中村俊輔伝説 今もグラスゴーで語り継がれる、2本のフリーキックの奇跡

今も変わらぬ日本人レジェンドへのリスペクト

「もうこの目が信じられかったよ。おれにとっては間違いなく最高のフットボール・モーメント(最高のサッカーの瞬間)だったね。興奮したよ。あまりにも感動して涙が止まらなくなった。これが奇跡かと思ったよ。“本物の奇跡を見た”って、そういう厳かな気持ちにさえなったんだ。あの日を境に中村俊輔はレジェンドになった。あのフリーキック2本は、我々セルティック・サポーターにとって、永遠に語り継ぐべき伝説なんだ」

 まるで昨夜に起こった出来事を聞いているようだった。マットの話にはそんな生々しい興奮と喜びがあった。英国でサッカー、いやフットボールは宗教だといわれるが、神が奇跡を起こして人間を感動させると同時に畏怖させ、永遠の信心を誓わせるのと同様、あの2発のフリーキックで中村俊輔というひとりの日本人フットボーラーは、セルティック・サポーターの神殿に祭られる神となった。

 駅からスタジアムの車中はわずかに15分ほどの時間だった。しかしそこには俊輔に対する濃密なセルティック・サポーターの思いが充満した。

 そんなマットに送られて、日本人の神が祭られたセルティック・パークに到着すると、球場のスタッフに「こんばんわ」と挨拶された。それも日本人レジェンドに対する、永遠のリスペクトと好意の表れだろう。

 所属していた欧州クラブに公式戦に招待され、そのハーフタイムでサポーターとの再会を果たす。そんな待遇を受けた日本人選手はこれまでにいなかった。

 しかし、グラスゴーにはマットのように、熱く伝説を語り継ぐ俊輔信者がそれこそごまんといるのだ。

 だからして、中村俊輔が5年半振りに訪れるセルティック・パークで万雷の歓迎を受けること、それは火を見るより明かなことなのである。

【了】

森昌利●文 text by Masatoshi Mori

ゲッティイメージズ●写真 photo by Getty Images

 

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