第2次森保ジャパン発足後の“異変” 名波コーチが練習で指示出し…指揮官が主導しないスタンスを取る理由【コラム】

第2次森保ジャパンが発足したあとに起こっている変化とは【写真:Getty Images】
第2次森保ジャパンが発足したあとに起こっている変化とは【写真:Getty Images】

日本代表の練習後、それまでと違った光景が…

 第2次森保ジャパンが発足したあと、それまでと違った光景がある。練習後、コーチ陣が外で一堂に集まり話をしているのだ。

 当然ながら森保一監督もそこにいる。3月は森保監督と名波浩コーチが話し込んでいるところに前田遼一コーチと斉藤俊秀コーチが加わった。今回からは船越優蔵コーチも含めて長い時間話し込んでいる。

 雨が降っていても関係ない。選手たちが次々に取材対応を終えていくなか、コーチたちの話は延々と続く。

 森保監督を中心にコーチたちが集まることもある。森保監督が話す時に直立不動で聞いている様子は日本代表の厳しさを思わせる。だが、ある時はコーチ同士が話をしている時に森保監督が途中で現れ、意見を言って先に離れることもある。

 毎回の練習後に見ることができるこの光景は、さながらコーチングについての「森保塾」のようだ。

 今回の合宿ではたまたま風に乗って話している話題が聞こえてきた。直前の練習について、「ジョーカー」と呼ばれるフリーマンを2人置いていたが、その人数が適当だったのかどうかという議論のようだった。

 また関係者の話を集めると、森保監督はその時話し合っていることについて、「結論」として話をするのではなく、それぞれの意見を引き出して、それについて時折コメントする、というスタンスのようだ。

 つまり「森保塾」は、森保監督を中心としているものの、ほかのコーチが教えを請うているわけではなく、毎日熱心な議論が行われている場ということになるのだろう。

 こうやっていろいろなコーチが成長しているとともに、それが森保監督に還元されている。この「森保塾」も「他力本願」に通じるものがあるのではないだろうか。

「他力本願」はよく誤用で「他人任せ」という、よくない意味で使われる。だがもともとは仏教用語で、自らの悪行を悟り、自分の修行によるものではなく「阿弥陀仏」の力で成仏するという意味だ。悪い意味では決してない。

「通じる」と書いたのは、森保監督は自らの力だけでワールドカップ(W杯)で勝とうとしているのではないというのが見えるからだ。ほかの人たちの力をどう自分に結びつけるのか考えているように思える。阿弥陀仏にすがるのではないが、自分の力の限界を感じ、選手やスタッフの力を結集して勝利を収めようとしているのが見えるのだ。

「森保塾」で研鑽を積むことで、より良い方向を目指す

 2022年カタールW杯の時は、2018年ロシアW杯の時に出た日本代表の課題、「刻々と変わる状況に選手が臨機応変に対応する」の解決に、選手の自主性を尊重することで対応した。

 カタールW杯で出てきた課題、「もっとボールをつないで主導権を握る戦いをすること」は、新コーチを加えて、そこで解決しようとしている。実際、練習の時にはほとんど名波コーチが指示を出し、森保監督はそこで見守ることに専念している。

 カタールW杯後は、攻撃担当のコーチ、守備担当のコーチを束ねるマネジメントという役割が大きくなった。だが単にコーチに任せるだけではなく、お互いに「森保塾」で研鑽を積むことで、より良い方向を目指しているのだろう。

 実際、10月の練習は6月のトレーニング内容がシェイプアップされ、さらに細かな修正が加えられていた。3月と6月では大きく違っていたのだが、その後は6月の練習内容をベースにして現在の日本代表は進んでいる。これも「森保塾」の成果と言えるだろう。

 加えて森保監督は日本サッカーの底上げを意識しているのではないかという事例も多数見つかる。まずはコーチの集め方。これまで、代表チームにコーチとして加わるのは五輪代表監督が多かった。そのため日本代表と五輪代表の考えの共有はできた。森保監督は東京五輪の監督も務めていたため、選手起用などに関してもメリットを感じたことだろう。

 だが、今回U-18日本代表の船越監督をコーチに加えたように、育成世代へのアプローチも行っている。コーチとして加えなくても、育成世代の担当者とミーティングを重ね、情報を共有するとともに意見交換も行っている。育成世代を担当したことがある森保監督ならではだが、そうやって幅広い世代に対して壁を作らないことで、日本サッカー全体の底上げをしていこうという姿勢が見える。

 また、コーチの年齢も、名波コーチと斉藤コーチが50歳、船越コーチ47歳、前田コーチ42歳と、少しずつずらして広い指導者の層に自分が得たノウハウを伝えている。

 行っていることは理想的だし、監督という不安定な立場の人物がなかなかできることではない。これも、実績が評価されて続投することができたからこそ実行できたと言えるだろう。

 もっとも、勝負の結果によってはすべてが否定されてしまうこともあるのがこの世界。理想がいつまでも続けられるよう、森保ジャパンは勝ち続けなければいけない。

(森雅史 / Masafumi Mori)



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森 雅史

もり・まさふみ/佐賀県出身。週刊専門誌を皮切りにサッカーを専門分野として数多くの雑誌・書籍に携わる。ロングスパンの丁寧な取材とインタビューを得意とし、取材対象も選手やチームスタッフにとどまらず幅広くカバー。2009年に本格的に独立し、11年には朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)の平壌で開催された日本代表戦を取材した。「日本蹴球合同会社」の代表を務め、「みんなのごはん」「J論プレミアム」などで連載中。

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