ブラジル代表を彷彿…快勝カナダ戦で見えた日本代表の進むべき道 機能美を備えた極限のスタイル追求【コラム】

ブラジル代表のような極限のスピードサッカーを披露したカナダ戦の日本代表【写真:徳原隆元】
ブラジル代表のような極限のスピードサッカーを披露したカナダ戦の日本代表【写真:徳原隆元】

【カメラマンの目】ブラジル代表と重なった森保ジャパンのスピードあふれる攻撃

 次々とスピードに乗った攻撃からゴールを記録していく日本代表をゴール裏から見ていて、昨年のカタール・ワールドカップ(W杯)を戦った強豪ブラジル代表のプレーが頭の中に浮かんだ。

 話は過去に遡る。2006年ドイツW杯で日本代表の指揮を執ったジーコは、チームが目指す方向を彼の出身国であり、サッカー界においてその名を世界に轟かす大国ブラジルへと近付けることに定めた。

 ジーコはブラジル人らしく見る者を魅了する、芸術的性の高いサッカーこそが最上のスタイルであるという信念を持ち、指導者となってもその実現への追求に力を注いだ。彼が目指したのは現役時代に自らが中心選手としてプレーした、歴代のセレソンのなかでも傑作の1つとして人々の記憶の中に深く刻まれている、中盤に黄金のカルテットを有した82年スペインW杯を戦ったチームだった。

 当時の日本には、その思いを実現させるメンバーが揃っていた。中田英寿、中村俊輔、小野伸二、稲本潤一とかつてない才能にあふれた選手が同時に顔を揃え、「黄金の中盤」を中心にジーコは理想への具現化に挑む。しかし、最終的にこの試みは成功したと胸を張る結果とはならなかった。

 失敗の原因は、ジーコが選手たちの能力に依存しすぎたからだ。ブラジルはチームスポーツであるサッカーにおいて、個人能力が戦術を上回る例外的な集団でもある。あまりにも戦術を重視すると、選手たちが秘めている圧倒的な技術が霞んでしまうことになるからだ。

 しかし、だからと言って戦術を無視し、好き勝手にプレーをしているわけではない。このチームにおける個人技と戦術の比重の分配は非常に難しく、監督としての経験が乏しかったジーコは、チーム作りにおいて選手個々の能力に頼る度合いが強く反映されることになる。その結果、チームとしての完成度を高められず、それに連鎖するように才能のある選手たちの個人能力も十分に引き出すことができずに終わる。日本をブラジルへと近付けるというジーコの思いは成就しなかった。

右サイドで躍動した伊東純也【写真:徳原隆元】
右サイドで躍動した伊東純也【写真:徳原隆元】

日本代表で光った縦パスの意識、メリハリが利いていた個人技とチーム戦術のバランス

 時は流れて22年カタールW杯を戦ったブラジルは、現代サッカーにマッチした姿に変貌を遂げていた。そのスタイルは華麗なサッカーの表現者というよりも、高い技術に裏打ちされた正確な基本プレーを根幹に、回り道などをせずゴールへと突き進む、極限のスピードサッカーを追求する集合体という印象を受けた。

 情報化社会となりサッカーの研究がより高まり、科学的トレーニングで鍛え上げられた肉体とチーム戦術を駆使して対抗してくる相手に、もはやブラジルといえども“らしさ”を見せることは簡単ではなくなっているのだ。

 今のブラジルのスタイルは局面を突破する際にはテクニックで打開しながらも、チームとしての連動した崩しによる機能美の度合いが増している。

 カナダ代表戦で見せた日本のプレーは、そうしたブラジルのスタイルと似ていると感じた。後方でのボール回しが減り、前方に位置する選手へとつなげる意識を高く持ち、ドリブルとパスの両面で素早くゴールを目指すスタイルは、カタールW杯で見せていたブラジルの戦いぶりと近い。

 特にボールを運ぶうえで縦パスの意識が高まっていることが強く印象に残った。浅野拓磨らFW陣が積極的に前線からプレスを仕掛けて相手の動きを封じ、各選手がシンプルにより前線にいる味方へと縦パスを送って相手ゴールへと進出するプレーには迫力があった。毎熊晟矢と中山雄太の両サイドバックも横パスの受け手にとどまらず、積極的にオーバーラップを仕掛けて攻撃に厚みを加えていた。

 さらに前線の伊東純也と中村敬斗も得意のドリブル突破を活かしながら、周囲との連係も意識し効果的なパスを味方に送るなど、ピッチで表現された個人技とチーム戦術のメリハリがはっきりとしていて、バランスが非常に良かった。

 ただ、このスタイルはブラジルが見出した独自のものというより、現代サッカーにおいて勝利するためのトレンドと言っていいだろう。ブラジルでさえ華麗なサッカーに固執せず、攻撃に転じた際には時間をかけずにいかに早く攻略できるかを考えているのだ。

3月シリーズでは日本の攻撃が停滞、カナダ戦で見せた贅肉を削ぎ落としたプレー

 カタールW杯を戦い終え、第2次森保政権がスタートした3月シリーズでは、ポゼッション率を高めようとするあまり、攻撃スピードが停滞し閉塞感のあるパフォーマンスに終始した。

 ポゼッション率を高めたところで、横や後方へのパス回しでは相手にとって脅威とはならない。もはやボール支配率の追求は、現代サッカーにおいて必ずしも勝利への正しい方法ではないのだ。何より今回のように無駄に手数をかけないことによって贅肉となるプレーを削ぎ、身軽となったサムライブルーの動きは鋭さが増し、その結果ゴールラッシュを生んだ。

 試合後のマッチレポートに目を通すと、ボール支配率はカナダの53.6%に対して日本は46.4%と下回っている。だからといって日本が劣勢であったか。いや、そんなことはなかった。ゴール裏からカメラのファインダーを通して見た、このカナダ戦でのサムライブルーの戦いぶりはまったく悪くなく、今後の進むべき道が明確となった試合だった。

徳原隆元

とくはら・たかもと/1970年東京生まれ。22歳の時からブラジルサッカーを取材。現在も日本国内、海外で“サッカーのある場面”を撮影している。好きな選手はミッシェル・プラティニとパウロ・ロベルト・ファルカン。1980年代の単純にサッカーの上手い選手が当たり前のようにピッチで輝けた時代のサッカーが今も好き。日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。

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