コラム】

森保一監督を悩ませる2つの課題とは【写真:徳原隆元】
森保一監督を悩ませる2つの課題とは【写真:徳原隆元】

強い森保ジャパン…根底に潜む2つの問題点を分析

 森保一監督率いる日本代表は、10月シリーズもまたハプニングに悩まされた。

 プレーメーカーの鎌田大地と、10番を付ける堂安律はコンディション不良で不参加。さらに三笘薫も辞退し、奥抜侃志が代わりに招集されたものの、発熱のために2試合とも出場できなかった。前田大然も怪我で不参加。左MFとしてプレーした中村敬斗は第1戦のカナダ戦で負傷した。伊藤洋輝と前川黛也も途中離脱となってしまった。

 森保監督は、事前に想定していたテストをすべては試せなかっただろう。だが、実はそれも森保監督らしいかもしれない。

 というのも、森保監督にハプニングは付きものなのだ。2018年、就任して最初の試合は地震のために中止になった。その後、もっとも大きかったのは新型コロナウイルスの流行で親善試合ができなくなり、東京五輪が1年延期になった。4バックで進めてきたA代表と3バックで構築してきた五輪代表を融合させる日程は1年ずれたうえに、2022年のカタール・ワールドカップ(W杯)アジア最終予選でどこまでできるか試さざるを得ない状況になった。

 だが、それもすべて日本代表の力になった。「災い転じて福と『した』」のだ。

 その最たる例が日本代表の選手層が広がったことだろう。森保監督は「3月〜10月でいくと、人数は数えてないですけど 3チーム分ぐらいは編成できるぐらい選手を起用させてもらって、選手たちもいいパフォーマンスを見せてくれたと思います。プラス国内組だけの編成とかも考えると、 それでもアジアの中では勝っていけるだけの戦力を作れるかなとは思います」と、4チーム分近い選手が現在の日本代表でプレーできると語る。もしもレギュラークラスの選手が毎回健在だった場合、ここまで広がることはなかったはずだ。

 また、W杯予選などの重要な試合の前に親善試合を組み、調子を整えることが新型コロナウイルスの影響下ではできなかった。そのため、試合の前日に全員が集合し、1時間の公式練習で本番に臨むという厳しいスケジュールが続いた。

 だが、森保監督が2018年のロシアW杯の反省から「ピッチの中の選手が自主的に判断してプレーする」ことを指向していたため、個人の能力を最大限引き出しながら戦っていくという策を取れたため、難局を乗り切ることができた。と同時に、個々人の力が生かしやすいチームになった。

 そんな森保監督でも現在のところ解決できていない、隠れている問題点が2つある。

10月の代表シリーズで出場機会を得た大迫敬介と鈴木彩艶【写真:徳原隆元】
10月の代表シリーズで出場機会を得た大迫敬介と鈴木彩艶【写真:徳原隆元】

鈴木と大迫に同時に経験を積ませないと…

 1つはGKだ。監督はいよいよ始まるW杯予選の選手起用について、「公式戦になればより固定して戦うということはあり得る」と明言しており、このままなら大迫敬介が一番手として起用されていくことだろう。

 だが、その大迫にしても日本代表の出場経験はわずか6試合。2018年9月に森保監督が就任した時、権田修一が3試合だったのに比べればまだいいかもしれない。ただしその時はベテランの東口順昭、さらにはW杯に3大会連続出場した川島永嗣という経験豊富な選手たちが揃っていて、バックアップ体制は取れていた。

 2022年のカタールW杯メンバーだったシュミット・ダニエルがカバーできれば一番いいだろう。ただ移籍できなかったことで宙に浮いた状態になり、8月27日以降は所属するシント=トロイデンで出場機会を得ることができていない。そのため大迫に何かあった時、すぐに取って代われるかというと不安が大きい。しかもそのシュミットも代表経験は14試合と、さらに経験を積まなければならない選手なのだ。9月のトルコ戦で右肩を痛めた中村航輔にしても代表経験はまだ8試合しかない。

 一方で、大迫と同世代以下には期待されるGKが顔を揃える。その中で10月は鈴木彩艶が出場機会を得て、2キャップ目を手にした。だが後半アディショナルタイム1分、冨安健洋からのバックパスとの連係が合わず、誰もいないゴール前をボールが横切るという事態が生まれた。

 森保監督は「我々スタッフとしても、どういうふうにボールを動かすか、受け方で、GKの使い方っていうところは考えていかなければいけない」と自身にベクトルを向けたが、この場面はGKに代表経験が少なく、コンビネーションができていないことの典型例だろう。

 ならば、鈴木ももっと使わなければならない。しかし、大迫の経験も増やしていかなければならない。1989年生まれの権田と1999年生まれの大迫の間に代表経験豊かなGKが存在しない以上、ここは育てるしかない。そしてその育てるチョイスを誰にするかという非情な選択が迫られている。

ムードメーカー長友佑都の後継者は?【写真:ロイター】
ムードメーカー長友佑都の後継者は?【写真:ロイター】

チームを盛り上げていた長友に代わる存在が今は見当たらない

 2つ目の潜在的な問題は、練習風景の中から浮かび上がってくる。

 日本代表の練習が始まる時、一番元気なのは名波浩コーチだ。「から元気が足りないぞ!」という大声が響き渡る。

 とにかく今の日本代表は静かだ。みんな淡々とトレーニングをこなしていく。選手をカタールW杯から大幅に入れ替えたわけではないので、人見知りしているということでもないだろう。

 3月こそウルグアイに1-1で引き分け、コロンビアに1-2と敗戦を喫したがその後は6連勝。チームとしては非常に上手くいっていると言えるだろう。そんな状態なら、この静かさも問題ないかもしれない。

 だが、今後必ず訪れるであろうピンチを考えると、少々の不安が残る。過去10年以上、日本代表が苦しくなってきた時は、無理矢理でも雰囲気を盛り上げ、選手たちの顔を上げさせる存在の選手がいた。

 日本代表に新しい選手が入ってくるとすかさず輪の中に入れ、言葉をかけ、笑わせたり、敗戦のあとにことさら大声でミスした選手を勇気づけたりしていた長友佑都に代わる存在が今は見当たらないのだ。

 ここまでに手痛い敗戦があれば、誰かがその役を担うか分かったかもしれない。しかし今のところ順調にいきすぎている故に、一度追い込まれた時、誰がどうやってチームを前に向かせるのか、まだ判明しない。

「いざとなれば誰かでてくる」という考えもあるだろう。そしてできればその「いざという時」には来てほしくない。また、遠藤航のリーダーシップには期待できる。それでも前回のW杯最終予選、2敗して追い詰められた日本を鼓舞していた存在がいないことは、大きな不安要素でもある。

 一番恐ろしい解決策は、11月のミャンマー戦でGKとDFの連携の問題がすべて表面化し、敗戦を喫して、そのチームを立ち上がらせる存在の選手が明らかになることだ。そんな「ハプニング」が起きないことを心から願っているのだが……。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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